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レビュー

秘密を抱えた正義がある――。話題沸騰の人気シリーズ――『警視庁アウトサイダー The second act 3』加藤実秋 文庫巻末解説【解説:服部宣之】

秘密を抱えた正義がある――。連続テレビドラマ化!話題沸騰の人気シリーズ
『警視庁アウトサイダー The second act 3』加藤実秋

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

警視庁アウトサイダー The second act 3』著者:加藤実秋



『警視庁アウトサイダー The second act 3』文庫巻末解説

解説
服部はつとり のぶゆき(テレビ朝日)

 ドラマプロデューサーを二十年近く生業なりわいとしている僕の好きな言葉に「絶妙なあんばい」という言葉がある。プロデューサーとしてこの言葉を口にするタイミングは非常に多い。立場上、様々なドラマや映画、役者さんのお芝居、監督の演出などについて感想を求められる機会も多いが、その時に良く用いる言葉だ。八割は本心から肯定的な意味合いで、二割は感想に非常に困る時、もしくは、実は(そのドラマや映画、舞台を)見てない&(小説・漫画を)未読の際の「誰も傷つけない感想」として用いることが多い。
「絶妙な塩梅」とは、プロデューサーにとって絶妙に使いやすい言葉なのだ。あ、でもこんなところで僕の手の内を明かしてしまい、今後、「絶妙な塩梅ですね」というフレーズが使いにくくなってしまった……。
 では、なぜ、こんな書き出しで解説を始めてしまったかというと、僕がとうあきさんの小説を読むたびに、いつも一番最初に思い浮かぶのが、「絶妙な塩梅」というワードだからだ。(当たり前ですが、今回は肯定的な意味合いで使用しています)
 加藤実秋さんの原作を映像化させていただくのは、「インディゴの夜」以来、二度目だが、僕が加藤実秋作品にかれるのは、小説世界の全てがこの「絶妙な塩梅」に満ちあふれているからである。
 本作に登場する架川英児と蓮見光輔のキャラクター、二人の主人公と脇を固める個性的なキャラクターとの関係、縦軸の事件と横軸となる毎話の事件とのバランス、コミカルなパートとシリアスなパート、フィクションとノンフィクションの割合、その全てが「絶妙な塩梅」で成り立っているのだ。
 加藤実秋さんの作品がすごく高い確率で映像化されているのは、もちろん一癖も二癖もある個性的な登場人物や巧みなストーリーテリングはさることながら、この「絶妙な塩梅」に知らず知らずのうちに制作者が惹かれていくからではないだろうか。
 僕自身、エンターテインメントの基本は、物語や登場人物の〝振れ幅〟、分かりやすく言うと、〝楽しいけど悲しい〟とか〝怖いけど優しい〟とか、こうした二つの相反することの振れ幅がどれくらい大きいかで面白さが決まっていく…と考えている。喜劇王のチャップリンは「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」という言葉を残しているが、まさしく、それは悲劇と喜劇が「絶妙な塩梅」で混じり合っているからこそ、人生なのだ……ということを言っているような気がしてならない。
 ちょっと話が脱線してしまったが、加藤実秋さんが描く世界はそんな悲劇と喜劇、サスペンスとコメディ。大きな噓とリアリティのバランスが絶妙なのだ。
 そもそも、「警視庁アウトサイダー」というタイトルからして、相反する二つの言葉が「絶妙な塩梅」で並んでいる。「成りすましの刑事」で「エース」という蓮見光輔の設定も振れ幅が大きく、またそのキャラクターの裏付けに〝警視庁の再採用制度〟という現実にある制度を使い、フィクションとノンフィクションを「絶妙な塩梅」で混ぜあわせることで、キャラクターにリアリティをもたらしている。
 ふうぼうも言動も極道な架川が、実は人一倍正義感に溢れていることも、主人公として「絶妙な塩梅」で成り立っている。
 ただ映像化する際には、一目で見て分かる「振れ幅」も必要で、加藤さんとも相談して、架川に血が苦手……、血を見るとクラッとしてしまう……という弱点を付け加えさせてもらった。たびたびドラマの中では、西にしじまひでとしさん演じる見た目も言動も極道な架川がクラッと倒れていくが、その表情がこれまた「絶妙な塩梅」なので、ぜひご覧いただきたい。
