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レビュー

全能感と逆襲される側へ転がり落ちる恐ろしさは表裏一体? 絶対的な“正義”など存在しない『人間狩り』

【カドブンレビュー】


 社会的に許されない行為をしたり、自らの悪事をネット上で自慢した者たちの個人情報を特定、それをネットにさらして攻撃する人たちのことを〈ネット自警団〉と呼ぶ。
 『人間狩り』は、そんな〈自警団〉が集うサイトを巡り、“正義とは何か”を問う横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作だ。
 江梨子は、カードの支払いが滞った顧客に督促をする電話オペレーター。滞納者たちは電話の向こうで泣き、居直り、激高する。精神的につらい仕事だった。
 唯一の気晴らしは〈自警団〉サイトを覗くこと。自ら投稿する勇気はなかったが、法では取り締まれない者たちに制裁を加える彼らに共感していた。
 ある時かかって来たクレーム電話がどうしても許せなかった江梨子は、ついに〈自警団〉サイトにその顧客の告発を行う。目論見通り、クレーマーの個人情報が特定され、拡散。その悪行までもが知れ渡り、逮捕に至る。初めて感じる全能感。江梨子は〈自警団〉サイトを介して知り合った仲間の助けも借りて“悪人の個人情報をさらす”行為にのめり込んでいく。
 〈自警団〉の正義感の裏にはストレス発散という目的が隠れているのではないかという、最初に感じていた懸念は吹き飛んでいた。
 物語の後半、江梨子たちは“大物”の個人情報をさらしたことから、思わぬ逆襲を受けることになる。追い詰められる恐怖と後悔の中、誰もが納得する正義などないことに江梨子は気づいていく。
 そして、江梨子の仲間となったサイトの管理人・弥生や、ネット住民から“神”ともてはやされている少年・龍馬を突き動かしていた強い正義感の裏にも私的な事情が隠されていることが明らかになる。
 作者はどんなに正当に見える正義にも、それぞれ苦さの残る結末を用意して、針の穴を通すような納得感のある着地に成功している。


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