『エヴァンゲリオン』など大ヒットアニメで活躍!大人気声優・緒方恵美初の自伝エッセイ
『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ、『幽☆遊☆白書』蔵馬、『美少女戦士セーラームーン』天王はるか/セーラーウラヌス、『カードキャプターさくら』月城雪兎/ユエ、『遊☆戯☆王』武藤遊戯、『ダンガンロンパ』苗木誠/狛枝凪斗、『地縛少年花子くん』花子くん/つかさ、etc.
数々の人気作/役を演じてきた大人気声優・緒方恵美さん。
初の自伝エッセイ『再生(仮)』(さいせい かっこかり)が2021年4月28日、発売となります。
本書で初めて明かされるエピソードもたっぷり。
発売に先駆けて、試し読みを公開いたします。
2020年、新型コロナウイルスが襲来。無料の私塾「Team BareboAt」(チーム・ベアボート)で若手たちを教えていた緒方さんが直面したのは……。
『再生(仮)』書誌情報はこちら。予約はお早めに!
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000423/
緒方恵美『再生(仮)』試し読み#5
(「第5章 教えて、育てて、学ぶ」より)
新型コロナウイルス、襲来!
◆人を分断するウイルス、直撃。
2020年2月26日。安倍首相(当時)が、最初の自粛要請をされました。
当時私は、洋楽カバーライブ「Mʼs BAR」ツアーの真っ最中。すぐに協議し、その3日後だった郡山公演を中止し、代わりにスタジオからの生配信ライブに切り替えました。最速で配信ライブをしたひとりです。
中止すればハコ(ライブハウス会場費)・レンタカーキャンセル代は至近なので全額、プラス、ミュージシャンフィー・スタジオ代が相当額かかります。個人ベースのライブなので悩みましたが、それでも、私たちは演奏準備万端だし、何よりみんなに元気出してもらいたかった。だから、ここはやろう! と思いました。来月になればきっとまた、何かの形でやれるのではないか。そう、たかを括っていたのです。
ところが、イベント仕事は次々中止に。幕を開けたばかりのお芝居(音楽朗読劇VOICARION「女王がいた客室」)も無観客配信が決まり、あっという間に3月のだけで7本のステージがなくなり、勢いで4月・5月のステージ仕事もなくなってゆき……大変なことになりました。
新型コロナウイルスの襲来です。
「人を分断するウイルス」―─
それは、エンターテインメント業界を「直撃」しました。
この原稿を書いている現在、日本の、全世界のすべての方々が、影響をこうむっています。
ですが我々は「一番最初から自粛を始め、一番最後まで自粛を求められる職業」のひとつであることは間違いなく、それは、容赦なく私たちの日常から、大切なものを奪っていきました。
芝居とは、人と人とがいて初めて成立するもの。それは一人芝居でも同じで、「相手を感じる」ことが大事。「相手のセリフを受けて心が動き、たまたま出てしまった」のが言葉である――私の持論ですが。そこで生まれる感情を、いかに豊かに持っていられるかが大事で、特に新人のうちはその引き出しをいかに増やすかが大事な時期。「筋トレ」ならぬ「心トレ」? とでも申しましょうか(笑)。
それがまったくできなくなった。稽古どころか、人と会う機会そのものが。それが与える影響は、計り知れないものでした。
Team BareboAtは休みに入りました。3月、4月。ゴールデンウィーク明けからZoomによるレッスンを始めたのですが、思うように進みません。会話が絡んでいかない。嫌な予感。いろいろ悩みましたがプロの舞台芝居やドラマ等の映像現場で、リハーサルまではマウスシールドをつけてで始めたと聞いて、7月からレッスンを再開。芝居の稽古はマウスシールド、身体訓練はマスクで、という形で始めてみたのですが、驚きました。「これがあの子たち……!?」びっくりするほど「後退」していたのです。
同じようなことは新人を起用しているアニメの現場でも、と、何人かの音響監督に聞いたので、これは彼らのせいではない。コロナのせい。だけど、と、私は頭を抱えました。
これからこの子たちを、どうやって育てていけばいいんだろう……?
