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特集

稀代のストーリーテラー、宮部みゆきの真骨頂! 『魂手形 三島屋変調百物語七之続』刊行記念インタビュー

 江戸は神田にある袋物屋・三島屋で行われている〈変わり百物語〉。聞き手は三島屋の次男坊、富次郎ただひとり。語り手はひとりずつ「黒白の間」に招かれ、一生に一度きりの「物語り」を行う――。稀代のストーリーテラーである宮部みゆきさんがライフワークだと語る江戸怪談の傑作「三島屋変調百物語」シリーズ。その第七弾である『魂手形 三島屋変調百物語七之続』が刊行されました。富次郎に聞き手が引き継がれた第二期の二巻にあたる本作は、シリーズの今後を左右する転換点となる一冊です。本作の読みどころや、シリーズに対する思いなどを著者の宮部みゆきさんに語っていただきました。


――「三島屋」シリーズもついに七冊目となりました。おちかがお嫁に行ったため、前作の『黒武御神火御殿』より、聞き手が富次郎へとバトンタッチしました。


宮部:最初の聞き手であったおちかと違って、富次郎は三島屋の次男坊で、既に将来が決まっています。暖簾分けしてもらって分店の主人になれば、親孝行でもあり兄さん孝行にもなるでしょう。

 でも、本人はそれで満足なのか。苦労はしても、もしかしたら家族を悩ませることになるとしても、新しい人生を切り開きたいと思うようになるのか。黒白の間の語り手と出会うことによって、富次郎自身のなかに、自然とその解答が生まれてくる。聞き始めたときには「聞きたい」という興味だけだったけれど、聞き続けるうちに「聞くべき理由」を見つけ出す。おちかとはまったくちがう人物像として、富次郎を描きたいと思いました。


――おちかとは違う人物像を、ということでしたが、富次郎が聞き手になったことで執筆される上での変化はありましたか。


宮部:おちかから富次郎に聞き手が替わったことでの一番の変化は、やはり富次郎は絵を描いて「聞き捨て」とする趣向にあると思います。ですので、毎回ネタを考えるときに、「富次郎にどんな絵を描かせるか」ということを同時に考えるようになりました。また、富次郎は現代でしたら大学四年生ぐらいの男子ですので、おちかのときには控えていた男女の話を盛り込めるようになりましたね。


――『魂手形』収録作で言うと、第二話の「一途の念」は色恋の話が強く出ていました。おちかが聞き手であったら出てこなかったお話かもしれませんね。


宮部:そうですね。「一途の念」についてはアイデアを思いついたときにはコメディだったのに、書いてみたら悲劇になって、自分でもけっこう驚いたこともあり気に入っています。


――第一話の「火焰太鼓」はじっくりと読むと、三編の中で一番恐ろしく悲しいお話で「ザ・江戸怪談」という読み心地でした。「三島屋」シリーズは江戸怪談の連作ですが、怪談を書く上で宮部さんが心がけていらっしゃることはありますか。


宮部:このアイデアは理屈に合わないとか、これだと嫌な話になるからやめようというような取捨選択はせずに、できるだけ幅広い「怖さ」を表現したいと思っています。


――第三話の「魂手形」では三島屋に慶事が飛び込みます。この展開はシリーズ開始当初から思い描いていらっしゃったのでしょうか。


宮部:ずっとそのつもりでいました。でも、慶事を聞いた富次郎が卒倒するところまでは考えていなくて、書いていてそうなってしまったのが可笑しかったです。「魂手形」は富次郎の卒倒で始まり、語り手も話の中で二度も卒倒しますので、その点では騒々しいエピソードになりました。


――慶事の詳細は是非本編を読んでいただきたいと思いますが、「魂手形」では慶事がもたらされた一方で、「邪恋」(『おそろし 三島屋変調百物語事始』)の事件が終わっていないことが示唆されています。


宮部:「邪恋」は幼なじみに許嫁者を殺されてしまったおちかが告白をするというエピソードでしたが、許嫁者・良助については、おちかはけっして忘れませんし、私も忘れずにいて、ふさわしい折々に、少しずつ彼を供養したいと思っています。「魂手形」は死者の魂が辿り着くとされる里にまつわる物語でしたから、その締めくくりをあのようにしたのも、「良助の魂は今どこにあるのだろう。安らいでいるのだろうか」という疑問を、シリーズのこの先までつないでいきたいと思ったからです。


書影

宮部みゆき『おそろし 三島屋変調百物語事始』
定価: 792円(本体720円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


――シリーズのこの先までつないでいくものと言えば、『おそろし』のころから神出鬼没の「商人」も、今回思わぬところで再登場しました。ある意味ではシリーズを通しての「宿敵」とも言えるキャラクターですね。


