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レビュー

オジサンに忍び寄る孤独という恐怖 『世界一孤独な日本のオジサン』

 世界の国々では、年齢が高まるほど幸福度が上がっていく。子育てや住宅ローンなどの呪縛から解放され、悠々自適の生活を送れるのだから当然のことだ。ところが、日本の場合、高齢になるほど幸福度が下がる。それは、男性のコミュニケーション能力が低いからだというのが、著者の最大の主張だ。
 日本では、終身雇用に守られている男性がまだまだ多い。世界的にみれば、極めて恵まれた労働環境にあるのに、会社への愛着を持つ人は、少ない。それは、日本の場合は、会社への就職ではなく就社で、自分の好きな仕事を選べていないからだという。そのとおりだ。実は、日本と欧州のサラリーマンの平均勤続年数はほとんど同じだ。以前、欧州の中高年サラリーマンに「今後も今の仕事を続けますか」と聞いたら、「もっといい仕事があれば転職するけど、転職を重ねてここにたどり着いたので、今よりいい仕事があるとは思えない」と言っていた。中高年になると転職できない日本のサラリーマンとは、意識がまったく違うのだ。
 ただ、日本の場合は「就社」だから、会社に勤めている間は、同僚とコミュニケーションを取らざるを得ない。ところが、会社を定年退職すると、生来コミュニケーションが苦手で、会社以外の人間関係を作ってこなかった男性は、途端に孤独に追い込まれてしまう。
 私は、テレビのバラエティ番組に出演していることもあって、社交的で、コミュニケーションが得意だと思われがちだが、それは仕事上必要だからそうしているだけで、本質はコミュニケーションが得意ではない。例えば、私には芸能界に友だちがいない。唯一、価値観を共有できるのは、漫画家のやくみつるさんくらいだが、先日、テレビ番組でやくさんが、「ボクには友達が一人もいないんです」と言っていたから、私も友達ゼロということになるのだろう。
 ただ、孤独は単に不幸だというだけでなく、心と体の健康を損ねる。それが実証されているのだと、具体的なデータを示しながら、著者は主張する。だから、何としてでも、定年後の孤独を防がなければならない。
 本書の最後のパートで、著者は孤独にならないための処方箋を示している。老後に向けて蓄えたい元気の素は、カネとコネとネタの三つだと言うのだ。私は、この処方箋に全面的に賛成だ。
 まず、カネはあったほうがよい。カネがあれば、老後にやれることの選択肢が広がる。乗馬、ゴルフ、旅行など、お金がないとできないことがたくさんある。また、ある程度のお金を蓄えておけば、お金を稼ぐための時間で人生を縛られることもなくなる。
 コネも、深い人間関係を作れているかは別にして、老後を楽しむための選択肢を増やしてくれる。
 ただ、一番重要なのは、ネタだろう。老後に何をするかが決まっていないから、孤独になるのだ。著者は、ネタは得意なもの、夢中になれるもの、社会に求められるものの三つのなかから選べばよいとしているが、実はこの三つは、絡み合っている。「好きこそものの上手なれ」で、好きなことを続けていれば、必ずうまくなってくる。また、世の中に必要のないものなどないから、一見、社会の役に立たないような趣味でも、時代の波と巡り合えば、大いに評価されるようになる。そうならなくても、同じようなことをしている仲間たちからは、評価されるはずだ。
 さらに、そうしたことを続けていれば、カネもコネもついてくる。私はトミカを四十八年間集め続けてきたが、先日、お声がかかって、百貨店で展覧会を開催できた。レンタル料が入ってきただけでなく、展覧会場で、タカラトミー幹部と名刺交換もできた。
 ネタさえ決めれば、悩みのすべてを話せる親友はできなくても、同好の仲間はできる。それだけで、孤独感はずいぶん緩和される。孤独を防ぐためのネタづくりは、早いほど有利だ。男性は、本書を読んでから、一刻も早く対策を立てるべきだろう。


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