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レビュー

湊かなえ、初の青春小説! 舞台は高校放送部――陸上で挫折した主人公が再び全国を目指す『ブロードキャスト』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

『ブロードキャスト』湊かなえ著【文庫巻末解説】

(解説:ぶんけい / インフルエンサー・企画作家)

 本作は、二〇〇八年に『告白』(双葉社)で作家デビューを果たした湊かなえ氏の、二十二作目にあたる長編小説である。
 野球部やバレー部といったメジャーな部活ではなく、題材としてほとんど扱われることのない〝放送部〟に焦点を当てて青春を描いたな作品だ。
「湊かなえが放送部の話を書くんだって!」というニュースは、放送部員たちにとって突然当てられたスポットライトであり、皆が歓喜した。放送部OBである私もその一人だ。

 高校時代、放送部に在籍していた私は、本屋で『告白』に出会い、それ以来、筋金いりの湊かなえファンである。頼まれてもいないのに、友人に評論を話し、呆れられるほど熱中していた。
 そのことを知っていた祖母からある日、一通のLINEが届いた。
『神戸新聞で湊かなえさんの連載はじまるんやって』
 本作は学芸通信社の配信によって、全国の新聞各紙で連載された。
 私はその連載で『ブロードキャスト』に出会う。完結するまでの一年間、祖母が毎朝、紙面を写真に撮って送ってくれたというハートフルエピソード付きだ。(今思い返せば、とてもグレーなので、神戸新聞様、申し訳御座いません!)
 さて、そんな放送部出身の私が、本作の中でとくに印象的だった箇所を解説していこうと思う。

一.風変わりな放送部員たち
 同じ中学出身のまさに連れられ、放送室に足を運んだけいすけは、風変わりな放送部員たちと出会う。一癖も二癖もある彼女らを見て、圭祐が辟易する様子が見て取れる。身勝手なふるまいの数々に、誰しもがアウェイを感じてしまうこの現象は、まさに放送部あるあるなのだ。
「放送部にも人権を!」と言わんばかりの主張を常日頃している私たち放送部員だが、根本的な問題はこの「身内感」にあったりする。このシーンを読んだだけでも、主人公がこんな世界に進んでいってしまうのか、と若干の不安を読者は感じるだろう。おそらく湊氏は、「文化部のステレオタイプ」をここで意図的に描いている。
 文化部のイメージ(ネガティヴなほう)を具現化した、思わずウッとなってしまうキャラクターたちと出会うことで、この先、圭祐が辿る苦労がすでにかい見える。でもそれは決して圭祐だけのものではない。読者全員が持つ「文化部ってちょっと踏み込みづらいよね」という意識を改めて印象付けているシーンである。
 ところが悲しいことに、この描写はとてもリアルなのだ。
 湊氏が誇張表現をしているわけではなく、ただのリアルなのだ。
 放送部員たちは放送室という「国」を持ち、その中で生活を送っている。言語も法律も序列も特殊なことが多々ある。例えば、機材にはなぜかOBが名付けたニックネームが継承され続けているし、なんとなく指定席のようなものが存在したり、数少ない男子部員のヒエラルキーは低かったりと、彼ら(我ら)独自の世界を育んでいる。
 そりゃあ国外の者がその地を踏むとアウェイを感じるわけである。だからこそ、変わった人たちというレッテルを貼られ、「校内部活動国連」から迫害を受けるのである。
 古傷が痛い……。

(この続きは本書でお楽しみください)


『ブロードキャスト』著者 湊 かなえ
定価: 726円(本体660円+税)


『ブロードキャスト』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000889/

amazonページはこちら


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