対談

「時給1万円でも年収5000万円が限界!? なら、どうする?」森永卓郎&康平×井上純一による経済トーク「令和サバイバル、ゼニ問答」〈前篇〉
撮影:佐山 順丸 構成:山本 信幸
お金と経済のことがすっきりとわかる注目の2冊が発売されました。経済アナリストの森永卓郎さん・康平さん親子がお互いの視点や立場で語り合った角川新書『親子ゼニ問答』と、井上純一さんの経済エッセイマンガ・シリーズ『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』。座談会会場は、卓郎さんのコレクション約12万点を展示する「B宝館」。卓郎さんと井上さんはお互いのコレクションを見せ合ったり、井上さんのサインをB宝館に残す場所を探したり……。ああだこうだというオタク同士の会話が一段落して、ようやく座談会が始まりました。
お金がお金を生むのはおかしいことか?
――井上さんは『親子ゼニ問答』を「まさに僕が必要とする経済書」と高く評価していますよね。
井上:お二人の意見が全然違うところが面白いですね。最初は森永親子の対談本だと思って読んでいたのですが突然、途中でそれぞれの文章に切り替わる。すると、あまたある経済書では起こり得ない現象が起こるんです。卓郎さんの立場に共鳴して読んでいると、康平さんの文章に「?」マークがつくし、康平さんの文章を読むと卓郎さんの考え方に「?」がつく。経済にはいろいろな考え方があるということがわかった面白い本でした。
卓郎:康平は金融機関で働いてしまったので、“金融村”の悪いくせがついてしまった。
井上:「働いてしまった」(笑)せいで、「お金がお金を生む」という考え方を康平さんは認めるべきだと主張し、卓郎さんは認めるわけにはいかないと主張していますよね。
卓郎:お金がお金を生むっておかしくないですか。日本国債の金利は今、マイナスですよ。そんな運用環境の中でプラスのリターンがとれる商品があるなんておかしい。運用者が「
康平:またオヤジの「博打か詐欺か泥棒」の話が出てきたから視点を変えて――経済学は大きく二つに分かれます。アダム・スミスから始まり今に至る資本主義と、カール・マルクス発祥のマルクス経済学。つまり労働価値説ですね。もともとは学校で両方を教えていたのに、マルクス経済学が消えてしまった。
井上:康平さんは『親子ゼニ問答』の中で「大学の授業から消えた現実が全てを物語っている」と書いています。一方で、卓郎さんはそういう考え方はおかしいと反論している。
卓郎:そうそう。マルクス経済学をやめたから、
井上:それはそうだな。彼らはデフレの社会は悪くないと主張しているけれど、金持ちだからそう言うのだと思う。
卓郎:私は彼らに日本から出て行けと言っているのだけど出て行かない(笑)。
井上:金持ちは逃げないそうですね。明治大学政治経済学部の
卓郎:日本の金持ちは海外に出ても稼げないし、致命的なほど英語がうまくない(笑)。
康平:それは間違いない(笑)。実は、日本は言語障壁の高さで守られていると思っていて、国内の雇用を守りたいなら日本では英語教育をしないほうがいいとさえ思っています。
井上:それはなぜ?
康平:日本人が英語ペラペラになったら、世界中から英語をしゃべることができる人たちが日本に来て働き始めるじゃないですか。治安もいいし物価も安いから。そうしたら、日本人の職が奪われてしまう。今は日本に来ても英語が通じないから、シンガポールとかマレーシアなど英語の通じる国で働いている。
井上:そうか言語障壁が日本の雇用を守っているのか。
卓郎:
相場の未来は専門家にもわからない
――話をお金に戻すと、国は英語教育には熱心ですが、お金の教育はほとんどやっていませんね。中学の教科書にほんの少し載っているくらいで、教育の現場では、そのページすらスルーされているらしいです。
卓郎:本当は子どものころからお金の教育をする必要があるのに教えないから、大人になって
井上:そうなんですか? じゃあ、何ができるんですか?
