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試し読み

「茶漬ってこうぜ!」は江戸の流行語!? 試し読み『さらに悩ましい国語辞典』第1回

知っていると一目置かれる、誰かに話したくなる日本語のウンチクを、神永曉さらに悩ましい国語辞典』から厳選してお届け!

ちゃづる【茶漬る】 〔動ラ五(四)〕

 「茶漬ってこうぜ!」は江戸時代の流行語かも?
る」「こくる」「ディスる」「チンする」のような、名詞+「する」という造語法は、江戸時代から存在していた。
 この江戸時代に生まれた語の中で、特に私が気に入っているもののひとつに「茶漬る」がある。これで「ちゃづる」と読む。意味はご想像の通り「お茶漬けを食べる」こと。
『日本国語大辞典(日国)』では、この語の用例は江戸時代のものだけなのだが、最近、横溝正史の『人形佐七捕物帳』を読んでいたら、思いがけずこのことばに出会った。以下のような部分である。
「あねさん、すみませんがちょっと茶漬っていきますから。なに、ようがす、自分で勝手にやりますよ」(『音羽の猫』1939年)
『日国』で引用されている「茶漬る」の江戸時代の用例は、主に遊里を舞台にした小説である洒落本の『ゆうほうげん』(1770年)と『けいせいかいはな角力ずもう』(1804年)のもの、歌舞伎の『あみようとうろのきくきり』(1857年)の三例である。『日国』では引用されていないのだが、洒落本には他にも用例があるので、「茶漬る」は江戸時代の流行語に近かったのかもしれない。
 かわたけもく作の歌舞伎『網模様燈籠菊桐』は『ざるしちすけ』の通称でも知られており、現代でも上演されることがあるようだ。
 横溝正史がいつ「茶漬る」という語を知ったのかはもちろんわからない。だが『人形左七』では、しばしば江戸時代の小説について触れている部分があるので、横溝はけっこう洒落本を読んだり、歌舞伎を見たりしていたのかもしれない。
 なお、落語の世界でも「茶漬る」と言っている噺家がいた。のちに林家彦六と名乗った八代目林家正蔵である。その『いちがんこく』という落語の口述筆記の中に、
「今朝きざんだ沢庵があるがね、あれでェ、茶づってってくんねェ。いくら食べてもいいよ」(飯島友治編『古典落語 正蔵・三木助集』ちくま文庫)
とある。今もこの部分を「茶漬る」と言っている落語家がいるのかどうかわからないのだが、復活させたいことばのひとつである。


写真

神永曉『さらに悩ましい国語辞典』
定価: 1,232円(本体1,120円+税)
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続いて、「寒っ」。
この表現はいつから使われていたのでしょうか?

さむっ【寒っ】 〔俗語〕《形容詞の語幹のみの用法》

 若者ことばのようだが、江戸時代にも用例が
「寒っ」「すごっ」「うるさっ」という言い方を聞いたことがあるだろうか。
 少し前になるが、文化庁が2010年度にこれらのことばの使用状況を調査したところ(「国語に関する世論調査」)、実際に使う人や、自分では使わないが他人がそう言うのは気にならない人が増えているという調査結果が出たのである。皆さんはいかがであろうか。
 これらの語は「寒い」「すごい」「うるさい」という形容詞の語幹だけの用法である。末尾の「っ」は強調のために添えられたものである。
 いかにも若者が使いそうな言い方だが、『日本国語大辞典』によれば、けっこう古い例がある。
 たとえば、「寒っ」に関していえば、江戸時代の滑稽本『浮世風呂』(1809~13年)の例で、
「なんだなんだ。マア、待な。寒いはな。ちょっと温って聞う。ヲヲ、さむ」
とある。つまり、昨日今日生まれた用法ではないのである。
 わらべうたの「おおさむ、こさむ、山から小僧が泣いてきた」もこれと同じ用法であると言ったら、納得していただけるであろうか。
 また、「すご」には、いわ小波さざなみの小説『いもがい』(1889年)の、
「かかる処へ、ごや、鉄輪の霊か、──若い女が只一人」
という例がある。また、人によっては「すご」を強調して「ものすご」などと言うこともあるかもしれない。これなどは、謡曲『山姥やまんば』(1430年頃)の、
「あらものすごしんこくやな」
で、さらに古い。
「うるさ」も、井原西鶴の浮世草子『好色二代男』(『しよえんおおかがみ』)の例がある。
 もちろん古い例があればいいというものではないが、このような用法が増えていくのは自然な流れなのだと思う。
 ただ、ひとつ注意しておかなければならないことがある。それは、このような言い方を「自分は使わないし、他人が言うのも気になる」人がある程度存在するという事実である。
 他人が使用することに対しても抵抗を感じる人がいるということは、やはりこのようなことばを使うときは場をちゃんとわきまえて、改まった場面では使用を避けるべきなのだと思う。

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