宮部:神仏ではなく、鬼や魔物でもない。敵なのか味方なのかわからないけれど、「商人」と名乗っている以上、こちら(現世の人間)に求めてくるのは「取引」であって、一方的に祟ったり罰を当てたりしてくるわけではなさそうだ。

 今のところ、それくらいの存在である「商人」ですが、黒白の間の外側にこういう不可解な存在を置きたいと思い立ったのは、『おそろし』を書いている途中でした。語り手と聞き手の一対で完結してしまうこの変わり百物語に、ときたま外部からの視点(価値観・倫理観)を持ち込んでくれるキャラクターとして、私は非常に頼りにしています。


――敵役である「商人」の存在も気になりますが、「三島屋」で働く人々のキャラクターも巻を増すごとに魅力が増しているように感じます。


宮部:おしまは三島屋のベテラン女中でしたが、第一巻の『おそろし』での立ち位置からしても、常におちかのそばにいるべきではないか。そう思いましたので、今作でのおめでたいことをきっかけに、今後は彼女の身辺にも変化があるかもしれません。お勝はゲームで言うところの万能キャラで、もともとパラメータの高い人ですが、彼女個人の人生はどうなっているのか? 謎なところがまた魅力的になるように描きたいと思っています。おかみさんのお民は、今後はひたすら良きおばあちゃんになるのでしょう(笑)。


――「お太鼓様」や「くろすけ」(『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』収録)など、これまで語られた三十四話の中では様々なお化けたちが登場しましたが、今後書いてみたいモチーフなどはありますか?


宮部:以前、「まぐる笛」(『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』収録)という作品で書いたような怪獣をまた書いてみたいですし、やっぱり「化け猫」ものは一度はやりたいですね。


――「三島屋」シリーズは、単行本版は毎回異なるイラストレーターさんが装画を担当されていることも特徴です。今回は三好愛さんでしたが、印象はいかがでしたか。


宮部:三好愛さんのイラストのおかげで、「小説 野性時代」連載中の三島屋のページには、そこだけ異界の匂いが漂っていました。単行本にも、その匂いをしっかりと封じ込めてあります。可愛らしいのに恐ろしく、描線は丸いのにセンスはとんがっている。ホントに不思議で魅力的なイラストで、なかでも私のお気に入りは「うわばみ」です!


――「うわばみ」は単行本にも収録されているので、是非ご覧いただきたいです。三好さんは、現在新聞にて連載中の「三島屋変調百物語 よって件のごとし」でもイラストを担当されていますね。同じイラストレーターさんの続投はシリーズ初めての試みです。


宮部:今作『魂手形』は三話収録の第七巻、次の『よって件のごとし』も三話収録の第八巻になる予定なのですが、本当はこの六話は一冊の単行本にまとめたかったのです。ただ、それだとあまりに分厚くなりすぎてしまいますし、前作の第六巻『黒武御神火御殿』から間が開きすぎてしまいます。

 そこで六話を三話ずつ分けて二冊にすることになったのですが、本来は一冊だった(テレビで言うところの1クールだった)わけですし、二冊を通して一つのおめでたい出来事が背景で進行しているということもあり、装画やイラストを二冊とも三好愛さんにお願いすることで、ムードを統一したいと思いました。


書影

宮部みゆき『魂手形 三島屋変調百物語七之続』(イラスト:三好愛)
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


――昨夏には第一期最終巻である『あやかし草紙』が文庫化され、合わせてシリーズの電子書籍版が発売されました。宮部さんのシリーズ作品の電子化ははじめてのことですね。


宮部:以前から、このシリーズの既刊本の電子化を希望するお声をたくさん頂戴しておりました。おちかが聞き手を卒業するまでの第一期の電子化で、こうしたリクエストにお応えすることができまして、ほっとしました。電子化については、今後も前向きに検討し、実施してゆく方針でおります。


――最後に、シリーズの読者の方に向けてメッセージをお願いします。


宮部:シリーズをご愛読いただいている読者の皆様に、ようやく最新刊をお届けすることがかないました。三島屋変調百物語シリーズでは、たぶんもっともページ数の少ない第七巻です。その分軽やかに、明るいニュースも飛び込んできます。三好愛さんの手になる愛しいお化けともののけたちに彩られる、「三島屋」の新しい展開をお楽しみいただけますように。

宮部みゆき『魂手形 三島屋変調百物語七之続』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000501/


宮部 みゆき

1960年東京生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール読物新人賞を受賞。『龍は眠る』(日本推理作家協会賞)、『本所深川ふしぎ草子』(吉川英治文学新人賞)、『火車』(山本周五郎賞)、『理由』(直木賞)ほか著書、受賞歴多数。

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