卓郎:できるのは分散投資をすること。だって未来のことなんて誰にもわからないのにわかったふりをして運用をすること自体がおかしいでしょ。私の友人の
井上:いいこと言うな。僕も『キミ金』の中で未来はわからないと書きました。
卓郎:そうそう、未来はわからない。でも大雑把に言えば、安い時に買って高い時に売ればいい。
井上:それがわかれば苦労しませんよ(笑)。
卓郎:本当の買い時は相場が低調になって、日経平均株価に連動して売れるマネー雑誌がどんどん廃刊になる時。逆にマネー雑誌が創刊されたり、週刊誌にマネー記事が目立つようになったりしたら売り時です。
康平:そうでしょうね。最近も「億り人」(投資で1億円以上の金融資産を得た人)とか「仮想通貨女子」とかが出てきた瞬間に、ビットコインが暴落しています。買い時ではなくて売り時なんです。僕は運用会社に在籍していたからわかるのですが、ファンドマネージャーも苦労しています。あるテーマの相場が底の時に投信を設定しても投資家のお金は集まらない。逆に、ここから運用しても勝てるわけがないというほど相場が天井の時に、そのテーマの投信を設定すると上がっているという実績があるのでお金がどんどん集まる。でも天井だからすぐに下がり、投資家から「金融機関にハメられた」と批判されるんです。ファンドマネージャーはかわいそうなんですよ。
卓郎:私はかわいそうとは思えなくて(笑)。
井上:面白いな、この対談(笑)。
ファンドマネージャーは悪の手先か?
卓郎:多くの投信は購入時に手数料を取り、保有期間中、基準価額(投信の時価)が上がろうが下がろうが信託報酬として年1%前後を徴収する。普通のビジネスでは業績が上がらないのにギャラをもらうなんてあり得ない。
康平:そりゃそうだ。
卓郎:だから基準価額が下がったら、お前らがギャラを払えと(笑)。
井上:そういうからくりを普通の人に教える機会が必要だということですね。
卓郎:世の中にはひどいやつがいるということを子どもたちに教えるべきです。ハゲタカファンドの利回りが10%、20%というように異常に高いのはやばいことをやっているから。だって最終的なお金の行き所は……。
――康平さんは同意しますか?
康平:オヤジは実務を知らないから、そういうことを言う。ファンドマネージャーは非合法なところに投資して儲けているとか、日々合コンをしているとか、差別がひどい。
井上:でも、金持ちは基本的に相手を騙して儲けたか、先祖が相手を騙して儲けた金を相続したかのどちらかでしょ。
卓郎:そうなんですよ。人間は年間5000時間以上働くと死ぬと、産業革命期の英国で実証されています。時給1万円で生死の境まで働いたとしても年収5000万円にしかならない。だから何百億円も儲けたやつは「博打か詐欺か泥棒か」。
康平:そんなことを言うから、トンデモ経済学者って呼ばれるんだよ。
井上:でも、当たっていますよね。
康平:10打数1安打くらいですよ(笑)。
卓郎:そんなことはない。3割くらいは当たっている(笑)。
>>後編につづく
紹介書籍
プロフィール
森永卓郎(もりなが・たくろう)
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。主な著書に『なぜ日本だけが成長できないのか』『消費税は下げられる!』『雇用破壊』(角川新書)など。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)では、“年収300万円時代”の到来をいち早く予測。
森永康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在は複数のベンチャー企業のCFOや監査役も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員。Twitterは@KoheiMorinaga
井上純一(いのうえ・じゅんいち)
TRPGデザイナー。漫画家。玩具会社「銀十字社」代表取締役 代表作:スタンダードTRPGシリーズ(SRS)『アルシャードセイヴァー』、『エンゼルギア』、『天羅万象』他。著作に『中国嫁日記』『中国工場の琴音ちゃん』『キミのお金はどこに消えるのか』などがある。
撮影にご協力いただいた場所
「B宝館」
森永卓郎さんが50年間に渡って収集してきたコレクション10万点を収蔵。グリコのおまけをはじめとする食玩、お菓子や飲料のパッケージ、ミニカーなどの模型、フィギュア、携帯電話やカメラなどの歴代デジタル機器などが所狭しと展示されている。(毎月第1土曜に公開)
http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~morinaga/