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危険なのは新型コロナだけではない!? 感染症との闘い方を NHK解説員が解説! / ポスト・コロナの世界を考える その2【前編】

 緊急事態宣言が解除されましたが、新型コロナウイルスの影響はまだまだ続いています。そして、心配なのは第2波です。今一度、感染症とどう向き合えばいいのか、人気の科学入門新書『知らないと恥をかく最新科学の話』(2019年3月発売)から抜粋します。
 著者の中村幸司さんは、NHKの解説委員として、感染症にまつわる取材を重ねてきています。1年前には、パンデミックを解説するなど感染症への対策の重要性をいち早く訴え、いまあらためて注目を集めています(https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/319587.html)。本書でも、新型インフルエンザのケースを例に、感染症との向き合い方を解説。今あらためて読むべき内容です。

■新型インフルエンザの脅威と対策

 人類はこれまで、新型インフルエンザの流行、定着、次の新型の流行、定着ということを繰り返し経験している。過去の新型インフルエンザは世界で数百万〜数千万人という規模の死者を出してきた。医学が発達した現代にあっても、2009年の新型インフルエンザのときは、世界で10万人以上の死者を出している。
 2009年に対策ができたのかどうかを思い出してみてほしい。
 メキシコで発生した「新型インフルエンザ・ウイルス」がアメリカなどで広がった。日本に入るのを水際で防ごうと空港などの状況は一変した。成田空港では海外から入国してくる人、一人ひとりの体温をサーモグラフィーで測った。感染の疑いがある人はもちろん、その人と同じ旅客機に乗っていた人は、空港近くのホテルに留められた。鉄道やバスなど公共交通機関を利用する際は、みんながマスクをして、急に高熱が出たならば、新型インフルエンザでないことがはっきりするまでは、周囲の人と接触しないようにするなど、社会的・経済的混乱が続いた。
 これだけの対策を講じても、結局は国内にウイルスが持ちこまれることを防ぐことはできなかった。国際化が進む中、対策は難しい。
 結果としては、この新型インフルエンザはスペインかぜや香港かぜほどの猛威とはならなかった。これは、いくつかの要素が重なったためと見られている。
▽そもそもウイルスの性質が香港かぜなどのような高い致死率のものではなかったこと
▽新型インフルエンザの出現が4月で、日本をはじめ多くの国がある北半球が春から夏という暖かい季節を迎える時期だったこと
▽ウイルスがかつてのスペインかぜに近い側面を持っていたため、特に高齢者の多くが持つスペインかぜの免疫が新型にも一定程度働いたことが考えられ、比較的重症者が少なかったこと
などがあげられている。また、世界各国がWHOと協力して、対策を進めたことも、過去のような感染拡大に至らなかった理由のひとつと考えられる。
 しかし、一方で、子どもや妊娠中の人、持病があって抵抗力が下がっている人が重症化するケースが目立った。やはり新型インフルエンザを侮ることはできない。

■心配なのはH7N9とH5N1

 次に出現する新型インフルエンザは、どのようなものと想定されているのか。実は、重症化する人が2009年のときより多く、死亡率が高いものになるのではないかと心配されている。
 次の新型インフルエンザになるかもしれないと考えられているウイルスのひとつが「H7N9」だ。
 H7N9は鳥インフルエンザである。中国で養鶏されているトリなどの間で感染が広がっている。そして、大量のトリを飼育している人、つまり養鶏業者などトリと濃厚な接触をした人に感染したケースが報告されている。年100人程度、さらに2016〜17年のシーズンは年間700人規模で感染した。中国では、トリの間でH7N9のウイルスが広がらないようにする対策がとられている。トリにワクチンを接種しているとされている。
 実は、このことが問題を複雑にしている。ワクチンを接種すればよいように思えるが、必ずしもそうではない。ワクチン接種すると、トリが死ななくなるので、インフルエンザ・ウイルスの所在がはっきりしなくなる。インフルエンザに感染して死ぬトリを激減させることはできるが、その一方でウイルスはどこかで密かに生き続けている。日本でも鳥インフルエンザの発生が大きな問題になることがあるが、ワクチン接種しないのはこのためだ。ワクチンによって死ぬトリがいなくなるという効果はあるが、抜本的な対策になっていないのである。H7N9のウイルスを排除することは困難になってしまったといえる。中国の発表によると、その後ヒトへの感染が減っている。しかし、H7N9のウイルスの対策をどうするのがよいのか、まだはっきりしていない。
 今後、どこかでH7N9のウイルスのヒトへの感染があらわれて、ヒトからヒトにも感染する事態が起こらないか心配されている。H7N9のウイルスを東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らの研究グループが哺乳類であるイタチの仲間のフェレットを使った動物実験で詳しく調べた。その結果、哺乳類の体内でも増殖し、哺乳類同士でも感染しやすいこと、感染した際に死ぬ率が高いことなどが明らかになった。
 H7N9のウイルスが次の新型インフルエンザになるかもしれない。警戒と対策の研究が求められている。
他に、次の新型インフルエンザとして心配されているものとしては、「H5N1」のインフルエンザ・ウイルスがある。トリの間で感染が広がっている。これまでのところヒトにはほとんど感染しないが、ヒトに感染するように変化した場合、脅威になる。Hは細胞への入口の鍵というべきもの。「H1」のウイルスは、鼻やのどの粘膜にくっつくが、「H5」のウイルスは鼻やのどに限らず、さまざまな細胞とくっつきやすい。「H5」は、細胞に侵入するとき、まるでマスターキーのようにふるまう。このため、全身に感染が広がり症状が重くなりやすい。死亡率も高いと考えられている。実際、ニワトリがH5N1に感染すると高い確率で死ぬ。H5N1は新型インフルエンザになった場合、ヒトにも致死率の高いウイルスとして流行する可能性があると指摘されている。

