【連載コラム「告白します」】住田 祐「俺だけか?」
「小説 野性時代」連載コラム「告白します」
最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。
(本記事は「小説 野性時代 2025年11月12月合併号」に掲載された内容を転載したものです)
住田 祐「俺だけか?」
【連載コラム「告白します」】
以下の告白は、私と同様の経験を持つ方と肩を叩きあうために勇を鼓して試みるものである。同様の経験がないという方は、本稿の内容は本日中にご放念頂きたい。恥ずかしいから。
①鍋とフライパン
大学進学に伴い、上京して一人暮らしを始めたときのことである。木造アパートの私の部屋には当初、調理器具が鍋しかなかった。「鍋しか買えなかった」のではなく、「鍋だけで事足りる」と信じていたのである。そして母に渡された一人暮らしのためのレシピ本に沿って豚の生姜焼きを作ろうと勇んでキッチンに立ったはよいが、油をいくらひいても鍋の底に豚肉がひっつく。妙だなと思って調べたところ、鍋とフライパンは用途はもちろん、その表面の加工法も異なるとのことであった。私は底の浅い鍋をフライパンだと思い込んでいたのである(正確には、鍋はフライパンの役割を兼ねると思い込んでいたのである)。
②湿度とストレス
私は
そう、困るのはそれらを知ってしまったあとなのである。認識してしまうと、対処せねばならなくなる。知るということは、ある意味で不幸を招くことだと知った。
そして、つい先日も他者に呆れられたことがある。以下については、実は未だによく分かっていない。
③顔が小さい
アイドルや芸能人を目の前にして、「顔小っちゃーい」と感激する人をテレビなどで何度も見たことがあるが、「顔が小さい」という意味がついぞ分からぬ。「頭が小さい」は分かる。「九頭身」とか言うし。しかし、「顔が小さい」とはどういうことか。「頭小っちゃーい」じゃだめなのか。だめなんでしょうね。
皆さんにだって一つくらい……似た経験があると信じている。
プロフィール
住田 祐(すみだ・さち)
1983年、兵庫県生まれ。会社員。2025年に『白鷺立つ』で第32回松本清張賞を受賞し、作家デビュー。
書籍紹介
書名:
著者:住田 祐
発売日:2025年09月10日
余人には明かせぬ秘密を抱えて比叡山延暦寺に入った一人の僧は、しくじれば死すべきとされた最難関の修行「千日回峰行」に挑んだ。時を経て、弟子の僧もまた――。人間の精神と肉体の極限を研ぎ澄まされた筆致で描き、師弟のまったく新しい因縁を示した衝撃作。
掲載号紹介
書名:小説 野性時代 第263号 2025年11月12月合併号
編:小説野性時代編集部
発売日:2025年10月25日
商品形態:電子専売
好評連載第二回! 青柳碧人さん「漱石を巡る五人の名探偵」、東畑開人「ミドル・エイジ・ビギンズ」(ゲスト・角田光代さん)に注目! 神永学さんの「怪盗探偵山猫 楽園の蛇」はついに最終回。充実の合併号!
【\好評!/ 連載第二回】
青柳碧人――漱石を巡る五人の名探偵
芥川龍之介は菊池寛を連れて「謎の女性」を探す旅へ。
文豪の謎を文豪が追う、軽快なる歴史ミステリー!
東畑開人――ミドル・エイジ・ビギンズ
臨床心理士による「中年期」をめぐる対談連載。
ゲスト・角田光代「今までみたいじゃない自分――竜宮城の働き方改革」
【最終回】
神永学――怪盗探偵山猫 楽園の蛇
オーフェスを巡る騒動もついにクライマックス!
〈山猫を継ぐ者〉の正体とは――?
【連載】
安部若菜――描いた未来に君はいない
伊吹有喜――銀の神話
恩田陸――産土ヘイズ
今野敏――百鬼
蝉谷めぐ実――見えるか保己一
群ようこ――暮らしはつづく
【コラム】
木野寿彦「山の怪異」
住田祐「俺だけか?」
【書評】
Book Review 物語は。 吉田大助
葉真中顕『家族』
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322502000320/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら





