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ドラマPが語る、加藤実秋作品の魅力 『メゾン・ド・ポリス3 退職刑事とテロリスト』

 2018年夏、新宿しんじゅくのとある喫茶店で私はそわそわしながらひとり座っていた。目の前のアイスコーヒーが入った純銅のカップも、少し汗をかいている。約束の時間より少し早く着いてしまい、手持ち無沙汰。まだ客もまばらな店内。
「いらっしゃいませ」
 という声を聞いては入口の方を振り向き、座りなおしてはコーヒーにちょっと口をつけ……を繰り返していた。
 そしてついに、
「ひさしぶりー!」
 と軽快な足取りで加藤先生が入って来られた。
 そう、この日は「メゾン・ド・ポリス」のドラマ化が決定してからはじめて加藤先生と2人だけでお会いする日だったのである。直接お会いするのは、以前お世話になった「インディゴの夜」のドラマ化から約8年(!)ぶり。8年の年月を感じさせない程、先生の変わりないお姿にびっくりしたと同時に、なんだか自分だけ老けたな……と思わずにいられなかった。というのはさておき、再び加藤先生の原作をドラマ化させていただけることに喜びで胸がいっぱいだったが、お会いするのが久々すぎてまだ緊張を引きずる私とは裏腹に、以前と同様に明るく忌憚なく話してくださる加藤先生。昔話に花が咲き、そして加藤先生の「メゾン・ド・ポリス」へかける想いを直接お聞きした。最後に私の目を真っ直ぐ見て、
「うちの子をよろしくお願いします」
 と、仰られた。
 あらためて、今回のドラマ化を何としてでも成功させなければ、と身が引き締まる思いだった。
 想像するに、この魅力的な小説に対する映像化の問い合わせは、他社からもかなりあっただろう。そんな中で弊社が、TBSさんの金曜ドラマという伝統ある枠で連続ドラマ化をさせていただけることになり、加藤先生をはじめ、KADOKAWAの皆様、TBSの皆様、スタッフ&キャストの皆様、すべての関係者の方々に深く感謝して止まない。
 そんなふうに、映像化争奪戦も起きた「メゾン・ド・ポリス」は本当に凄い小説である。『女性刑事主人公』『おじさまたち』『シェアハウス』『事件もの』。どれかひとつでもお話として成立する要素が4つも融合しているのだ。この小説を手にした時、もの凄いワクワク感が押し寄せてきた。書店やネットで文庫を見つけた方も、きっと同じような気持ちだったのではないだろうか?
〝新人女性刑事が、シェアハウスに住む警察を退職したおじさまたちと一緒に、事件を解決するお話〟
 この一言だけで抜群のエンターテインメント性を感じる。そして、キャラの強いおじさまたちと彼らに振り回されながらも頑張る牧野まきのひよりとのテンポの良いやりとり、痛快な事件捜査、そして、そんなメゾンに行ってみたいなと思わせる楽しさ。第1巻発売後、続々と重版が決定するのも非常によくわかる。ありそうでなかったこの設定。どうしてこんな発想ができるのか? 前回ドラマ化させていただいた「インディゴの夜」の時も同じことを思った。渋谷の街を舞台にしたホスト探偵団。まだホストものが流行る前の小説である。加藤先生の、時代の先を読む着眼点と発想力に毎回脱帽する。
 さらに今回の「メゾン・ド・ポリス」は、少子高齢化がさらに進むこれからの日本に投げかけるメッセージも多分にはらんでいるように思う。メゾンのおじさまたちは、持病がありながら、現役顔負けの働きでひよりと共に事件を解決する。そんな彼らの活躍に、勇気づけられる読者の方も多いのではないだろうか? そして、次の世代に何を残していくか。若者たちは先輩に何を学んでいくべきか。おじさまたちがひよりに対して見せる背中が、たくさんのことを教えてくれる。定年を迎えながらまだまだエネルギーが有り余っているオーバー60の方々が、男女問わず社会全体の割合として増えていく時代。そんな社会のバランスの変化に対応していくヒントが、「メゾン・ド・ポリス」にはあるように思える。
 痛快な事件解決ものとしての極上のエンターテインメント性の中に、時代と人を捉え、社会的テーマにも繋がる要素がバランスよくちりばめられている。例えば、「老後」「健康」「家族」「先輩と後輩」。読者は、小説を楽しみながら、いつのまにかそれぞれの立場で自分の仕事や人生、人間関係について、様々なことを考えさせられるのではないだろうか。そういった点でも、「メゾン・ド・ポリス」シリーズは、『凄い』作品である。
 そしてついに第3巻第2巻発売から4ヶ月。この続編発売のスピードももの凄い(笑)。
 シリーズ初の長編。今回はなんとテロリストが登場する爆弾ものである。またもやワクワクしながら拝読した。もう私の頭の中は、遊園地のアトラクションに乗っているような感覚だった。偽爆弾騒ぎが続いたと思ったら、ある日突然本物の爆発! しかも先輩刑事の原田はらだには、とある災難が降りかかる。これにはホントにびっくりした。せっかく彼女できたのに……と本気で感情移入してしまった(笑)。そしてクライマックスは、ジェットコースターのような急展開だ。また、新しい曲者キャラで定年間近の警備課・梅崎うめざきが登場。彼は過去にまつわる心の傷を抱え、女嫌いである。仕事柄、映像化するなら梅崎のキャストは誰かな? とつい想像してしまう。そんな梅崎とバディを組むことになるひよりが奮闘する姿は、今まで以上に応援したくなる。ひよりがこのシリーズを通して成長している様子もうかがえる。そして言うまでもなくメゾンのおじさまたちの活躍も目が離せない。
 さらに個人的にハマったツボもたくさんある。原田に彼女ができて、原田が急に衣服の柔軟剤の匂いが強くなったというくだりに笑った。また、〈ICEアイス MOONムーン〉で出会うナナちゃんからまさかの事件解決へのヒントを得るくだり。迫田さこたの息子・保仁やすひとの髪型が、最近流行りのミュージシャンみたいに前髪が長いところ、ついに迫田の離婚した妻・葉子ようこさんが登場するシーン等々。数え上げればキリがないが、ひよりやおじさまたちだけでなく、1巻2巻からの登場人物がキャラとして成長している感じや、ファンの心をくすぐる細かい描写に、加藤先生の愛を感じる。
 加藤先生の日頃の鋭い観察眼と独特の着眼点、誰にも真似できない発想力、そして作品への愛。だから、加藤実秋作品はいつも魅力がつまっているのだと思う。
 もう既に第4巻への構想を練っているとのこと。はやっ! と思いながら、一ファンとして早く読みたくてウズウズしている。


≫加藤 実秋『メゾン・ド・ポリス3 退職刑事とテロリスト』
☆第1巻 試し読みはこちら→この冬一番の「おじキュン」ドラマ『メゾン・ド・ポリス』原作特別試し読み!


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