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試し読み

「事件ですか。事故ですか?」通信指令室が舞台の新感覚警察ミステリ『お電話かわりました名探偵です』1話試し読み!#2

Z県警本部の通信指令室。その中に電話の情報のみで事件を解決に導く凄腕の指令課員がいる。千里眼を上回る洞察力ゆえにその人物は〈万里眼〉と呼ばれている――。

「行動心理捜査官・楯岡絵麻」「白バイガール」などの人気シリーズの著者、佐藤青南さんの最新作は通信指令室が舞台の新感覚警察ミステリ! 電話の情報のみで事件を解決に導く凄腕の指令課員が活躍するエンターテインメント快作です。本作発売前に、特別に第一話を公開いたします。


書影

佐藤青南『お電話かわりました名探偵です』(角川文庫)


>>第1回へ

       2

「おっす」
 背後から声がしたかと思うと、隣にスーツ姿の男性が並んできた。背は僕のほうが高いけど、肩幅は僕の一・五倍はありそうだし声が大きいので圧がすごい。
さん」
 和田てつ 巡査部長は県警本部捜査一課所属の刑事だ。がっしりとしたスポーツマン体形に浅黒い肌、短髪。いつも声が大きくていつも笑っている。この人は女性と話すときに緊張することなんて、ないんだろうな。
「お疲れ」
「お疲れさまです」
 和田さんがスラックスのジッパーを開け、用を足し始めた。隠すつもりはないしその必要もない。見るなら見てくれと言わんばかりの堂々としたしぐさに、僕は思わず視線をらした。自分の下半身を見られないように、小便器に身体ごと近づく。我ながら器が小さい。
「昨日の休みはどこか行ったの」
「いえ。寮で一日ゴロゴロしてました」
 疲労がまっているわけでもないが、休日に出かける機会がめっきり減った。民間企業に就職した友人たちとはとにかく休みが合わない。
「和田さんは?」
「おれは昼間仕事だったけど、夜は出かけたよ。ろつぽん
「東京ですか」
「そんな驚くような距離じゃないだろ。電車で一時間もあれば着く」
 和田さんの言う通り、うちの県は東京都に隣接している。地理的にはかなり交通の便が良く、そのため、県内から東京に通勤通学する人も少なくない。そういう人には日常なのだろうけど、めったに県内から出ない僕のような人間にとって、東京のハードルは高い。東京。しかも六本木。
「六本木でなにをしたんですか」
「友達からワインの試飲会に誘われて、行ってきた」
 余暇の過ごし方がおしやすぎて、気後れしかない。僕が休日を日がな一日テレビを見たり漫画を読んだりして怠惰に消費するのは、本当に友人と休みが合わないからなのだろうか。
「しかし早乙女くん、相変わらずのイケボだねえ。同性ながられするよ」
 和田さんはそう言って、白すぎるほど白い歯を見せた。まぶしい。いつも思うけど、ホワイトニングでもしてるんだろうか。なにもしないでこの白さはないよな。
 それにしても……。
「どうしたの」
 和田さんがのぞき込んでくる。
「いや。別に……なんでもないです」
 僕はズボンのジッパーを上げ、そそくさと小便器から離れた。
 手を洗おうと洗面台の前に立ったとき、鏡に自分の顔が映る。
 とりたてて美形でもブサイクでもない、平凡きわまりない顔立ち。集団で浮き上がることもなければ、誰かの記憶に残ることもないモブキャラ。そんな僕がなんで声だけは良くて、早乙女廉なんていう期待値爆上げ間違いなしの名前なんだ。
 昔から目立ちたがりでも、リーダーシップを発揮するタイプでもなかった。承認欲求は強くない。モテたことはなかったけれど、モテたいと望んだこともなかった。
 だから日々、コンプレックスを募らせるいまの自分が意外だった。通報者からナンパされるなんて、人生で初めてのモテ期といえるかもしれない。先輩たちからも、そんな一一〇番受付員は初めてだと驚かれる。でもうれしくない。通報者たちが好きなのは「声の良い」「早乙女廉という名前の警察官」だ。声も名前も僕自身のもので、そこに偽りはない。けれど真実もない。通報者は声と名前で虚像を作り上げ、際限なく妄想を膨らませている。本当の僕を知れば、僕に言い寄る女性たちはきっと失望するだろう。それでモテているなんて、はたして言えるだろうか。
「モテ男はつらいよな」
 和田さんが隣の洗面台に向かい、ハンドソープを両手で泡立てる。
 ちょっとカチンと来た。僕なんかよりよっぽどモテてきたはずの和田さんに言われると、からかわれているみたいだ。
「モテてません」
「モテてるじゃないか」