 また少し話が脱線してしまうが、架川を演じる西島さんご自身が、実はとんでもない振れ幅をお持ちだった。僕自身、お仕事でご一緒するのははじめてで、撮影前はクールで寡黙な方……というイメージを持っていたが(きっと読者の皆さまもそうだと思う)、実際の西島さんは、スタジオに置かれているお菓子を撮影の合間にモグモグ頰張り、むらひさし監督の無茶ぶりともいえる〝突然後ろ向きに歩き出す……〟という演出も(体幹を鍛えている……という裏設定)としてお芝居で乗り越えていく、お茶目でチャーミングな方だった。あのような容姿でありながらの、このギャップ。西島秀俊という存在自体が、人として〝絶妙な塩梅過ぎる〟のだった。
 西島さんのことを書きながら、更に余談を重ねるが、加藤実秋さんご自身も、小さくきやしやなお体からは想像できない、〝けん上等〟的なエネルギーに満ち溢れた方で、これまた「絶妙な塩梅」をお持ちのお方だったことを思い出してしまった。
 話を戻そう。
 今回の「警視庁アウトサイダー」に関しては、小説のアイデアを加藤さんからお聞きした時から、すぐに映像化したいと思った。
 それは、世の中のあらゆることが〝白〟か〝黒〟かの二択しかないような感じで当事者たちを追い込んでいく現代いま、白と黒が混じり合った主人公たちが躍動する物語が、とてつもなく魅力的に感じたからだ。
 ドラマの劇中にも登場する架川の台詞せりふ「悪い事したらごめんなさいだろ」ではないが、大なり小なり人は過ちを犯す生き物だからこそ、その事にどう向き合うか……、どう乗り越えていくか……が、僕自身は一番大切なことのような気がしてならない。
 加藤さんと一緒になら、そんな想いを「絶妙な塩梅」でエンターテインメントとしてしっかり描くことが出来るのではないか……、そう思ったことが原点だ。
 本作に収録された「帰って来たつみびと」では、直央の背景が明らかになり、母親の真由も巻き込んで、自殺にみせかけた殺人事件が展開していく。ある家族の悲しき事情がその背景には横たわっているが、光輔が最後に語る「どんなに残酷な真実でも、隠されたり、ごまかされたりするよりはずっといい」という言葉が、光輔の背景とも相まって重く胸に響く。ただ僕自身がもっともハッとさせられたのは、「秘密があるのは悪いことじゃないし、秘密を抱えていても、貫ける正義はあるのよ」という、このシリーズを通じてのテーマのようなことを、加藤さんが真由に語らせたことだ。
 これぞ、「絶妙な塩梅」。
 誰が語っても少々、作り手の意図が透けてしまうこの台詞を真由が言うことで、何の違和感もなく、すっと読者の心に落ちていくのだ。
 そして続く「正義と秘密と」では、いよいよこのシリーズを貫く大きな秘密が明らかになっていくが、僕がいま「正義と秘密と」に関して話せる感想は、「絶妙な塩梅ですね」の一言だけだ。ドラマ撮影は佳境を迎え、今日も脚本家のたかはしいずみさんとドラマ版最終回の打ち合わせをしている。
 そう、ドラマ脚本の最終ページ、〝終わり〟という三文字を見るまでは、僕は「正義と秘密と」を読むことは出来ないのだ。
 なぜなら、ドラマと小説では物語の展開もキャラクターも異なるので、どうしても結末は違うものにしたい……と、僕が思っているからだ。だから、「正義と秘密と」を最後まで読み終えることが出来ない。だって、読んでしまったら、加藤さんが考えた最高の事件の結末に心奪われてしまうことは間違いないから。
 小説とドラマで異なるエンディングを、読者の皆さまにはぜひお楽しみいただきたい。
 小説とドラマを互いに読み返す、見直すことで、この「警視庁アウトサイダー」シリーズはエンターテインメントとして、「絶妙な塩梅」となるのだから……。

作品紹介・あらすじ



警視庁アウトサイダー The second act 3
著者 加藤 実秋
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2023年02月24日

秘密を抱えた正義がある――。セカンドシーズン、クライマックスへ!
■連続テレビドラマ化! 話題沸騰の人気シリーズ■

桜町中央署刑事課に突然、新人刑事・水木直央の母、真由が訪ねてきた。
事故か自殺とされた知人が、殺されたかもしれないというのだ。一方、警察幹部や鷲見組が関わる不正事件にも動きがあり……。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322209001179/
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