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試し読み

退学寸前だった僕は先生に救われた――THE ORAL CIGARETTES山中拓也が吐く話題作『他がままに生かされて』試し読み#7

THE ORAL CIGARETTES 山中拓也フォトエッセイ『他がままに生かされて』
大反響により台湾での翻訳版出版決定!

人気ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESのボーカルで、ほぼ全楽曲の作詞・作曲を務めるフロントマン、山中拓也。彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ『他がままに生かされて』(2021年3月2日発売)が、大反響により台湾での翻訳出版が決定!
それを記念し、特別に第1章「汚れた感情の向こう側」全話を10日間連続で公開中です。



『他がままに生かされて』試し読み#7

 恩師

 高校の入学式。「最初になめられたら終わりだ」と思っていた僕は、優等生ばかりが集まる学校に真っ赤な髪で登校した。ご想像の通り、そのままクラスのみんなと仲良くなれました!なんて話になるわけがない。式が終わると、さっそく生徒指導の先生が僕のところに飛んできて、「なんだ、その髪の色は!」と問い詰められた。同級生に、ヤバい人がいるという印象を与えるには充分な出来事だったが、図らずも僕はその印象をさらに強める方へと動いてしまう。
 僕が当時感じていた中学と高校の環境の違いについて、象徴的な出来事があったので紹介しようと思う。文化祭の準備をしているときのことだ。僕はイベントごとが好きだったから、クラスメイトがサボっている中で一人黙々と作業をしていた。
 しかし、先生が見回りにやってくると、僕が作業してきたものを指さして「先生見て! これ俺が頑張って作ったんやで〜!」と平気な顔で自分の手柄にするヤツばかり。ずっとサボって喋っていたヤツが頑張りを評価される世界に辟易とした。
 せこく生きることが、上手く生きるっていうことなのか? 
 のし上がるためには、人を踏み台にしないといけないのか?
 いや、違うはずだ。少なくとも僕はそういう世界を認めたくはない。
 中学時代に付き合っていた友だちは、確かに素行は悪かったが人の手柄を横取りするような人間ではなかった。さらに言えば、家に来たときに靴を揃えたり、食器を片づけたり、毛布を畳んで帰るなど、礼儀・礼節はきちんとできるような人間ばかり。仲間が困っていたら全力で助けに行くし、ズルいことはしない人間だった。だからこそ、高校時代に感じたこのズルさは、自分の記憶に嫌な思い出として残っている。
 高校生活に嫌気がさし、僕は中学の頃の友だちとつるむようになっていった。ある日、その友だちとトラブルになり警察沙汰へと発展。生徒指導の先生に事情を話すも、結局停学処分になってしまった。停学処分になったらしい、といううわさは瞬く間に広がり、《停学処分を受けたヤバい生徒》という嬉しくないレッテルを貼られることになる。友だちが警察に補導される現場に運悪く居合わせてしまったこともあり、入学して半年も経たずに2度目の停学処分を宣告された。学校としても、僕みたいな生徒をそのまま在籍させておくと、他の生徒に悪影響が出るかもしれないと考えたのだろう。2度目の停学をきっかけに、自主退学の話が浮上したのだ。もう終わったと思った。あんなに一生懸命勉強して、やっとの思いで合格したにもかかわらず高校中退? 母親は退学になるかもしれないと知り、声を上げて泣いていた。
 停学中に、担任の先生と学年主任の先生が揃って家にやってきた。「いよいよ退学の話をされるのか…」と思っていた僕だったが、二人の話はまったく違うものだった。
「せっかく中学校から勉強して進学校に入って、お母さんも喜びはったのにこのタイミングで退学になるのはこの子の将来を潰してしまう気がするんです。学校の方針としては、退学という話が出ていますが、なんとか校長にかけ合ってみるので、もう少し頑張ってみませんか?」
 …僕は驚いた。停学になったのは1度じゃない。もう2度やらかしているのだ。その過ちを許すだけでなく、僕がまだ考えていない将来のことを、考えてくれている。本気で僕の今後を心配し、引き留めようとしている。さらに先生の言葉は続いた。
「拓也くんが中学時代、どのような生活を送っていたのかは聞いています。だからこそ今の高校生活に馴染めないのも理解はできる。拓也くんは優しい気持ちを持っているから、自分のことを傷つける行動を取ってしまうんじゃないかと思います」
 この言葉を聞いたとき、担任と学年主任の先生だけは僕にレッテルを貼ることなく、僕のことを知ろうとしてくれているのが分かった。まわりが全員敵に見えていた僕だったが、先生が一通り話し終わったとき、この人たちなら信用してもいいんじゃないかという気持ちになっていた。
 その後、僕は退学を免れた代わりに、ノート10冊分の反省文を書くことになった。「ごめんなさい」と「申し訳ございません」がゲシュタルト崩壊を起こして、ミミズの集合体に見えた頃、その作業は終わりを迎えた。

 僕のことを見ていてくれる先生がいるのは唯一の救いだった。高校3年生の先輩に「俺はヤクザの息子だ」と変な絡み方をされ、トイレに連れ込まれたときにも、学年主任の先生が飛んできてトラブルを収めてくれた。止めに入ってくれなければ、自称ヤクザの息子の挑発に乗り、また殴り合いになって今度こそ退学になるところだった。
不思議なことに、どんなときも止めに来るのは担任か生徒指導の先生。ただの偶然にしてはおかしいなと思っていたが、今思えばおそらく見張られていたのだろう(笑)。こうして、最強タッグに見守られる中、僕は高校を卒業するまでケンカすることもなく、穏やかに過ごすことができた。僕をトラブルから守ってくれていた恩師には感謝しかない。高校生活に悩んでいた僕が無事に卒業できたのは、先生たちのおかげです。本当にありがとうございます。

(つづく)

作品紹介・あらすじ



他がままに生かされて
著者:山中拓也
定価:2,090円(本体1,900円+税)
発売日:2021年3月2日

ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESで、作品の作詞作曲を手掛けるフロントマン、山中拓也。
彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。
生死をさまよった病、愛する人の裏切り、声を失ったポリープ手術、友人の死etc.
そこには数多の挫折や失敗があり、周りにはいつも支えてくれた家族や仲間、恩人たちの存在があった。
山中拓也は、これまでもこれからも、他に生かされて我がままに生きていく。
そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ。
故郷・奈良の思い出の地巡り、ドイツや国内で撮影した作品写真、貴重なレコーディング風景など撮り下ろし写真も多数収録する。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000608/
amazonページはこちら


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