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レビュー

愚かな人間たちが語り捨てる、他言無用の物語―宮部みゆきのライフワーク的江戸怪談『あやかし草紙』

【カドブンレビュー】

カドブンを訪れて下さっている皆さん、こんにちは。
暑い中いかがお過ごしでしょうか。
今回はそんな夏にふさわしい三島屋変調百物語シリーズ五作目、宮部みゆき著『あやかし草紙』をご紹介いたします!
「本当に夏にふさわしいのか?」
と問い詰められると、秋でも冬でも全然いいのでは……と焦ってしまいますが、「変調」とはいえ「百物語」なのでね。
怪談の一形態、つまりは「夏にふさわしい!」といっていいのではないでしょうか。

さてさて。
三島屋変調百物語の舞台はというと、江戸は神田の袋物屋・三島屋。
その三島屋の黒白の間では一回に一人「語り手」が招かれ、自らの物語を語る「変調百物語」が行われていました。
そこで語られた話は「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」の他言無用。
聞き手は心に傷を負い、実家の川崎宿から三島屋に身を寄せているおちか。
黒白の間ではどんな話が語られるのでしょう?!
といったお話です。

『あやかし草紙』には五人の語り手が登場するのですが、まるで引きずり込まれるように、一話目から物語に飲み込まれます。
粗忽な丼飯屋主人が打ち明ける自分の幼少期——姉が願いを叶えるため「神様」を呼び込んだ「開けずの間」の話——の恐ろしいこと恐ろしいこと。
ひたひたと終焉に向かって進んでいく様に思わず叫びそうに(実際少し叫んだ)なります。正直、ちょっと怖すぎでした。
三話目の、一年間我慢すれば十両もらえるという奉公先に努めていた、手癖が悪い小娘の話も印象的。その高収入の裏にはどんな秘密が隠されているのかも気になるところですが、どうにもやるせない彼女のキャラクターが秀逸です。
本当にこういうキャラクターを描くのが最高に上手ですね、宮部みゆきさんは。

と、怖かったり切なかったりする様々な物語が詰まった本作品ですが、この作品の一番の特徴は「物語」を主軸に据えているところでしょう。
人類が飛躍的に発展したのも、「物語」を発明したからだなんて言われます。
物語は、過去を整理し、現在の自分を定義し、そのことにより未来を描く力や行動規範を与えてくれるからです。
薬物中毒やアルコール依存の自助会では、参加者が体験談を「聞き捨て、語り捨て」することがおこなわれているほど、話すことには癒やしの力があります。
自らの物語を語ることで新たな自分を再定義し、未来へと進めるようになるからです(もちろん簡単なことではないでしょうが)。
だからこそ、心に傷を負った主人公のおちかも、少しずつ笑顔を取り戻すことができたのでしょう。
人の話を真剣に受け止める、自分の胸の内を打ち明ける、そんなことがしづらいと感じる事も多いですが、まずは三島屋でじっくりと話を聞いてみるのもいいかもしれませんよ。
あ、そうそう「シリーズ第一期完結」ということなので、最後には大きなサプライズも待っております!
その辺も加味しつつ、『あやかし草紙』手に取ってみて下さい〜!


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