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特集

11年ぶりの「バチスタ」対談 海堂尊×ココリコ・田中直樹【後編】「司法が医療を裁くのはおかしいという思いがあるんです」

撮影:橋本 龍二  取材・文:タカザワ ケンジ 

2015年にいったん閉じられた桜宮サーガから新たな物語が4作登場。表題作である「氷獄」は、『チーム・バチスタの栄光』のキーパーソン、麻酔医の氷室貢一郎のその後を描いた物語。2008年に公開された映画版で氷室を演じたココリコの田中直樹さんをお招きし、映画の思い出、氷室に対する思い、今回の「氷獄」について、海堂尊さんと存分に語っていただきました。後編では「氷獄」がどのように書かれたかを中心に、海堂さんが創作の秘密を明かします(この対談には『チーム・バチスタの栄光』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください)。
【前編】「田中さんにまたお目にかかりたくてこの物語を書いたんです(笑)」


田中さんをイメージした「氷室」

──海堂さんが「氷獄」で、氷室貢一郎のその後を書こうと思われたのはなぜでしょう?


海堂:いつか書こうとは思っていたんです。でも、僕に司法についての知識がなかった。『イノセント・ゲリラの祝祭』などで少しずつ書いてはいるんですが、司法そのものをきちんと勉強したことがなかったんですね。なぜいま書いたかというと、機が熟したんだと思います。「小説 野性時代」で年に1回「医療小説特集」がありまして、毎回、お声がけいただいているんです。前年の夏に原稿を依頼されて、そのたびに「物語を思いつけば書きますが、思いつかなかったらエッセイにさせてください」とお答えして、毎回、綱渡り的に小説を書いてきたんです。しかし、去年は「ついに今年はエッセイか」と諦めかけた。ところが、年末になって、突然ひらめいたんです。“あれ”があったな、と。それからはあっと言う間に書けました。


田中:そういう流れがあったんですね。11年前に氷室を演じて、自分の中では一度終わっていたと思っていたんですが、「氷獄」を読むとすごく生々しいんです。「バチスタ」事件を起こす前より、氷室という男をいっそう怖く感じました。あらためて、氷室貢一郎という人のすごさを思い知らされた感じです。


海堂:実は「氷獄」は、田中さんを思い浮かべながら氷室を書いていたんです。あるところを越えたときのキレ方とか。ドラマ版の城田優さんのイメージも、ときには思い浮かぶんですが、ドラマ版は途中から僕の原作とはストーリーが変わっていて、氷室のその後は書けない流れになっています。だから、氷室のその後を書くには田中さんをイメージするしかない(笑)。田中さん主役でぜひ連ドラをやってほしいくらいです。


田中:ありがたいです(笑)。あらためて思いましたけど、氷室って出てくるだけでドキドキしちゃうんですよね。それって危険で、魅力的な人物だってことだと思います。自分が演じさせてもらったってこととは別に、そういう人物なんだなあ、と。一つ質問していいですか。書き始めたときには、最後までお話は決まっていたんでしょうか。



海堂:最後の場面だけは見えていましたね。その間はないんです。正直言って、書く前には物語の展開はぜんぜん考えていなかったですね。氷室は牢屋にいるということだけはわかっていて、ああいう性格だから、ストレスなく生きているんだろうな、くらいのことは考えていました。毎日同じ生活をして、葛藤なんかないだろう。そんな彼が動くには、何か外的な要因が必要。だったら、長らく止まっていた裁判が開始するということが出発点になるな、と。そこから書いていったんですよ。


田中:「芋煮会集団中毒事件」が出てきますが、それはどうやって思いつかれたんですか?


海堂:氷室は抗議する人でもある。つまり、世の中に起きていることに対して「こんなのはおかしいじゃないか」と憤りを感じる。そこで先頭に立って闘うと革命家になるんですけど、氷室は先頭には立たない。かといって、自分を守ろうとする気はないから、自分の裁判では争わない。だから、氷室が闘うためには別の事件が必要なんですよ。以前、『玉村警部補の災難』という短篇集で、微量元素の分析が可能になるスプリング8というものを登場させたことがあって、これは和歌山カレー事件でも新しい証拠として使われているんですよね。それを思い出したことと、たまたま冤罪を扱う弁護士さんの忘年会に参加する機会があって、氷室とスプリング8と冤罪とがつながったんです。


田中:なるほど、そういうつながりがあったんですか。


海堂:もともとは、僕の中に司法が医療を裁くのはおかしいという思いがあるんです。司法は医療事故を裁きますが、司法は司法事故は裁きません。でも、医療事故を裁くシステムをつくるという案があるなら、司法事故を裁くシステムを同じ枠組みでやらないとおかしい。それが冤罪事件の弁護士や、スプリング8とつながった。これは誰かから書けって言われているんだな、と思い、しょうがないから書いたんですよ(笑)。



田中:物語をどうやって組み立てていらっしゃるのかが不思議だったんです。


海堂:自分でもよくわからないですね。飛行機の模型をつくるときに、部品をいきなりここに置いてみたら、後でそれがエンジンだったってわかるみたいな(笑)。


田中:そんなふうなんですか。想像もつかないなあ。司法と医療の対立は、映画の『チーム・バチスタの栄光』でも白鳥が言っていましたけど、ぜんぜん知りませんでした。


海堂:医師でも知らない人がほとんどですよ。医療は患者が来て対応する現在進行形。だからミスが起きるのはある程度はしょうがない。でも、司法は事件が起きてから調べるから、ミスは故意であることが多い。でも、それを直接司法に言っても相手にされないし、世間から非難される。白鳥が言ったり、ほかの登場人物が言ったりしたほうが、わかってもらいやすい。でも小説では登場人物たちに、自分の言いたいことをすべて言わせているわけじゃないんですよ。それをやると物語が壊れますから。いちばん大事なのは面白い小説を書くことなので。



海堂 尊

1961年千葉県生まれ。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』でデビュー。著書多数。最新作は『フィデル誕生 ポーラースター3』(文春文庫)。

田中 直樹

1971年生まれ。大阪府出身。1992年に遠藤章造とお笑いコンビ「ココリコ」を結成し、以降さまざまなバラエティ番組で活躍。MCやパーソナリティとしても注目を集めるほか、俳優としても数多くの映画やドラマで存在感のある役を演じてきた。映画『みんなのいえ』で、第25回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

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