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レビュー

邪馬台国から倭の五王、磐井の乱まで。古代の鏡に倭国通史を映し出す、まったく新しい試み『鏡の古代史』

書評家・作家・専門家が《今月の新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(評者:田中史生 / 早稲田大学教授)

 古代の鏡といって、すぐに思い浮かぶのは三角縁神獣鏡だろう。多くの教科書がその写真を掲載しているし、なんといっても卑弥呼の鏡というイメージがある。ところが著者によれば、三角縁神獣鏡は魏が卑弥呼に与えた「銅鏡百枚」の主要な鏡ではありえない。その中心をなしたのは、別の立派な大型の鏡だった。しかもその鏡には、当時の列島社会の国際環境や政治権力のあり方がはっきりと映し出されているという。
 本書は、古代の遺跡から出土する鏡の形態や、その製作・流通がどうであったのかを丹念に追いながら、日本列島における国家形成の歩みを東アジア史的視点で捉え直そうとするものである。とはいえ、考古学において古代の鏡の研究蓄積は膨大で、専門外だとややとっつきにくいという印象がある。しかし心配はご無用。本書では複雑な研究史がわかりやすく整理され、鏡の研究の最前線が専門外の者にも理解できるように配慮されている。コラムまであって、考古学の重要な理論や方法論がコンパクトに紹介されているのもありがたい。その上、文献史学の成果も取り込んで、列島史や東アジア史の流れまでしっかりとおさえてくれている。まさに古代の鏡に倭国通史を映し出そうという、これまでにない新しい試みだといえる。
 こうしてあらわれた倭人社会は、日本古代史にたくさんの重要な示唆を与えている。例えば、『漢書』地理志には「夫れ楽浪海中に倭人あり、分かれて百余国となる。歳時を以て来たり献見すと云ふ」という有名な記述がある。ここから、弥生時代の日本列島はいくつもの国に分かれ、中国と交渉を行っていたことがわかる。では当時の社会は、歴史的にどのような段階にあったと評価できるのか。この国家形成史研究の大きな関心事に、本書は、鏡の流通から、平等原理に基づく部族社会的な段階にあったとの答えを導き出している。
 近畿を中心に列島各地に前方後円墳が築かれ始める時代についても、これまでとはやや異なる古代社会像を描き出す。この時代、各地の古墳では、奈良盆地を拠点とした王権との関係を示す鏡が出土するようになる。これらは王権によって配布されたものと理解され、それが前方後円墳の全国的展開とも相まって、強大化したヤマト王権が列島各地を支配していく姿、つまりは中央が地方を圧倒していく姿としてイメージされがちだ。しかし実はこれらの鏡は、各地の地域集団が奈良盆地周辺にやってきて入手したものだという。そこから浮かび上がるのは、むしろ列島各地の有力層が王権に倭人社会のセンターとしての機能を期待し、王権を支え、その見返りに鏡をはじめとするさまざまな文物を得ていたという構図である。古墳時代の始まりが邪馬台国時代にまで遡るという近年の考古学の有力な見方に依拠するならば、これは『魏志』倭人伝の描く、30余りの国の連合体が、邪馬台国の卑弥呼や壱与(台与)を倭人の王として共立する様相ともピッタリだ。さらに、5世紀の倭の五王の時代や6世紀の磐井の乱前後の時代も、鏡が外交と内政に重要な役割を果たしていたことが、これまでにない斬新な視点で語られる。本書は、国家形成史、国際交流史に関する古代史の主要な論点に、鏡の研究から鋭く切り込んでいるのである。
 古代の鏡が、日本の考古学において重要な資料だということはなんとなくわかっていても、高度で専門的な議論の壁に阻まれて、それらがどのような意味を持っているのかを理解するのは、一般にはなかなか難しかったように思う。しかし本書によって、ようやく古代の鏡の深い世界を手軽に覗くことが出来るようになった。これで私も、博物館に並べられた鏡を、今までとは違った目線で楽しく観察することができそうである。



書籍のご購入&試し読みはこちら▶辻田淳一郎『鏡の古代史』| KADOKAWA


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