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(自著解説:森永康平 / 経済アナリスト)
私が日本で金融教育を普及させるべく起業してから1年2カ月が経過した。創業当時に比べれば日本でも「金融教育の重要性」が叫ばれる機会が増えてきている。その原因はいくつも考えられる。金融庁が発表したレポートによって、公的年金だけだと老後資金が2000万円不足するということが提示され、国民の関心が資産運用に向いたこともあるだろうし、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、個人が資産運用をする際に税制優遇される仕組みが整ってきたことも1つの要因であろう。
また、昨今ではネットを中心にサービスを提供する金融機関が手数料を一気に引き下げ、スマホメインで使い勝手のよいサービスを提供するFinTech企業の登場も追い風になっているかもしれない。直近では参院選もあり、争点の1つとして消費増税に注目が集まったことで、計画通り消費増税が行われた後、景気は悪くなるのではないかなど、政治イベントも結果的には金融についての関心を高めた可能性がある。
どんな事情であれ、国民の関心が金融に向くのは素晴らしいことだ。しかし、既存の金融教育には違和感を覚えている。その理由は2つある。1つは「金融教育=資産運用、投資」というように、金融教育を非常に狭い範囲で捉えていることだ。そして、もう1つはどれも「金融教育とはこういうものだ」と教える側の人間が自身の考えることを提示しているだけで、その教育をした結果、子どもがどうなったかという結果が裏付けとしてないことだ。
私は金融教育とは資産運用や投資だけではなく、お金の歴史を学んだり、どうやって貯めたり、使ったりするか。いかに安くモノを買うか、騙されてお金を減らさないか。このように幅広くお金のことを学んでいくべきだと考えている。そして、そのベースには経済学と会計の知識があるべきだと主張している。それ故に、いまある金融教育については気配りを欠く、不公平な印象を受けてしまうのだ。
また、「その教育の結果、子どもはどうなったの?」という結果による裏付けがないことにも不安を感じてしまう。私も3人の子どもがいるので、裏付けのない教育指導は受け入れることが難しい。
本書ではまず私たちがお金について学ばないといけない理由を、大量の公のデータを用いて解説している。偏った意見で読者を意図的に誘導したくなかったので、あえてデータだけを見てもらおうと思った。その後は、幅広い側面からお金を学んでいくコンテンツが具体的に並んでいる。そして、本書の最も特徴的な部分として、結果に裏付けられた金融教育についての章が続いていく。
父(森永卓郎)が両親から学んだこと、私が父から学んだこと、そして私が子どもたちに教えていること。私の祖父母から数えれば、4世代にわたる実証実験の結果が記されている。これほどまでに長期にわたって実証実験の結果が記されている金融教育の書籍は本書以外はないだろう。
日本ではお金の話をすることは卑しいとされてきたが、古臭い価値観をそのままに追従し、お金について無知な状態で子どもを社会に放り出すのは親がすべきことではない。本書がきっかけとなり、日本の金融教育がアップデートされることを期待したい。
●執筆者プロフィール
森永康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在は複数のベンチャー企業のCFOや監査役も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員。Twitterは@KoheiMorinaga
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