『方舟を燃やす』で今年、吉川英治文学賞を受賞し、直木賞受賞作『対岸の彼女』も再び大きな注目を集めている角田光代さん。
初めて猫のお話を書き下ろした絵本『ねこがしんぱい』が刊行され、発売後、即重版と大好評です。
猫が大好きだから心配しすぎてしまう家族の様子をユーモラスに描いた絵本です。
角田さんのご自宅で、絵本や猫についてお話をうかがいました。
(インタビュアー:坂本真樹 写真:野口彈)
※本記事は2025年10月3日に「ヨメルバ」に掲載された記事を転載したものです。
『ねこがしんぱい』角田光代さんインタビュー
角田光代さん(以下、角田さん):「(トトは)小さかったときはカメラとか大好きでポーズをとったりしてたんですが、年を取ってからは、わざとカメラに背を向けたり、見なかったりとか……(苦笑)。」
――角田さんのエッセイ『今日も一日きみを見てた』の中で、外出している時、飼い猫のトトちゃんが冷蔵庫の中に入って震えているのではないか、洗濯機の中に入ってくるくる回っているんじゃないかと、心配していたことが書かれています。角田さんは心配症ですか?
角田さん:「もともと心配性です。でも、トトは食べ物を食べ散らかしたり、いたずらをしたりすることはなく、私が心配したことを実際にやっていることはありません」
――トトちゃんと暮らして、よかったなと思うことは何ですか?
角田さん:「良かったなぁと思うことは、人生が豊かになりますよね(笑)。幸せであるという幸せ感が大きくなりました」
――角田さんにとって、トトちゃんと過ごす楽しい、幸せを感じるときは?
角田さん:「朝ごはんを食べていると、(トトが)寝室に来てほしいって呼ぶんです。自分が寝るところを見ていてほしくて呼ぶんですが、それをわざわざ見にいってあげる、そういう無駄な時間が楽しいですね」
――絵本のお話では、女の子、お父さん、お母さんが「早く帰らなきゃ」と、猫の待つ家に急いで帰りますが、角田さんはどういう思いで考えられたのですか?
角田さん:「わたしも急いで帰るんです。以前は出張が多く、家を空けることもあったのですが、パンデミックの3年間の後、人が家にいることが普通になって、トトが分離不安のようになりました。わたしが22時くらいに帰ると、「何してたんだ~」と、「ワアアア~」と大きな鳴き声を出して怒るようになったんです。だいたいもう何言っているのかわかるようになりました。不満の声とか(笑)」
――最近のトトちゃんへの心配はどんなことがありますか?
角田さん:「トトは15歳(編集部注・人間の年齢だと高齢)で腎臓が悪くなってきているため、健康を心配しています。水を飲ませるようにしたり、腎臓に良い食事を与えたりしています。また、逃げだしたり、床に落ちた何かを食べていないか、暑くないかと心配しています」
――猫を飼うようになって、角田さんが思ったことは?
角田さん:「うちで良かったのか?と思うようになりました。猫を飼っている人はみんな思うと思うんです。
もっと裕福な家や、もっと大家族の家のほうがしあわせだったんじゃないかって。猫を飼うまで、こんなに猫のしあわせを思うとは想像もできなかった」
――絵本『ねこがしんぱい』で伝えたいことは、どんなことですか?
角田さん:「トトちゃんは最初、心肥大だと診断され、9歳まで生きたらすごいってお医者さんに言われ、毎日泣いていましたけど、多分、誤診断で今は15歳。あんなに思いつめなくて、もっと楽しく暮らしていればよかったのではないかと思いもします。そんなに心配しないでも、だいじょうぶだよとあのとき泣いていた自分に言いたい(笑)。わたしは本当に心配症で、しかもネガティブなので、猫のことだけじゃなくて、生きることが苦しいくらい心配になることもあるんですけど、そういうとき何かで読んだのが、心配事の8割は本当にならない。本当になっていないというデータがあるんですって。だから考えるだけ無駄だっていうのを読んだとき、ちょっと安心したんですよ。自分の8割の考えに自分が苦しまされているってことだから。ただ心配を生みだす力って、創造力の豊かさでもあるじゃないですか。だから表裏一体。でも、心配することってつらいことなので、意外にだいじょうぶだよって思ってくれたらいいなと思います」
――最後に読者さんへのメッセージをお願いします。
角田さん:「わたしが猫のお話を初めて書き下ろした絵本『ねこがしんぱい』になります。よろしければ、どうぞ手に取って見てください。よろしくお願いします。」
――角田さん、素敵なお話をありがとうございました。
作品紹介
書 名:ねこがしんぱい
作:角田 光代
絵:小池 壮太
発売日:2025年10月08日
家族がいない時、猫はじつは…! 角田光代、初の書き下ろし猫のお話の絵本
驚きと笑いがたっぷり。ちょっぴりシュールなユーモア絵本!
読み終わると、平和な日常が愛おしくなる。読んであげるなら4歳くらいから。
直木賞作家・角田光代と新進気鋭の洋画家・小池壮太による猫の世界!
【お話の紹介】
わたしの おうちは、さんにんと ねこの かぞくです。
まず、おとうさんが かいしゃに いきます。それから、おかあさんと わたしが おうちをでます。
ねこの たまこは おるすばん。
わたしは たまこのことを かんがえています。たまこは さびしくないかしら。
おかあさんも おとうさんも たまこのことが、心配でたまりません。
「たまこが ティッシュを だして、ぐるぐるまきに なっていないかな」
「ひとりで 遠くにいってしまって、おうちが どこか わからなくなって、帰りたいのに 帰れなくて、えーんえーんと ないていたら、どうしよう」
かぞくのだれもしらないのです……。
家族が いないとき、たまこが どう過ごしているのか。
ティッシュの雲に のって、遠くへ 飛んでいくことを。
遠い国の友だちと オンラインで 遊ぶ約束だって できることを.
家族が いそいで 家に帰ると、たまこは……!?
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あわせて読みたい! 飼い猫トトとの暮らしを描くフォトエッセイ
書 名:今日も一日きみを見てた
著 者:角田 光代
発売日:2017年06月17日
なんて可愛いのだ。ああ、なんて、なんて、なんて!
どこか飼い主に似たアメショーのトト。このやわらかくてあたたかい、ちいさな生きものの行動のいちいちに目をみはり、トイレの掃除をし、病院に連れていき、駆けずりまわって遊び相手をし、薬を飲ませ、いっしょに眠り、もしこの子がいなくなったらどうしようと家の人と話しては涙ぐむ日々――愛猫へのやさしいまなざしが、誰かを愛しく思うすべての人の心を揺さぶる、感涙のフォトエッセイ。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321702000602/
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書 名:明日も一日きみを見てる
著 者:角田 光代
発売日:2023年02月10日
飼い猫トトとの暮らしを愛情120%で描いた、極上のエッセイ集!
トトの存在が、私の日々の、あるいは私のしあわせ感の、基点になったのだと思う。(あとがきより)
集合住宅から一軒家に引っ越しをした角田さん。
外猫とのはじめての遭遇と脱走事件、虫取り事件にハゲ事件。
アクシデントは絶えないが、猫との暮らしそのものには、パンデミックのなかでも変わらない単調さがある。
ごはんを用意したりおやつをあげたり、腹に乗せたり顔マッサージをしたり。
猫との静かな日常のくり返しがずっと続いていくことを、全世界の全ての猫の幸福を願ってやまない、愛情あふれるエッセイ集。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000358/
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