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試し読み

学年360人中353位の成績からの挑戦――THE ORAL CIGARETTES山中拓也が吐く話題作『他がままに生かされて』試し読み#8

THE ORAL CIGARETTES 山中拓也フォトエッセイ『他がままに生かされて』
大反響により台湾での翻訳版出版決定!

人気ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESのボーカルで、ほぼ全楽曲の作詞・作曲を務めるフロントマン、山中拓也。彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ『他がままに生かされて』(2021年3月2日発売)が、大反響により台湾での翻訳出版が決定!
それを記念し、特別に第1章「汚れた感情の向こう側」全話を10日間連続で公開中です。



『他がままに生かされて』試し読み#8

 大学受験

 高校に入ってからの成績は、常に地を這っていた。どのくらいかと言うと、360人中353位。まあまあヤバい。世間的に見れば、落ちこぼれの部類だろうけど当時の僕に焦りはなかった。
「お前、この成績はヤバいんとちゃうか?」
「え? なんで? うしろに7人もおるやん」
「あほ! 試験受けてない生徒が5人おるんやから、実質最後から3番やろうが」
 担任とそんなやりとりをしても、僕はどこか楽観的に考えていた。塾にも行っているし、なんとかなるだろうと安心していたのかもしれない。

 高校2年生になり、文系か理系かを選択するタイミングにも、先生の助けがあった。5教科の中で僕が一番得意としている教科は数学。しかし、化学の成績が恐ろしいほど悪く、理系へ進むにしては足を引っ張っている状態だった。
 そうして2年の終わり頃になったとき、化学を担当している担任から「2年間に私がこれだけ教えたのにできるようにならないってことは、これから先も絶対できるようにはならん。数学はできるかもしれないけど、理科系の成績を見てたら壊滅的だから、文系にしなさい。文系なら今からやれば伸びるから、ひたすら本を読んで英語の勉強をしなさい」と言われ文系へと進むことになった。
 実際、この後も化学の成績は一向に伸びる気配がなく、早めに見切りをつけてくれた先生には感謝をしている。しかも、文系の勉強を始めてからは文学や世界史に興味が出て、学力が飛躍的に伸びた。上から目線で申し訳ないが、さすがたくさんの生徒を見ているだけのことはあるな…と感心せずにはいられない。

 通常の高校生活を送るだけなら、勉強に対してプレッシャーを感じることはないが、これが受験となれば話が別だ。受験という言葉に触れるたび、小学生の頃に親から「ドリルをやりなさい!」と言われた毎日が思い浮かぶ。兄のようにならなければいけないという焦りや、受験に失敗したら人生が終わるという不安は学年が上がるごとに膨らんでいった。父親が神戸大学卒業、兄が京都大学へ進学したという事実も僕の中では大きなプレッシャーとなっていた。「良い企業に就職するためには最終学歴が大事だ」と言われるたびに、胃がキリキリと痛む。
 その痛みをかき消すように、僕は使える時間をすべて注ぎ込んで、父と同じ神戸大学を目指すことにしたのだ。朝起きて、夜寝るまでひたすら勉強漬けの毎日。同じ高校に通っていたあきら(現・ベース)にも付き合ってもらって朝の6時に塾に行き、24時まで勉強をして帰るという生活は、精神的にも体力的にもきつかったが、なんとか受験までやり切ることができた。
 しかし、受験まで勉強をやり切れたからといって、合格に繋がるわけではない。残念ながら、神戸大学は不合格。僕は目の前が真っ暗になって、絶望した。人生が終わったと思ったし、終わるくらいなら浪人して再度神戸大学を受験しようかとも考えた。が、兄から「お前は猶予期間だと思ってダラダラするんやから、絶対にやめておけ。大学で人生決まらんから!」という猛反対を受け、僕は第2志望の関西学院大学かんせいがくいんへと進学することになったのだ。
 兄よ、本当にありがとう。僕は浪人していたら兄の言う通りダラダラとした猶予期間を過ごし、失敗していただろう。あのときは大学で人生が決まると本気で思っていたから冷静に判断できなかったが、今なら自信を持って言える。大学だけで人生は決まらない。
 当時の僕は、就職に有利なのは大学名だと思っていたし、今受験を控えている人たちにもその感覚はあるかもしれない。確かに一理あるし、受験は最大限努力すべきだ。受験勉強から得られるものもたくさんある。ただ、努力して大学受験に失敗したからといって人生が終わるわけではない。
 大人になって僕の友人たちを見てみると、中学校のときにやんちゃしていた友だちが会社を経営していたり、有名大学を卒業している人よりも出世している、という現実がある。そんなの一例でしょ、と思うかもしれないが決して無視できない数であることは知っておいてほしい。
 たとえ希望する大学に入れなかったとしても、一人の人間として魅力があるとか、考え方が面白いという方がよほど人から愛される。少なくとも、僕自身そういう人と一緒にいる方が刺激を感じられて楽しいし、そういう人と関わって生きていきたいと思っている。

学歴は、人間力には敵わない。これは今、僕が思っている噓偽りない気持ちだ。

(つづく)

作品紹介・あらすじ



他がままに生かされて
著者:山中拓也
定価:2,090円(本体1,900円+税)
発売日:2021年3月2日

ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESで、作品の作詞作曲を手掛けるフロントマン、山中拓也。
彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。
生死をさまよった病、愛する人の裏切り、声を失ったポリープ手術、友人の死etc.
そこには数多の挫折や失敗があり、周りにはいつも支えてくれた家族や仲間、恩人たちの存在があった。
山中拓也は、これまでもこれからも、他に生かされて我がままに生きていく。
そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ。
故郷・奈良の思い出の地巡り、ドイツや国内で撮影した作品写真、貴重なレコーディング風景など撮り下ろし写真も多数収録する。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000608/
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