KADOKAWA Group
menu
menu

レビュー

死んだ人から来た、不思議なメール。それが恐怖の始まりだった――イヤミスの女王が贈る、二度読み必至の衝撃作『フシギ』

真梨幸子『フシギ』(KADOKAWA)


真梨幸子『フシギ』
定価: 1,760円(本体1,600円+税)


 真梨幸子の最新刊『フシギ』の帯には、「二度読み必至の衝撃作!!」と書かれている。この〝二度読み〟という言葉、ミステリー以外では、あまり使われていない。そこにミステリーという文芸ジャンルの特殊性を見ることができるだろう。

 そもそも二度読みとはどういうことか。かつて読んだ本が面白かったので、再読することは、どんなジャンルでもある。でも二度読みは、それとは違うのだ。まず初読時だが、ミステリーの真相やトリックに衝撃を受ける。しかしそれを成立させる伏線は、ちゃんと張られていたのか。いかに巧みに読者の思考をコントロールし、ミス・リードを誘っていたのか。こうしたことを確認したくて、ラストの一行にたどり着いた途端、すぐさま冒頭から読み返してしまう。そして作者の見事な手際を納得したとき、あらためて深く感心してしまうのである。まさに二度読みは、ミステリーならではの楽しみなのだ。だから「二度読み必至の衝撃作!!」などと書かれると、最初から大きく期待してしまう。そして作者は、こちらが上げに上げたハードルを、軽々とクリアしてのけたのである。

 本書は連作風の長篇である。冒頭に「本作品は、私自身が体験、または見聞きした〝不思議〟を、小説として仕上げたものだ」とあり、なんとなく実話怪談みたいだと思った。第一話「マンションM」の〝二〇一九年、五月のある日のこと〟という書き出しも、実話怪談のイメージを強める。なにしろ、こういう感じの書き出しが、実話怪談には多いのだ。
 さらに読み続けると、ホラーとしかいいようのない物語が展開していく。主人公で語り手の〝私〟は、デビューして二十四年目の作家。赤坂のタワーマンションで暮らしているのだから、作家としては成功した部類だろう。ある日、株式会社ヨドバシ書店の編集者・尾上まひるから、一度会いたいというメールが来る。仕事の依頼なら断るつもりだったが、〝私〟が上京して最初に住んだマンションMの四〇一号室で、尾上も暮らしていたことがあるという。しかも〝私〟と同じような、金縛りを体験しているというではないか。実際に会った尾上から聞いた奇怪な話にきな臭いものを感じた〝私〟は、仕事を断ることにする。だが、マンションMに取材に行った尾上が、例の部屋から転落して重体になったとの連絡が入るのだった。
 その後、尾上は死亡。ところが死んだはずの彼女からのメールが届く。そこには臨死体験のときに三人の女性を見たが、三人目の正体が分からないとあった。この尾上を巡る一件が、本書を貫く大きな謎となっている。
 その傍ら、別の作家が過去に暮らしていた家に関する恐怖体験や、〝私〟を担当するカリスマ美容師から聞いた話、花本女史という編集者の母と叔母の思い出などが綴られていく。どれも独立した短篇といっていいほど完成度は高い。「事故物件」を題材にしたホラーであると同時に、ミステリーの仕掛けやサプライズも盛り込まれており、ページを捲る手がもどかしくなるほどの面白さなのである。

 だが、やはり最大の衝撃は、最終話の「エニシ」で明らかになる真実であろう。〝私〟の視点で語られるストーリーに流れる、どこか不穏な空気と、ちょっとした引っ掛かり。そこにこんな意味があったのか。なるほど、イヤミスの名手である真梨幸子ならではのホラー・ミステリーだと感心しきり。そしてすぐさま二度読みをして、いかに文章の隅々まで気を使っているのかを理解してしまった。一冊で二度楽しめる。まさに「二度読み必至の衝撃作!!」なのである。

(評者:細谷 正充 / 文芸評論家)

連載時から話題沸騰! 書籍を読みたい方はこちらからどうぞ

Amazon
楽天ブックス
▶真梨幸子『フシギ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322006000159/

『フシギ』関連記事

冒頭はこちらの記事でためし読みできます!
https://kadobun.jp/trial/yasei/766.html


紹介した書籍

新着コンテンツ

もっとみる

NEWS

もっとみる

PICK UP

  • 畠中恵KADOKAWA作品特設サイト
  • 染井為人特設サイト
  • 「果てしなきスカーレット」特設サイト
  • 辻村深月『この夏の星を見る』特設サイト
  • クレハ「結界師の一輪華」シリーズ
  • 早見和真『八月の母』特設サイト

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年9月号

8月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年9月号

8月6日 発売

怪と幽

最新号
Vol.019

4月28日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

天国での暮らしはどうですか

著者 中山有香里

2

マダムたちのルームシェア5

著者 sekokoseko

3

祈りのカルテ 再会のセラピー

著者 知念実希人

4

映画 おでかけ子ザメ とかいのおともだち

原作 ペンギンボックス 脚本 長嶋宏明 芳野詩子

5

ちゃんぺんとママぺんの平凡だけど幸せな日々 2

著者 お腹すい汰

6

ダメ男の椎名先輩とヤバ男の佐々木くん 3

著者 伊咲ネコオ

2025年8月18日 - 2025年8月24日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

レビューランキング

TOP