生と死の狭間で語られる、一度きりの百物語 ――三島屋シリーズ第八弾
宮部みゆき『よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続』
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宮部みゆき『よって件のごとし』
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時代小説×ゾンビものという着想が光る表題作など、力作3編を収録! ますます絶好調の「三島屋」シリーズ最新刊
評者:朝宮運河
近年、ますます盛り上がりを見せている怪談シーン。動画配信やイベントでの怪談語りは、エンターテインメントの一ジャンルとしてすっかり定着したように思える。このような怖さを楽しむという文化は、実は江戸時代から脈々と受け継がれている。その代表的なものが百物語だろう。一堂に会した人たちが夜を徹し、順番に怖い話を披露しあうという古式ゆかしい催しは、日本の怪談カルチャーのひとつの象徴ともいえる。
宮部みゆきが2008年刊行の『おそろし 三島屋変調百物語事始』以来、今日まで書き継いでいる「三島屋変調百物語」(以下「三島屋」)シリーズは、この百物語を追体験できる連作怪談小説だ。
江戸は神田の袋物屋・三島屋の名物として知られる「変わり百物語」。黒白の間という座敷を訪れた語り手が、聞き手と差し向かいで長年胸に秘めてきた不思議な話を披露する……。
これまでにも百物語を題材にした小説は多くの作家によって書かれてきたが、一人の作家が百物語を連作形式で書き継ぐという「三島屋」の試みは、わが国の怪談史においても前代未聞だった。ショートショート集ならいざ知らず、果たしてそんなことが可能なのだろうか? そんなファンの心配をよそに、宮部みゆきは着々と「三島屋」シリーズの続編を発表。人気シリーズとして多くの読者を魅了しているのは、ご存じのとおりだ。
7月に発売された『よって
なかでも圧巻なのが第3話「よって件のごとし」。この話で語り手を務めるのは、浅川真吾という隠居した老人だ。奥州久崎藩でふたつの村を束ねる役職にあるという真吾は、32年前に起こった信じがたい出来事について話し始める。
冬の朝、凍った池の中から引き上げられた水死体。その素性について村人たちが話し合っていると、死んでいた男がいきなり立ち上がり、真吾たちに襲いかかってきた。動く死体は弓矢と刀によって仕留められたが、運悪く鼻を噛まれた若者が同じような化け物になってしまう。
やがて池の中から現れた花江という娘によって、事情が明らかになった。池を通じて真吾の村と繋がっている羽入田村では、〈ひとでなし〉と呼ばれる化け物が大量発生しているというのだ。話を聞いた真吾たちは、羽入田村の救援に向かうことを決意する。
このあらすじからも明らかなとおり、「よって件のごとし」は時代小説に“ゾンビもの”の要素を融合させた野心作である。夜の山村を呻きながら徘徊する、無数の〈ひとでなし〉の怖ろしいこと! ホラーアクション映画ばりのゾンビとの攻防を迫力たっぷりに描く一方で、降りかかった災厄によって生活を破壊された人々の姿も、著者は丁寧にすくいとっている。身を寄せ合って〈ひとでなし〉から逃げまどう村人たちの姿に、昨今の世界情勢を重ねるのはうがち過ぎだろうか。
第1話の「
第2話の「土鍋女房」は、よく日に焼けたおとびという女性の語った話。彼女の家は代々渡し守(渡し船の船頭)をしていたのだが、ある日、船の上に土鍋が置かれているのを見つける。おとびが持ち上げると土鍋はほのかに温かく、中で何かが動いている。かたやファンタジー的、かたや民話的な味わいのある2作だが、どちらにもひたひたと静かに押し寄せるような怖さがあり、それが絶妙なスパイスになっている。
さて、語り手たちの一生一度の告白は、聞き手の富次郎にもさまざまな影響を与えていく。このシリーズが面白いのは「怪談を語ること」「聞くこと」が人生の深いところと響き合うさまを、丹念に描いているところである。私たちはなぜ怖い話を求めるのか。怪談はなぜ今日まで滅びることがないのか。そうした問いに対する答えを、「三島屋」シリーズは物語として示してくれているのだ。
ちなみに単行本の愛らしいカバー画は、シリーズ前作『魂手形 三島屋変調百物語七之続』も手がけた、イラストレーター・三好愛によるもの。本文ページにもたっぷり挿絵が掲載されているので、ぜひ楽しんでいただきたい。シリーズを追ってきたファンはもちろん、「三島屋」シリーズを初めて手にする読者にも自信を持っておすすめできる、怖さと不思議の詰まった怪談エンターテインメントだ。
おちかの妊娠、兄・伊一郎の恋、そして富次郎自身の行く末。さまざまな人間模様を描きながら、三島屋の変わり百物語はまだまだ続く――。
作品紹介・あらすじ
よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続
著者 宮部 みゆき
定価: 2,090円(本体1,900円+税)
発売日:2022年07月27日
生と死の狭間で語られる、一度きりの百物語 ――三島屋シリーズ第八弾
江戸は神田三島町にある袋物屋の三島屋は、風変わりな百物語をしていることで知られている。
語り手一人に聞き手も一人、話はけっして外には漏らさず、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」これが三島屋の変わり百物語の趣向である。
従姉妹のおちかから聞き手を受け継いだ三島屋の「小旦那」こと富次郎は、おちかの出産を控える中で障りがあってはならないと、しばらく百物語をお休みすることに決める。
休止前の最後の語り手は、商人風の老人と目の見えない彼の妻だった。老人はかつて暮らした村でおきた「ひとでなし」にまつわる顛末を語りだす――。
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