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レビュー

放送部出身の声優・鈴木崚汰が語る、湊かなえ最新刊『ドキュメント』「まるで僕の人生を描いたような物語に驚き、共感し、考えさせられました」〈前編〉

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(評者:鈴木 崚汰 / 声優)



鈴木 崚汰(すずき・りょうた)1998年12月22日、愛知県出身。声優。千葉県立検見川高校に入学後、陸上部と放送委員会を兼務していたが、1年時にNHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)の朗読部門で準決勝に進出。陸上部を辞めて放送委員会に専念する。3年時にNコン朗読部門で優勝を遂げる。大会優勝後、現在の事務所であるヴィムスに所属し、以来、声優として活躍。
声優としての代表作はTVアニメ「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」石上優役、「キングスレイド意志を継ぐものたち」リヒト役、「ツルネ ―風舞高校弓道部―」山之内遼平役など。

構成:タカザワケンジ

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 こんなに自分の人生に似た主人公が登場する小説があるのか、と驚きました。
 『ドキュメント』の前作にあたる『ブロードキャスト』の単行本が出た時(2018年8月)のことです。
「僕は取材は受けていないけど、鈴木崚汰をモチーフにして書かれたのでは?」と思いました。もちろん、そんなことはなかったんですけど(笑)。
 主人公の圭祐は中学までは陸上部で、高校に入ってから放送委員会に入ります。僕も同じく中学時代は陸上部で、高校に入って陸上部と放送委員会の両方に所属。圭祐とは事情が違いますが、1年の2学期から放送委員会1本に絞ったという経緯があって、共通点がとても多いんです。放送「部」じゃないの? と思われるかもしれませんが、学校行事の運営や機材準備など、第一に学校の為の活動を目的としていたので、僕の高校では「委員会」でした。

 高校放送部にとっての甲子園ともいえる、NHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)の参加者が全国でだいたい10,000人くらい。10,000人って聞くと多く感じますが、運動部の全国大会に比べれば少ない。湊かなえさんのような人気作家が高校放送部を取り上げてくださったことに感動して、単行本を手にしたその日に、公園で一気読みしたのを覚えています。

 『ブロードキャスト』では高校で放送部に入った圭祐が、ラジオドラマの制作を通して、放送の魅力に気づいていく姿が描かれています。作者の湊さんご自身が放送に対して熱心に取材を重ねられたことがひしひしと伝わってきて、鳥肌が立ちっぱなしでした。

 新刊の『ドキュメント』は、3年生が引退したあと、圭祐たちがテレビドキュメント制作に挑戦する物語です。『ブロードキャスト』に続いて、また新作を書いてくださったことは高校放送部OBとして本当に嬉しいですね。

 僕は放送委員会時代の番組制作ではラジオ・テレビドラマ部門に参加していたので、ドキュメント部門には深く関わらなかったんですけど、どんなテーマにするか、みんなで案を持ち寄って、意見を言い合うシーンの描写は、当時を思い出して胸が熱くなりました。

 物語の序盤で、圭祐たちが町のマラソン大会を取材する場面がありますが、圭祐は「マラソン」だけを追っていたけれど、黒田先輩は「マラソン大会」全体の雰囲気を伝えるために、競技以外のカットを撮っていた。これも「放送部あるある」です。
 映像を編集する時に、「こういうカットが欲しいよね」という話が必ず持ち上がるので、現場では関係なさそうな場面でも、とりあえず撮っておく。それは僕がいた放送委員会でも先輩たちから後輩に受け継がれていることなんです。

 『ドキュメント』を読んで、僕自身の高校時代を思い出したので、ここからは少し僕の話をさせてください。
 中学3年間は陸上一筋、ハードルの選手でした。県大会でまあまあの成績が残せたので、高校でも陸上を続けるつもりでした。
 でも、その一方で声優にも興味がありました。きっかけは、中学1年の時に友達がアニメにハマりだしたこと。圭祐と同じで、最初は関心がなかったんですが、見始めたらそこにしかない世界観に引き込まれて、気づいたら僕もハマっていました。それで声優という仕事に興味を持ち始めたんです。
 とはいえ、作中で登場する、中学時代から脚本家になりたいと思っている正也とは違って、もっと漠然と、「声優って楽しそうだな」程度に思っていただけなんですけどね。

 放送委員会に入るきっかけは偶然でした。
 高校に入学してからの体験入部で、陸上部の見学に行ったんです。でもその日は雨が降っていて、説明だけを聞いてそのまま解散だったので、時間が余りました。
 ちょうど校内放送で司会をやっていたのが放送委員会の人たちで、高校生とは思えない上手さだったんです。高校生でこのレベルのアナウンスができるんだ、と感動しました。それで、ちょっとだけ見に行こうかなと放送委員会の活動場所に足を運んで、そのまま入ることを決めました。後で知ったんですが、出身校である検見川高校の放送委員会は名門で、全国大会の常連だったんです。

 入学した時は、放送と陸上の両方をやるんだろうなと思っていました。
 Nコンは予選が毎年6月に始まります。4月に入学して最初の1カ月の活動は基本的なことを覚えたり、発声練習を始めたりという入門期間。朗読部門に出場することに決めて、5月から本格的に練習を始めました。
 朗読を選んだのはアニメが好きで声優に憧れていたという理由が大きかったと思います。

 準備期間は実質1カ月。先輩方が、どの作品のどの箇所を朗読するか抽出してくださって、阿川佐和子さんの『残るは食欲』というエッセイを朗読することになりました。ビールを頼む時「とりあえずビール」というけれど、それって……、という内容で、いま思えば高校生らしくないですね(笑)。

 県大会に出場したところ、最優秀に選ばれて全国大会に行くことになりました。全国に進んだ6人のうち、1年生は僕だけでした。
 まさに、夢見心地でした。
 全国大会でもそのままテンポよく準決勝まで進出したのですが、決勝にはあと1点足りずに進めませんでした。
決勝の舞台で同じ千葉県の先輩が堂々と発表する姿を見て、来年こそはこの舞台に立ちたい、という思いが強くなったんです。僕はどちらかというと結果にこだわるタイプなので、勝つために放送だけをやろうと決心して、夏休み明けに陸上部の先生にやめさせてくださいと申し出ました。
 その後、3年生で出場したNコンの朗読部門で全国優勝し、そのご褒美で春の甲子園の開会式で司会を務めるという貴重な経験もできました。
 卒業間際、陸上部の顧問の先生に「お前は陸上をやめてよかったね」と言われました。「あのまま二足のわらじだったらここまでの結果は出なかっただろう」と。嬉しかったですね。

 でも、放送委員会での3年間は、ずっといいことだけではなかったんですよ。

(後編へ続く)

作品紹介

湊かなえがおくる、興奮と感動の高校部活小説!


書影

湊かなえ『ドキュメント』
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故に遭い高校では放送部に入ることに。圭祐を誘った正也や久米さんたちと放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。三年生引退後、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材としてドローンを駆使して陸上部を撮影していく。すると映像の中に、煙草を持って陸上部の部室に入る同級生の良太の姿が発見される。圭祐が真実を探っていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになって……。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000890/

◉試し読みはこちら:湊かなえ『ドキュメント』序章


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