真梨幸子『フシギ』(KADOKAWA)
真梨幸子の最新刊『フシギ』の帯には、「二度読み必至の衝撃作!!」と書かれている。この〝二度読み〟という言葉、ミステリー以外では、あまり使われていない。そこにミステリーという文芸ジャンルの特殊性を見ることができるだろう。
そもそも二度読みとはどういうことか。かつて読んだ本が面白かったので、再読することは、どんなジャンルでもある。でも二度読みは、それとは違うのだ。まず初読時だが、ミステリーの真相やトリックに衝撃を受ける。しかしそれを成立させる伏線は、ちゃんと張られていたのか。いかに巧みに読者の思考をコントロールし、ミス・リードを誘っていたのか。こうしたことを確認したくて、ラストの一行にたどり着いた途端、すぐさま冒頭から読み返してしまう。そして作者の見事な手際を納得したとき、あらためて深く感心してしまうのである。まさに二度読みは、ミステリーならではの楽しみなのだ。だから「二度読み必至の衝撃作!!」などと書かれると、最初から大きく期待してしまう。そして作者は、こちらが上げに上げたハードルを、軽々とクリアしてのけたのである。
本書は連作風の長篇である。冒頭に「本作品は、私自身が体験、または見聞きした〝不思議〟を、小説として仕上げたものだ」とあり、なんとなく実話怪談みたいだと思った。第一話「マンションM」の〝二〇一九年、五月のある日のこと〟という書き出しも、実話怪談のイメージを強める。なにしろ、こういう感じの書き出しが、実話怪談には多いのだ。
さらに読み続けると、ホラーとしかいいようのない物語が展開していく。主人公で語り手の〝私〟は、デビューして二十四年目の作家。赤坂のタワーマンションで暮らしているのだから、作家としては成功した部類だろう。ある日、株式会社ヨドバシ書店の編集者・尾上まひるから、一度会いたいというメールが来る。仕事の依頼なら断るつもりだったが、〝私〟が上京して最初に住んだマンションMの四〇一号室で、尾上も暮らしていたことがあるという。しかも〝私〟と同じような、金縛りを体験しているというではないか。実際に会った尾上から聞いた奇怪な話にきな臭いものを感じた〝私〟は、仕事を断ることにする。だが、マンションMに取材に行った尾上が、例の部屋から転落して重体になったとの連絡が入るのだった。
その後、尾上は死亡。ところが死んだはずの彼女からのメールが届く。そこには臨死体験のときに三人の女性を見たが、三人目の正体が分からないとあった。この尾上を巡る一件が、本書を貫く大きな謎となっている。
その傍ら、別の作家が過去に暮らしていた家に関する恐怖体験や、〝私〟を担当するカリスマ美容師から聞いた話、花本女史という編集者の母と叔母の思い出などが綴られていく。どれも独立した短篇といっていいほど完成度は高い。「事故物件」を題材にしたホラーであると同時に、ミステリーの仕掛けやサプライズも盛り込まれており、ページを捲る手がもどかしくなるほどの面白さなのである。
だが、やはり最大の衝撃は、最終話の「エニシ」で明らかになる真実であろう。〝私〟の視点で語られるストーリーに流れる、どこか不穏な空気と、ちょっとした引っ掛かり。そこにこんな意味があったのか。なるほど、イヤミスの名手である真梨幸子ならではのホラー・ミステリーだと感心しきり。そしてすぐさま二度読みをして、いかに文章の隅々まで気を使っているのかを理解してしまった。一冊で二度楽しめる。まさに「二度読み必至の衝撃作!!」なのである。
(評者:細谷 正充 / 文芸評論家)
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