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(評者:鈴木 崚汰 / 声優)
鈴木 崚汰(すずき・りょうた)1998年12月22日、愛知県出身。声優。千葉県立検見川高校に入学後、陸上部と放送委員会を兼務していたが、1年時にNHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)の朗読部門で準決勝に進出。陸上部を辞めて放送委員会に専念する。3年時にNコン朗読部門で優勝を遂げる。大会優勝後、現在の事務所であるヴィムスに所属し、以来、声優として活躍。
声優としての代表作はTVアニメ「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」石上優役、「キングスレイド意志を継ぐものたち」リヒト役、「ツルネ ―風舞高校弓道部―」山之内遼平役など。
構成:タカザワケンジ
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1年生の夏にNコン(NHK杯全国高校放送コンテスト)の朗読部門で準決勝まで進みましたが、あと1点足りず決勝に行けませんでした。
優勝したい。
そんな思いから兼部していた陸上部をやめて、放送委員会1本に絞りました。
ところが、2年生の時は、県大会で敗退してしまったんです。
1年生で結果を出せたことに正直驕りもあったし、天狗になっていたところもあったと思います。でも、朗読に対してはまじめに取り組んでいたつもりだったのでショックでした。
いま振り返ると、熱心だったことがアダになったのかもしれません。顧問の先生だけではなく他校の先生など、いろんな人に朗読を聞いてもらい意見をうかがいました。先生によって意見が違うこともあり、どれを信じていいかわからずに、ぜんぶ詰め込んでしまいました。結局、いろんなものが混じって闇鍋みたいになってしまったのかもしれません。
いま聞き直すとよくわかるのですが、当時は何がダメだったのか、わかりませんでした。
結果が出なかったことに腐ってしまい、放送委員会をやめようとさえ思いました。その時すでに声優の養成所にも通い始めていたので、そっちに絞ろうかな、と。でも、秋の大会がまたある、仲間たちも背中を押してくれました。
秋の大会は、千葉県独自のルールで、1年生で全国大会に行ったら、次の大会は部門を変えて出場しなければなりませんでした。朗読ではなくアナウンス部門で出ることになったんです。
アナウンスに取り組んでみて、「伝えること」に重きを置くという読み方に向き合いました。朗読とは違うところを集中的に訓練することで、結果的に朗読にも活きてきました。自分を見直すきっかけにもなったような気がします。
結局、アナウンス部門で関東大会に進むことができて、おかげで放送委員会をやめたいという気持ちを吹き飛ばすことができました。
そんな苦しい2年生時代を経て、3年のNコンでは再び朗読部門にエントリーしました。題材として橋本紡さんの『流れ星が消えないうちに』を選び、全国大会優勝を果たすことができました。ついに目標を達成することができたのです。
小説『ドキュメント』には、ものをつくっていくうえでの部員たちのぶつかりあいが描かれていますが、創作ドラマ部門では僕も同じような経験をしました。面白いものをつくろうという気持ちは同じでも、一人ひとり考え方が違うから難しいですね。
その一方で、仲間のことをすごいと思うこともありました。僕は主に演技と演出の担当で、脚本は別の委員が書いていたんですが、ゼロからイチを生むことはとても大変な作業です。自分にはできないなと素直に思いました。才能の違う仲間が手を取り合って、一つの作品をつくっていくことのすばらしさを実感できたことは、今でも宝物です。
『ドキュメント』では、何を伝えるのか、誰のために伝えるのかという本質的なことも、テーマの一つになっています。
主人公の圭祐が「報道は自分のためにしちゃダメなんだ……」と気づく場面がありますが、高校時代の僕らは本当の意味で「誰かのため」に作品をつくっていただろうか、と考えてしまいました。放送委員会の後輩たちがこの小説を読んだらどう感じるのか、聞いてみたいですね。
いま振り返ると、放送委員会に入ってよかったなと思うことはいろいろあります。
基礎的なことでいえば滑舌練習。一般的に知られているものだけでなく、僕の母校である検見川高校にはオリジナルのメニューもあるので、それはいまでも活用しています。
放送では、朗読は演技ではない、情報を盛りすぎてはいけない、と指導されるので、声優の演技とは違うものなのですが、「伝える」という基本は共通する部分があります。仕事で演じる芝居を構成する基盤になっているのは、放送委員会で培われたものだと思っています。
『ドキュメント』のなかに、人気声優になったオダユーこと小田祐輔が部室に残していったヘッセの作品『車輪の下』が出てきますが、その本には書き込みがたくさんあり、僕も同じようなことをしていました。どの箇所を朗読するかを抽出し、発音について細かくチェックしていたんです。作品の書き手や登場人物を理解することは、僕の芝居の基礎になっています。
放送委員会にいて感じたことは、3年間でこんなに日本語について研究することはないな、ということでした。野球やサッカーをやっている高校生が「ボールが友達」と言うのと一緒で、放送部員にとっては「日本語が友達」なんです。つねにアクセント辞典を持ち歩いて、わからない単語を調べていました。そして「伝える」ってどういうことだろうと考えたり、話し合ったり。結論はいまだに出ていませんけど、当時に考えたことや話したことがいまの仕事にもつながっているのは間違いありません。
高校を卒業してから4年が経ちますが、いまでも母校の放送委員会とのつながりは続いています。コロナ禍になる前は、空いている日があれば、学校に出向いて後輩たちを教えていました。だから、現役生のけっこう下の代まで知り合いですよ。
2020年度のNコンはコロナ禍で残念ながら中止になってしまいました。後輩たちから連絡をもらいましたが、目指すべき大会を失ってしまった本人たちのその悔しさは計り知れません。きっと全国につらい思いをした高校生がたくさんいると思います。同時にNコンを経験できた僕らは幸せだったなと、あたりまえだと思っていたことの大切さに気づかされました。
湊かなえさんが『ブロードキャスト』と『ドキュメント』の2作で高校の放送部にスポットライトをあててくれたことは、本当にありがたいです。
実は僕も、声優という仕事を通じて、もっと放送部に注目してもらえるようなことができたら、という夢を持っています。恩返しをしていきたいという気持ちがずっとあります。ですから、こうして放送部のお話をさせていただけるのはとても嬉しいです。
もしも『ドキュメント』がアニメ化されたら……、もちろん、僕は主人公の圭祐を演じたいですね(笑)。高校の放送部には熱い青春があることを、湊かなえさんの小説を通して、たくさんの人に知ってほしいと思います。
作品紹介
湊かなえがおくる、興奮と感動の高校部活小説!
中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故に遭い高校では放送部に入ることに。圭祐を誘った正也や久米さんたちと放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。三年生引退後、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材としてドローンを駆使して陸上部を撮影していく。すると映像の中に、煙草を持って陸上部の部室に入る同級生の良太の姿が発見される。圭祐が真実を探っていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになって……。
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◉試し読みはこちら:湊かなえ『ドキュメント』序章