◆業界に落とされた最大の「影」。
新型コロナウイルスはアニメ業界でさまざまな影を落としていきました。
いろいろ……本当にいろいろなことが変わってゆきましたが、中でも一番大変になったのは、「人材育成」と「プロモーション」でした。
大きいのは「フェス」の消失です。ライブ・イベントが本当に難しくなってしまった。
あらゆるフェスが中止になったので、そこでの「お披露目」ができなくなってしまった。
アニメジャパン、ゲームショウ他たくさんの作品が一堂に会する場は、プロモーションにとって大切でした。フェスがなくても、例えばその作品に携わる制作会社や監督や声優のコアファン層には訴求する方法はある。でもそれ以外のお客様にアピールするには、いろいろな作品が集まってくる場は本当に大切。別作品に興味あった方が、通りがかりに「おや?」と気にしてくださることこそが大事。オンラインだとお客さんはターゲットを絞って参加します。ずっと見てはくれません。つまり「拡がり」がなくなってしまうのです。
イベントができないわけですから、華やかな場も失われます。「イベント先行申込券付き」みたいなものも発売しにくいので、DVDやCDの販売数にも影響します。製作委員会さんにとっても、我々声優にとっても、これが本当に痛い。
そして人材育成は、ある意味それ以上です。作画も音響も、今まで超「密閉空間」で「密集」した現場で行われていたので、当たり前ですがそれが根底から崩れてしまいました。すべての現場が、少人数で、が鉄則になってしまった。
例えば新規入社の音響制作さん。人数制限で現場に来られないので、延々会社でエクセルに向かう日々。現場に行けばすぐにわかる制作の「成り立ち」を、いつまで経っても学べません。アニメーターさんたちなどは自宅でもできるので、一見良いように思えますが、実はスタジオで先輩たちの仕事を盗み見たり、教えていただいたりして、より高度な技術を学ぶのだとか。その機会が減ったことは厳しい、と、このコロナ禍で開催した配信イベントで、業界トッププロデューサーや音響監督、監督陣が教えてくださいました。
そしてそれは声優ももちろん同じ。
先輩と一緒になれないので学べない。マネージャーも現場に来られないので、現場の様子をうかがうことも、新人にアドバイスをすることも、他スタッフ陣に営業することもできない。
「新人」を育てることができなくなってしまったのです。
◆「筋トレ」と「心トレ」──続けてゆくことの大切さ。
かくいう私も、四苦八苦しました。
私自身は、長年培い、既に定着した「感覚」がありますからほぼ大丈夫ですが(と言っても絡めないのは本当に寂しいですが)、育てることについては本当に……まだその感覚を自分のものにしきれていない段階の新人に、一度落ちてしまった感覚をもう一度戻してもらうのは、並大抵ではありません。
それでも、少しずつ……本当に少しずつ、戻ってきました。同じ気持ちを共有してくれている講師の皆さんのおかげもあります。と言っても戻ってきたのは全員ではなく一部のメンバーで、つまりは「差が開いてきてしまった」ということなのですが……それでも、戻してきたメンバーは、あの2月のときよりも、確実に成長してきている。
「続ける」ってすごいこと。
改めて今、心に刻んでいます。
現在、アニメ音響現場は、「バラバラ収録」がメインになってしまいました。
みんなで一緒に絡むお芝居をすることができない。
自然、「ひとりでも、なんとか他の方と絡んでいるように聞こえる芝居ができる人」に声がかかることが増え―─以前ならその中に新人を放り込み育てよう、としていた現場が、作品の完成度の問題で、それをなるべく避けるようになった。
つまりド新人が入り込めるオーディション等は、極端に減ってしまったワケで―─だから少なくとも今、2021年初頭現在、これからデビューしたいと願っている人たちにとっては、辛い状況になってしまっています。
……それでも。
「ピンチは、チャンス」。
みんなが諦めている時こそ、積んでいくことが大事。いつか巡ってくるチャンス時に、力を発揮するために。そのために今は、研鑽を積むべき時。
コロナウイルスがなくなることはないかもしれない。でも、共存の仕方が整ってきて、もう一度、と業界が考え始めてくれるその時には―─その想いを胸に、今は頑張る。
みんなも、スタッフも、もちろん私も。
やめないように。止まらないように。繋げるように。
信じて、頑張っていく。それが、希望だから。
(この前後のパートは、4月28日発売の『再生(仮)』書籍でお楽しみください)
作品情報 『再生(仮)』緒方恵美
再生(仮)
著者 緒方 恵美
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
声優・緒方恵美、初の自伝本!生誕から現在までのトライ&エラーや作品秘話
声優・緒方恵美、初の自伝本発売!
『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ、
『幽☆遊☆白書』蔵馬、
『美少女戦士セーラームーン』天王はるか/セーラーウラヌス、
『カードキャプターさくら』月城雪兎/ユエ、
『遊☆戯☆王』武藤遊戯、
『ダンガンロンパ』苗木誠/狛枝凪斗、
『地縛少年花子くん』花子くん/つかさ、etc.
数々の人気作/役を演じてきた
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