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生きるために銃を取り、居場所を得るため兵器になる……戦場の子どもたちの生と死を炙り出す新しい戦争SF――藍内友紀『芥子はミツバチを抱き』レビュー【評者:タニグチリウイチ】

大人たちの欺瞞を蹴飛ばして生きる、子どもたちの正義を見よ。
『芥子はミツバチを抱き』レビュー

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芥子はミツバチを抱き

著者:藍内友紀



書評:タニグチリウイチ

 これは起こりえる未来なのか、それとも起こりつつある現実なのか。藍内友紀による『芥子はミツバチを抱き』(KADOKAWA)に描かれている子どもたちの日常と、繰り出されるテクノロジーの数々が、安心と安全に囲われた場所からは見通せないか、見ようとしない世界の有り様を映し出す。

 トルコ共和国のイスタンブールに築かれた壁の上に立つ子どもがいる。日傘をさして踊っているその子どもが紡ぐ鼻歌が、周囲を飛ぶドローンからありとあらゆる情報を引っ張り出して、子どもの脳へと伝える。才能のある子どもが、特別な手術を受けることで自在に電子機器にアクセスできるようになっている。ドローンだって自在に操れる。そんなテクノロジーが実現した世界が、『芥子はミツバチを抱き』の舞台だ。
 南アフリカ出身の母と、日本人の父との間に生まれたイェリコも、小学生ながらドローンを扱うことが出来たが、彼に電子機器を操る能力はなく、普通にVRゴーグルをつけコントローラーを操作して、イスタンブールで行われていたドローンレースに日本から参加していた。そのドローンレースに危険物が紛れ込まないかを見張っていたのが、壁の上で踊っていた子どもだったが、何者かによって射殺され、そしてイェリコが操縦していたドローンに密かに積み込まれていた爆弾が炸裂する。
 イェリコは無関係だったが、テロの疑いを持たれ好奇の目にさらされて日本に居場所を失ってしまう。そんなイェリコを誘い国外へと連れ出したのがマルグッドという男。ヒエムスという組織に所属して、歌声でドローンを操る〈ミツバチ〉と呼ばれる子どもたちを集めてテロと戦っていた。つまりは正義の味方? 一面では確かにそのとおりだが、マルグッドが〈ミツバチ〉を使って東南アジアにある村から芥子の実の汁を奪い去り、村を焼き払う所業は正義とは言いがたい。

 ヒエムスがテロから世界を守っているのは確かだろう。けれども、一方で芥子から作られる麻薬を売りさばき、〈ミツバチ〉を使ってドローンレースに介入して掛け金を増やし活動資金を得ている。そんな大人たちが執行する相対的な正義の下で、村を焼かれた少女が生まれ、銃を取って戦う少女が生まれ、脳を改造されて命の危険にさらされ続ける〈ミツバチ〉たちが生まれる。東南アジアから海洋へ、そして南米へと連れ回される間にイェリコが出会って間近に接した子どもたちの、大人たちに翻弄される様を見るのは心が痛む。本当に?

 現実の世界にも銃を手に取る子どもたちがいて、工場や農場で長い時間を安い賃金で働き続ける子どもたちがいる。その有り様を痛ましいと嘆いたところで状況は変えられない。銃を取るからこそ、低賃金でも働けるからこそ日々の糧を得られる子どもたちから、生きる手段を奪う権利を行使するには厖大な責任がつきまとう。その責任を果たそうとしないまま、悼んだり嘆いたりする心に正義はない。手を血で染め泥水をすすりながら〈ミツバチ〉たちに居場所を与えたマルグッドの方にこそ正義があると思いたくなる。
 これもまた欺瞞だ。大人たちの不作為によって追い込まれ、生きるために銃を取ったり、居場所を得るために〈ミツバチ〉になったりせざるを得なくなった子どもたちには子どもたちとしての正義があり、それを守り続けたいという思いがある。第5回ハヤカワSFコンテストで最終候補となった前作『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』(ハヤカワ文庫JA)に登場する、地球に飛来する流星を狙い撃ち続ける子どもたちが、身体に施された改造によってやがて命を奪われると分かっていても、その仕事にこだわり続けたことと同様に。

 年月を重ね長い旅を経てイェリコがたどり着いた場所で、家族となった子どもたちと共に作り上げようとしている子どもたちの世界もまた、子どもとしての正義に彩られた王国だ。これに対して大人として同情心を持つべきか、それとも嫌悪感を向けるべきかを物語を読んで問い直そう。そうした思いなど余計なお世話とばかりに蹴飛ばして子どもたちは生きようとしているのだとしても、同じ人間として大人たちがやれることはあるはずだから。

作品紹介



芥子はミツバチを抱き
著者 藍内友紀
定価: 2,200円 (本体2,000円+税)
発売日:2023年04月26日


戦争と平和と、すべての銃を持つ子どもたちのためのSF

南アフリカ出身の母と日本人の父を持つ小学生のイェリコは、学校でも家でも居場所が見つけられない。唯一熱中できたのはドローンレースだったが、トルコの大会で起きた爆弾テロ事件の実行犯として疑いをかけられ、ありとあらゆる個人情報をネット上に曝されてしまう――。日本に居られなくなったイェリコは、母の遠縁を名乗るしかめ面の男・マルグッドと共に世界中を巡る旅に出る。そこで出会ったのは、歌声でドローンを制御する〈ミツバチ〉の少年少女たちだった。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322212000986/
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