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試し読み

私は、シンジだった。14歳の心を持ち続けて。 緒方恵美『再生(仮)』試し読み#6(最終日)

『エヴァンゲリオン』など大ヒットアニメで活躍!大人気声優・緒方恵美初の自伝エッセイ

『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ、『幽☆遊☆白書』蔵馬、『美少女戦士セーラームーン』天王はるか/セーラーウラヌス、『カードキャプターさくら』月城雪兎/ユエ、『遊☆戯☆王』武藤遊戯、『ダンガンロンパ』苗木誠/狛枝凪斗、『地縛少年花子くん』花子くん/つかさ、etc.
数々の人気作/役を演じてきた大人気声優・緒方恵美さん。
初の自伝エッセイ『再生(仮)』(さいせい かっこかり)が2021年4月28日、発売となります。
本書で初めて明かされるエピソードもたっぷり。
発売に先駆けて、試し読みを公開いたします。

2021年、ついに『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開。14歳の主人公・シンジを演じ続けてきた緒方さんがいま思うことは。

『再生(仮)』書誌情報はこちら。予約はお早めに!
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000423/

緒方恵美『再生(仮)』試し読み#6(最終日)

(「第6章 「あなた」と笑顔で生きる」より)

◆シンジだった。

 そして、2021年。ついにあの作品が、完結を迎えました。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。この本が出ている頃には、きっと……少なくともこの本を手にしてくださるような方々はご覧いただいているのではないかと思うのですが(笑)、いかがでしたでしょうか? きっと今頃、いろいろなシーンを想い、意見や考察が交わされていることだろうなと、勝手に思っています(笑)。聞きたいような、聞くのが怖いような、そんな気持ち。でも、それこそが『エヴァンゲリオン』。すべての方のご意見が、その方にとっての『エヴァ』という作品なのだと、今は思います。
 もちろん、私にとってのエヴァンゲリオンはあります。
 ここまでたどり着いて、今、私が思っていること。それは、

 私は、シンジだった。

 ……当たり前だろ! という声が届くかのようです。そりゃそうですよね(笑)。うまく言えないのですが、――最初はすごく違うと思っていました。抵抗がありました。私はこんなに弱くない。図々しいし、ツッコミ側だし、何よりこんなに細くない。心も体も(笑)。
 だけど、シンジだった。シンジのように生きてきたし、シンジのおかげでここまで来られた。最後の劇場版が公開されたら、そこで「卒業」だと思っていたんです。そこまで頑張れればいい。死なないで、生きて、演じ終えられたら、責務は果たせる。解放されるのだと。
 でも違った。私は、きっと、これからも――


◆14歳の心を持ち続けるというパラドックスが生み出すものについて。

 長いこと「14歳」でした。14歳の心を、ずっと持ち続けて生きてきました。
 それはまず、エヴァンゲリオンを演るために必要なことだったからですが、同時に、私自身が生きるための、ただひとつの方法だったから。

 人は、生きている中で、鎧を身につけていきます。余計なことを言って傷ついた、これは言わないようにしよう。こう振る舞ったら拒絶された、こうしないようにしよう――ひとつひとつの経験から身につける、一枚一枚の皮。それは社会の「風」から身を守る鎧。空気を読むこと。人に合わせること。出過ぎる感情を抑制すること。まとうたびにひとつ大人になり、生きる術として身についてゆく。時間が経つと固くなり、もう要らないかなと思っても、ちょっとやそっとじゃ剥がれにくくなる鎧。
 だけど私は、それが苦手でした。極端に。未熟な自分を押さえ込もう、鎧おうとしてもうまくいかない。あまりにも下手で、もういいやと体ごとすべて封じこめ、ガードに徹した時期も何度もありました。結果穴だらけでいびつな鎧を無理矢理まとい、よろめきながら生きてきた。そんな自分が嫌だった。……でも。
 役を演じる時だけは、その鎧を外していいのだと知った。
 その役として必要な部分だけ残しつつ、あとは心のままに。むしろそうすべきだと。
 なぜならそうし始めた途端、役者として評価され始めた。「役が生きているよう」「芝居に共感する」「揺さぶられる」――そんな評価をいただけるようになった。必要とされるようになった。求められるようになった。こんな私が。
 決して上手い役者じゃない。「型芝居」はいつまで経ってもできない。技術もない。練習してもしても身につかず、同期がどんどん上手くなる中、いつまで経っても追いつけない。それがコンプレックスでした。……けれど。

 私にはあるのかもしれない。
 鎧うのは苦手でも、状況に応じてボロを捨てられる力。
 すべてのことに繊細に反応する、みずみずしい、少年のような心。
 それを持ち続けること、保ち続けることだけが、私が役者でいられる唯一の――

 14歳という年齢は、とても微妙で、センシティブ。
 子供の時代を過ぎ、大人の世界が見えてきて、表面的な優しさの裏の狡さや汚さ、弱さを識り、カルチャーショックを受け始める。その戸惑い、不安が、アスカのように反発し、反抗期として現れる子もいれば、シンジのように心を隠すことで逃れようとする子もいる。どちらも傷つきやすく、壊れやすく、辛いことに背を向けたい。だけど誰かに見て欲しい。まだ包まれたい、認められたい……相反する感情の渦の中で日々翻弄され、迷いながら、ひとつずつ学び、皮を身につけ、大人になってゆく。

 だけど、私は大人です。実生活では、大人で在りたい。
 俳優業は自由そうに見えますが、どこよりも村社会な面がある。旧態依然とした掟が残り、さまざまなしがらみもある世界。ここで生き続けるためにはそう在るべき。大人でいることが必然です。
 その中で、「14歳の心」を持ち続けるのは、――本当に大変なことでした。

 大人として振る舞いながら、大人の言葉に傷つく心。無防備であろうとすればするほど、言葉が、事象が鋭くえぐる。大人としても成長し、ギャップが大きくなればなるほど深く差し込んでくるそれに、たまらず鎧いかける自分を律し、心につきかけた新たな皮を、血を流しながら剥がす日々。
「いいじゃん、『ガワだけ中学生』で。そんな人たくさんいるんだし、それっぽい声さえキープできれば、できる仕事もあるんだし。そんな微妙な違いなんか、わかる人はそんなにいない。それより何よりあんたは大人。いい歳になってもそんな役、まだ来るとでも思ってる?」
 辛いことがあるたびに、囁きかけるもうひとりの自分。どうしたらいいかわからない。やめてしまえば楽になる。そしたら役者じゃいられない。私はそんなに器用じゃない――自分の「本能」に突き上げられるまま、一番苦しかった30代、ずっと皮を剥がし続けていました。
 状況に応じてつけ剥がしできるように、固まってしまわないように。
 いつでも流せる血を、少年の痛みを、役に注入できる自分で在るために。
 誰にも理解されないまま。いつかきっとと思いながら。


◆幸せの涙は、どこへ流れていくのだろう?

 果たして「その時」はやってきました。「新劇場版シリーズ」です。

(この前後のパートは、4月28日発売の『再生(仮)』書籍でお楽しみください)

作品情報 『再生(仮)』緒方恵美



再生(仮)
著者 緒方 恵美
定価: 1,870円(本体1,700円+税)

声優・緒方恵美、初の自伝本!生誕から現在までのトライ&エラーや作品秘話
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『カードキャプターさくら』月城雪兎/ユエ、
『遊☆戯☆王』武藤遊戯、
『ダンガンロンパ』苗木誠/狛枝凪斗、
『地縛少年花子くん』花子くん/つかさ、etc.
数々の人気作/役を演じてきた
大人気声優が初めて明かす、これまでとこれから。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000423/
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