元米国ファーストレディが語る、不安の多い世界との向き合い方
ミシェル・オバマ『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』レビュー
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『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』
著者:ミシェル・オバマ
書評:桐野夏生(作家・日本ペンクラブ会長)
二年前、ニューヨークに長く住んでいた私の友人がハワイに転居した。そのニュースを聞いて、あれほどニューヨークを愛していた彼女がなぜ、と不思議でならなかったが、その問いに対する彼女のメールはこうだった。
ニューヨークのアジア人排斥が目に余って耐えられなかった、というのである。「人種のるつぼ」だの「人種のサラダボール」だのと喩えられ、多様性を誇ったはずのニューヨークだが、トランプ政権とコロナ禍のせいで様変わりしているらしい。
そんなにアメリカは変わったのだろうか。そう聞くと、今は保守とリベラルと真っぷたつに分かれている、と分断された状況を詳しく話してくれた。彼女は白人女性だが、日本で生まれ育ち、日本人の友人も多い。だから、露骨な人種差別や、意見の違いを暴力にまで置き換えようとする人々の存在を許せなかったという。
かつてバラク・オバマが大統領になった時、アメリカは大きく変わると思って期待した人は多かった。初の黒人大統領であり、若々しく清潔な外見はまさしく「チェンジ」を体現していた。
そして、オバマ氏とそう変わらない立派な体格をしたミシェル・オバマも、とても魅力的だった。まずファッションが違った。歴代の大統領夫人が地味なワンピース姿に、パールのネックレスやブローチ、という控えめな格好をしていたのに比して、ミシェルは華やかなプリントのドレスを着て、大ぶりのアクセサリーをつけていた。
さらに、大衆的なブランドであるJ.CREWの服を好んで着ていることも、好感を抱かせた。彼女は、歴代の大統領夫人のような特権階級ではなく、私たちと同じようにリーズナブルな可愛い服や小物を好む今の女性なのだ、と。そして、オバマの横に堂々と立つ姿は、夫と対等に生きる強い女性を感じさせた。
本書は、そんなミシェル・オバマの考えをあますところなく伝えている。それは、黒人女性という二重のマイノリティである彼女が、どう不安と向き合い、不安の中で、どう自分を確立してきたかという闘いの歴史でもある。
「二重のマイノリティとして生き、どこよりもインサイダーのつながりが強いそれらの場所でアウトサイダーとして生きる経験から学んだこと」が、「相手が低レベルだったとしても、わたしたちは気高く生きる」ことだとミシェルは言う。
それがどんなに険しく難しい道かは、今のアメリカの社会状況を見ればわかるだろう。オバマの時代は終わり、社会は確実に混迷している。しかし、「気高く生き」ねば、自分が挫ける。そのことを、ミシェルは誠実に、正直に、そして強い言葉で語っている。
作品紹介
心に、光を。 不確実な時代を生き抜く
著者:ミシェル・オバマ 訳者:山田 文
発売日:2023年09月26日
元米国ファーストレディが語る、不安の多い世界との向き合い方
58年、わたしは不安を抱えて生きてきた。
場ちがいだ、ここにいるべきじゃない、誰もわたしを気にとめていない。
まわりから浮いている。
でも、ちがう。
どんな世界に暮らしたい? 誰を信頼する? 子どもはどうやって大人になる?
人生の大きな問題に、わかりいやすい解決策なんてない。
不安を抱える人たちに、心から安らげる場をもたらしたい。
少し自分の世界を広げるために、リスクを取ることを恐れない。
誰かといっしょに自分の問題を考えることには、意味がある。
さあ、心の中にある光を、見つけよう。
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