■次の新型インフルエンザによる被害の想定

 今後、このような新型インフルエンザがヒトの間で広がった場合、2009年の新型インフルエンザのときより被害が大きくなることは十分考えておかなければならない。国は、新型インフルエンザ等対策政府行動計画の中で、過去の感染例から新型インフルエンザによる被害を想定している。
 想定によると、日本国内で全人口の25%、3200万人が感染し、入院患者は53万〜200万人、死者は17万〜64万人となっている。これは日本だけの被害である。2009年のときの死者およそ200人とは桁違いである。行動計画では、被害はこの想定を上回ることも下回ることもあるとしている。
 A型のインフルエンザ・ウイルスは遺伝情報が変化しやすい。今は極めて稀にしかヒトに感染しないH7N9、あるいはH5N1などのウイルスが、ヒトからヒトへ繰り返し感染するようなタイプのウイルスに変化する日が来ることは、想定しておかなければならない。その必要性は、過去の歴史が示している。トリとヒトの接触機会を減らすなどの対策をとることで、新型インフルエンザの出現を遅らせることは、一定程度できるかもしれないが、出現を阻止することは困難と考えておくべきであろう。もはや時間の問題だとも言われている。

■感染拡大対策としてのワクチン備蓄

 では、未経験の新型インフルエンザにどのような対策をしておけばよいのか。ひとつはワクチンの備蓄である。
 国は、新型インフルエンザが発生したときに備えて、H5N1のワクチンを備蓄している。
 これを医療関係者など感染者と接する機会が多い人や警察官などに優先的に接種することになっている。医療や社会の秩序の維持に必要な人たちを優先する計画である。ただ、ワクチンの備蓄量は国民全員分ではない。仮に、致死率が高い新型インフルエンザが出現した場合、「我先に」とワクチン接種を求める人が出て、混乱することも予想される。国民にこうした優先順位があることをしっかり伝えて理解を得ておくことが必要になると指摘する専門家もいる。
 ただ、ワクチンの効果は事前には不明確である。インフルエンザ・ウイルスはタイプがさまざまに変化しているため、備蓄しているワクチンが新型インフルエンザにどの程度効果があるかはわからないためである。特にH7N9だった場合には、備蓄しているワクチンとタイプが異なるため、効果が十分でないことを想定しておく必要がある。
 このため、ワクチン備蓄の一方で、新型インフルエンザが出現した場合、すぐにワクチン製造に取り掛かれる体制づくりが進められている。流行している新型インフルエンザ・ウイルスを使ってワクチンをつくれば、効果が期待できる。備蓄したワクチンの数が足りずに接種できなかった人にもワクチンが行き渡ることになる。

■インフルエンザ治療薬による感染対策

 ただ、ワクチンの製造には時間がかかる。その間、備蓄したワクチン接種だけでなく、あらゆる手段で感染拡大を防がなければならない。たとえば、インフルエンザの治療に有効とされる「タミフル」や「リレンザ」といった薬の投与である。感染する前から予防的に投与することで、感染を防いだり、感染しても重症になるのを抑えてくれたりすることが期待できる。こうした薬は当然のことながら、新型インフルエンザに感染した患者の治療としても使われる。国はこうした薬の備蓄も行っている。ただ、新型インフルエンザにこれらの薬がどこまで有効かは、実際に新型インフルエンザが発生するまで未知数ともいえる。

(後編へつづく)

書誌情報



角川新書『知らないと恥をかく最新科学の話』
著者:中村 幸司
定価:(本体860円+税)
発売日:2019年03月09日
ISBN:978-4-04-082224-2
頁数:240ページ
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321711000164/


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