【カドブンレビュー】
最近のネット社会の有り様に漠然とした不安を感じている人も多いのではないだろうか。
匿名性を隠れ蓑に他者を口汚く罵ったり、正義を振りかざして個人情報を晒し、無辜の人々の人生を狂わせる。自分の素性が絶対ばれないという安心感は人間をここまで残酷にしてしまうのかと戦慄すら覚える。便利な半面、そうした闇の部分が加速度的に拡大しているような気がしてならない。
そんな恐ろしいネット社会の闇から現代人を救ってくれるのが本書『ネットカルマ』だ。
ネットはもちろんインターネットのこと。カルマとは仏教用語で「業」。
「業」とは「人の行いはすべて記録されており、その行いに対する報いは必ず当人にもたらされる」ことだという。仏教学者である著者はブッダの教えを用いて、現代のネット社会がもたらす苦悩から人々を救済し、心安らかに過ごす方法を伝えようと試みている。
面白いのは著者自身がネット利用者であり、その利便性を認めつつ極めて現実的な視点から書かれた本だという点だ。馴染みのない仏教用語も現代に置き換えて分かりやすく解説してくれるので、構える必要は全く無い。むしろ馴染みのない人ほど、2500年前の教えが今現在の私達にこれほど身近なアドバイスをくれることに驚くのではないか。
どんなに為になる教えでも、より多くの人々が理解できなければその役割を果たせない。その時代に合わせた解釈を分かりやすく人々に伝えようとする著者の姿勢に、連綿と受け継がれてきたであろうブッダの教えの代弁者としての矜持を見た気がした。
今回はネットと仏教という意外な組み合わせに興味深く読むことができたが、もともと私が熱心な仏教徒かというと全くそんなことはない。知識も豊富とは言い難い。そんな自分が「なるほど確かに…」と納得させられた本書の説得力、読みやすさには特筆すべきものがある。普段あまり新書を読まない読者にも是非おすすめしたい一冊だ。
>>佐々木 閑『ネットカルマ 邪悪なバーチャル世界からの脱出』