THE ORAL CIGARETTES 山中拓也フォトエッセイ『他がままに生かされて』
大反響により台湾での翻訳版出版決定!
人気ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESのボーカルで、ほぼ全楽曲の作詞・作曲を務めるフロントマン、山中拓也。彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ『他がままに生かされて』(2021年3月2日発売)が、大反響により台湾での翻訳出版が決定!
それを記念し、特別に第1章「汚れた感情の向こう側」全話を10日間連続で公開中です。
『他がまに生かされて』試し読み#6
暴力的な思春期
僕は中学時代、母と二人暮らしだった。父は相変わらず海外出張でほぼ家には帰ってこなかったし、兄は早々に一人暮らしをしていたからだ。母は僕のことを心配して、交友関係や勉強、生活態度についていろいろと小言を漏らすことが多かったと思う。成績が下がれば「お兄ちゃんみたいに頑張りなさい」とか、やんちゃな友だちが家に出入りするようになれば「交友関係はもっと考えなさい」とか、挙げればキリがない。そういう毎日に辟易へきえきしていた僕は、中学生になったときに不満が爆発してしまう。
このとき、父が家にいたら少し違っていたのかもしれない。僕の父は柔道をやっていて、若い頃はオリンピック選手を目指していたくらいの実力。中学生の僕が立ち向かっていったところで、敵う相手ではないのだ。それくらい圧倒的な力の差がある。小学生の頃なんて勉強が終わらないと、水風呂に沈められたこともある。よく言えば昭和の男、悪く言えば…いや、やめておこう。この歳になってまで柔道技で組み伏せられるのはごめんだ。
こうして僕が中学生の頃には、暴れまわる環境はできあがっていた。イラつくことがあれば家の壁に穴を開けまくり、母の小言を力でねじ伏せ、怒鳴り声を上げ続ける。そんな状態の息子に近づくのはどれほど怖かっただろう。それでも、泣きながら僕を羽交はがい絞じめにして止めてくれることもあった。が、僕の怒りは収まることなく、日に日に荒れ具合はエスカレートしていき、ついには母の顔面を強く殴りつけてしまうほどに関係はこじれていった。
母との関係が悪くなればなるほど、家出の回数も増えていき、月に7回は母と揉めて家を出ていく。母から僕の友だちに連絡が入って連れ戻されることもあれば、頑かたくなに帰るのを拒否し続け公園のベンチで野宿することもあった。
当時のケンカの原因はすべて些細なことだった。中学校の部活で「2打席ホームラン打ったんよ」と言ったことに対して、母が「相手がしょぼかったんでしょ」と返してきたとか、その程度のこと。
高校受験を考えるタイミングで、県で一番の高校に進学すると決めたのは、もちろん先輩への憧れという部分もあったけど、母親に迷惑をかけたから安心させてあげたいという気持ちも少なからずあった。高校に合格したときには母も喜んでくれて、僕を思う母の気持ちに少しだけ歩み寄れた気がした。
(つづく)
作品紹介・あらすじ
他がままに生かされて
著者:山中拓也
定価:2,090円(本体1,900円+税)
発売日:2021年3月2日
ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESで、作品の作詞作曲を手掛けるフロントマン、山中拓也。
彼が紡ぐ、人間の本質を表す言葉は、なぜ多くの若者を虜にするのか。そして、いかに生み出されるのか。
生死をさまよった病、愛する人の裏切り、声を失ったポリープ手術、友人の死etc.
そこには数多の挫折や失敗があり、周りにはいつも支えてくれた家族や仲間、恩人たちの存在があった。
山中拓也は、これまでもこれからも、他に生かされて我がままに生きていく。
そんな彼の半生や人生観。過去と未来のこと。今の時代に伝えたいことを綴ったエッセイ。
故郷・奈良の思い出の地巡り、ドイツや国内で撮影した作品写真、貴重なレコーディング風景など撮り下ろし写真も多数収録する。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000608/
amazonページはこちら