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レビュー

「船」に乗り込み、新世界へと繋がる「道」へ——竹宮ゆゆこ『いいからしばらく黙ってろ!』【評者:吉田大助】

物語は。

これから“来る”のはこんな作品。物語を愛するすべての読者へブレイク必至の要チェック作をご紹介する、熱烈応援レビュー!

竹宮ゆゆこ『いいからしばらく黙ってろ!』(KADOKAWA)

評者:吉田大助


竹宮ゆゆこ『いいからしばらく黙ってろ!』(KADOKAWA)

竹宮ゆゆこ『いいからしばらく黙ってろ!』(KADOKAWA)


 家を出て道をまっすぐ進んでいけば、必ず海にぶつかる。多くの人にとってはそこが、行き止まりだ。海の向こうに島影や陸地が見えたとしても、辿り着けない場所として諦めるだろう。でも、それは大地に根を張り、大地の恵みを得て暮らす「おかの子」の思考だ。「海の子」の思考で同じ風景を眺めると、目の前にあるのは、新しい道だ。船に乗り海原へと漕ぎ出せば、どこまでだって進み続けることができる。
 ライトノベル出身で『とらドラ!』『ゴールデンタイム』などの代表作を持つ、竹宮ゆゆこの最新長編『いいからしばらく黙ってろ!』は、ヒロインの革命を描く物語だ。それは、「陸の子」から「海の子」へのメタモルフォーゼでもある。
 大学の卒業式の夜、龍岡たつおか富士ふじはひとりぼっちだった。故郷に戻り親の薦めで見合いした相手と結婚する予定だったが、突然フラれ就職活動はしていなかったために無職が確定。その話を卒業式後の飲み会で告白したところ、自分には「味方」も「友達」もいない現実を突きつけられる。そんな時、ふと目にしたのが芝居のチラシだった。劇団バーバリアン・スキルの『見上げてごらん』。衝動に突き動かされ劇場に駆け込むと、上演されている舞台に一撃で魅了される。しかし、トラブルによりわずか一〇分で上演中止に。「絶対、つづきが観たい!」。その思いが運命を引き寄せ、問題ばかりの弱小劇団の制作スタッフに加入。劇団員数名が共同生活を送るみなみ阿佐ヶ谷あさがやのおんぼろアパートに暮らしながら、富士は舞台の再上演に向けて奔走する。
 顔を合わせるたびに「俺様=神様」理論をかます南野みなみのを筆頭に、劇団員は濃いめのキャラ揃い。作者の十八番とも言える、平熱高めでボケツッコミの効いたセリフの掛け合いがノリにノっている。特筆すべきは作中作『見上げてごらん』の完成度だ。時空が一瞬でジャンプする感覚や肉体から出る情報を尊重しているところなど、書き手の演劇に対する愛や造詣を堪能できる。
 何よりの魅力はやはり、富士の革命だ。彼女は五人きょうだいの真ん中として生まれ育ち、家族の「関係の調整役」として生きてきた。その経験が、劇団の制作——内部と外部の「関係の調整役」——でも役に立つ。また、演劇業界の常識を知らないシロウトだからこそ、固定観念に囚われないアイデアを発案できる。少し前までひとりぼっちだったのに、彼女の能力や個性は他人から求められるものとなり、他人に影響を与えるものとなるのだった。龍岡富士は自分の居場所を変えることで、革命を実行したのだ。
 ラスト三ページの爆発的な快感、無敵感は、小説の冒頭から繰り返し描かれていた、富士の中にある「舟」のイメージに起因する。彼女は「舟」に乗って旅立ちたいと思いながらも、ずっと叶わなかった。劇団に出合った時、彼女の脳裏に現れたのは「船」のイメージだ(厳密に言えば最初は「難破船」)。大人数で乗りこなすその「船」こそが、繋ぎ止められていた「陸」=「家」のくびきを捨て、「海」へと漕ぎ出す勇気を与えたのだ。あとはもう、どこへだって行ける。だって「海」すらも、彼女(たち)にとっては新世界へと繋がる「道」なのだから。

竹宮ゆゆこいいからしばらく黙ってろ!』詳細(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321908000118/

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