※本インタビュー記事には、一部フィクションが含まれます。
「創作大賞2024」で〈角川ホラー文庫賞〉を受賞し、2025年4月に刊行された小説作品『完璧な家族の作り方』。
本書は発売2ヶ月余りで5刷重版が決定するなど、新人賞作家のデビュー作として異例のヒットを記録し、SNSでは口をそろえて「完璧な家族になろう」と投稿する怪文書的感想が急増している。
ハウツー本のようなタイトル、微笑ましい家族写真に飾られたカバーデザインとはウラハラに、角川ホラー文庫編集部は不穏極まるPOPを作り続けている。
今回カドブン編集部は、再度角川ホラー文庫編集部へ伺い、その不可解なPOP群に込められた願いについて、取材した。
――そして私にはもうひとつ確認せねばならない事がある。
『完璧な家族の作り方』の【試し読み】記事と【インタビュー】記事。
これらを担当した直後に失踪した、カドブン編集部の先輩たちの行方を、なんとしても聞き出さねばならない――。
▼【試し読み】わたしもあなたも、完璧な家族、作れます。――藍上央理『完璧な家族の作り方』取材記録一部公開
https://kadobun.jp/trial/kanpekinakazoku/entry-118827.html
▼【インタビュー】小説?ハウツー本?『完璧な家族の作り方』とは――カドブン編集部、著者&編集担当に突撃取材!
https://kadobun.jp/feature/interview/7vhqrfilxw0s.html
『完璧な家族の作り方』不可解なPOP群に込められた願いとは? カドブン編集部が編集担当に突撃取材!
「著者のある目的」新刊時A6POP
――本日はよろしくお願いいたします。今回からこちらの作品を担当させていただくことになりました。音声は、録音させていただきますね。
編集担当T:よろしくお願いいたします。
――新刊のために作るPOPにしては、随分曖昧な表現というか……こわいというか、不穏さのみが感じられるPOPですよね。内容もよくわかりません。
編集担当T:普段は「読者を怖がらせたい」「恐怖を楽しんでもらいたい」という気持ちで本作りをしていますが、今回作業中に抱いていたのは、読者の皆さんに「幸せになってもらいたい」という、純粋な願い、祈りでした。なので、真実だけを簡潔に伝えるのがふさわしいと思ったんです。結果、書店にお求めいただいて、巨大サイズ版も作成されました。
――純粋な願いと祈り……? 書店さんも、随分協力的だったのですね。
編集担当T:はい。やっぱり、家族ですから。
「1万5千世帯」A6POP
――「発売十日で1万5千世帯増えました」? なんですか、「世帯」って。こういうときって、普通部数とかなんじゃ……
担当編集T:いや、世帯ですよ。完璧になれた家族の数なので。たくさんの読者から、完璧な家族を作れたと報告いただけて、本当に嬉しく思います。5月時点では「1万5千世帯」でしたが、今ではさらに増えています。
「TLに流れてきた家族写真」A4パネル
――これは……Xのスクリーンショットを利用したパネルですか?
担当編集T:その通りです。著者の藍上央理さんが、本作の取材途中にXで偶然発見して保存していたものを、POPに落とし込みました。
営業担当のEさんに見せたところ、ものすごい気迫で「これを使ってPOP作りましょう」って依頼されまして。気づいたら、営業部も、完璧な家族になれていたんですね。
――これが噂の、家族写真ですね。見るとどうなるんですか。それに、カドブン編集部でもこの本の記事を担当した編集者が立て続けに行方不明になっていることは、Tさんもご存知ですよね? 先輩たちはどこへ消えたんですか。
担当編集T:完璧な家族が作れるだけですよ。わたしも、あなたも。みなさんがどこへ行ったかは、本に書いてあります。写真全体も、巻末に掲載されていますよ(本を開く音)。
――やめてください(手を払う音、本が落ちる音)。そんなもの、見たくもない。私まで二の舞になるわけにはいかないんです。先輩たちみたいに行方不明になんてなりたくない……やっぱりこの本はおかしいですよ。帰ります。私、この記事の掲載、やめることにします。こんなもの広めるなんて、どうかしてる。
担当編集T:……そうですか。残念です。あなたも完璧な家族になれると、思ったんですが。
――……これ以上、気味の悪いことは言わないでください。本日はありがとうございました。
担当編集T:ありがとうございました。
――録音記録終了――
――やっぱり、あの真っ黒い本ばかり作っている編集部と『完璧な家族の作り方』は常軌を逸している。関わっちゃだめだ。私はまだ一部しか家族写真は見ていないし、危険はないはず。
……多分。きっと、大丈夫。
そもそもこんなの、新卒社員に預ける仕事じゃない。先輩が2人トんだ時点でホンモノでしょ。人手不足? ふざけないでよ。
とにかくこの原稿は、削除しないと――いや、まずは編集長に掲載中止を相談するべきか。私にはとても責任を負えない。そうだ、新人の心得はとにかく「報告・連絡・相談」だ。編集長なら、きっと、適切な判断を下してくれるはず。
……編集長が、この本を読んでなければいいけど。
作品紹介
書 名:完璧な家族の作り方
著 者:藍上 央理
発売日:2025年04月25日
わたしもあなたも、完璧な家族、作れます。
新人賞に応募された小説作品「完璧な家族の作り方」。
角川ホラー文庫編集部は、著者のある目的のため、本作の書籍化を決定しました。
※本作は、note主催・創作大賞2024〈角川ホラー文庫賞〉受賞作です。
〈目次〉
完璧な家族になるための方法とその過去の事例
北九州に現存する一軒家で起きた凄惨な事件
その家で増え続ける行方不明者
理想的で完璧な家族のあるべき姿に関して
「首縊りの家」とその周辺地域に伝わる怪談についての取材記録
など様々
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