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レビュー

もう現実に戻りたくない⁈ 退屈な日常に一石を投じる博打的生き方のススメ『黄金の代償』

【カドブンレビュー】


『黄金の代償』は、タイムリミット付のクライムミステリー。結末への興味で一気に読ませるエンターテインメント小説だ。
 しかし、読み進めるうちに読者に突き付けられるのは、「退屈な日常に甘んじて一生を終えてしまっていいのか?」という問いであり、博打的な生き方、冒険への誘惑である。
 造り酒屋で蔵人として働く青年・葉山。貧しくも、今の生活に大きな不満はなかった。しかし、病気の妹の治療費が必要になり、謎の男・クロエの誘いに乗る。それは、ヤクザの弓庭から金塊を強奪するという危険な賭け。計画は成功したものの、逃走中の待ち合わせ場所で死んだクロエを発見。金塊は何者かに持ち去られていた。葉山は弓庭に脅され、金塊の行方を追う羽目に。警察の捜査も迫る中、無事、元の平穏な毎日を取り戻すことができるのか?!
 葉山は、クロエについて調べを進める過程で、彼が飼い慣らしていた生活破綻者たちに行きつく。
 中でも強烈なインパクトを放つのが、醜い巨体の中年女・松野。憎しみを行動力に変え、周囲に毒をまき散らす。しかし、暴力をふるわれると、あっけなく敵に屈してしまう。そんな自分が嫌で、また憎しみを募らすという悪循環。
「クロエの誘いに乗らなければ、こんな世界を知らずに済んだのに」と悔みながらも、葉山は彼らに魅了されていく。
 一方、かけがえのない日常を象徴するのが、葉山が勤める造り酒屋の社長、ナベさん。脱サラして家業を継いだが、酒造りには真剣だ。葉山のことも何かと気にかけてくれる人情派。しかし、作者による人物の作り込みは、圧倒的に松野の方が上と言わざるを得ない。
 日常を忘れ、非日常に遊ぶのがエンターテインメント小説。しかし、読者は日常に生還する必要がある。それが結構しんどくなってしまう危険な小説なのだ。

>>福田 和代『黄金の代償』


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