「通報者は、本当の僕を知らないですから」
「そっちじゃない」
 不審そうな顔をすると、首をかしげられた。
「おいおい、噓だろ。どれだけ鈍感なんだ。あんなに姫のちようあいを一身に受けておい
て」
「いぶき先輩のことですか。あれは、別に」
 さっきも理不尽に怒られたし。思い出してみても、やはり納得いかない。
「直々のご指名だろ。早乙女くんのことを見初めて、ずっと傍に置いておきたいって」
 和田さんの言い方だと誤解を招く可能性がある。
 全部で十二台ある一一〇番指令台のうち、僕が五番台、いぶき先輩は四番台担当で席が隣り合っている。けど、最初からそうだったわけじゃない。三か月前にいぶき先輩が上司にかけ合い、僕を隣の席に移動させたのだ。
 けれどそれには、好きとか嫌いとかの個人的感情とは異なる、明確な理由があった。モテている、なんて勘違いできるはずもない。
「そうかな。さっきだって早乙女くんが通報者に口説かれて、えらくむくれてたみたいだけど」
 あのとき、和田さんも通信指令室にいたらしい。この人は捜査一課の所属でありながら、暇さえあれば通信指令室に入り浸っている。
「仕事中にデートの約束をしようとしたことに怒っただけで……」
 デートの約束なんて、濡れ衣だけど。
「そうかい?」
 和田さんが両手をすすぎながら、鏡越しに笑いかけてくる。「あれはどう見てもやきもちでしょ」
「いぶき先輩は、やきもちじゃないって言ってました」
「やきもち焼いてる人に自覚はないし、やきもち焼いてることを自己申告もしないでしょうよ。ま、普通はやきもちじゃないという自己申告もしないと思うけどね」
 言われてみればそんな気もする。
 いぶき先輩が僕にやきもちを……?
「信じられないって顔だね」と、ふたたび鏡越しの笑顔。
「信じられません」
「別にそれならそれでいいんだけど」
 軽く会釈をして男子トイレから出ると、和田さんはハンカチで手をぬぐいながら横に並んできた。また通信指令室に来るつもりらしい。
「帰らないんですか」
 通信指令課は当直勤務だけど、捜査一課は違う。捜査本部に招集されるとき以外は、一般的なサラリーマンと同じ時間帯に帰宅できる。
 通信指令室に詰めていると時間の感覚が狂いがちになる。すでに午後八時をまわっていた。日勤の職員はとっくに帰宅しており、廊下には僕らの靴音がやけに大きく響いている。
「まるで帰って欲しいみたいな口ぶりだね」
 和田さんが少し寂しそうにまゆを下げた。
「いや。そういうわけじゃないですけど……」
「よかった。嫌われてるのかと思った」
 けろっとして満面の笑みを浮かべる。このてんしんらんまんなところ、やっぱりモテるだろうな。同性の僕ですら好感を抱いてしまう。
「早乙女くんが指令室勤務になって、どれぐらいだっけ?」
「半年……ぐらいですかね」
 指折り数える。今年の四月に着任したので、半年強か。あっという間の半年だった。
「そっか。もうだいぶ慣れたでしょ」
「指令室の仕事に、ですか」
「うん。あと〈まんがん〉の謎解きにも」
「〈万里眼〉……」
 思わず苦笑が漏れた。
 県警本部通信指令課への異動が決まったときには、喜びと緊張のあまり身震いがしたものだ。通信指令課の〈万里眼〉にまつわる伝説は、県境の小さな町の派出所にまで届いていた。一般的に警察官の花形といえば刑事や白バイ隊員だが、ここZ県警では〈万里眼〉へのあこがれゆえに、通信指令課への異動を希望する職員も少なくない。
 しばらく歩いて、壁一面がガラス張りになった、広大な空間が見えてくる。ここが僕の仕事場である、通信指令室だ。
 正面の三十六面の巨大スクリーンに向かい、一一〇番指令台が六台二列、無線指令台六台、総合指令台四台、そして最後尾に統合台が並ぶ。一つ一つの指令台は何台ものディスプレイで囲まれていて、最初に見たときにはSF映画に出てくる宇宙船のコックピットのようだと興奮した。同時に、自分に扱えるだろうかと不安にもなった。けれど、なにごとも慣れるものだ。いまでは自然と身体が動く。一当直あたり平均百本の通報を受けていれば、それも当然か。
 ICカードキーを扉の横に設置されたリーダーにかざし、開錠する。和田さんはなに食わぬ顔で室内までついてきた。紺色の制服の中にひとり交じったスーツはかなり目立つけど、いまさら誰も驚かない。通信指令課の職員にとって、和田さんは景色の一部になっている。
「早乙女くん」
 自分の定位置である五番台に向かおうとしたとき、背後から声をかけられた。
 線の細い白髪の男性が、じりしわを寄せて微笑んでいた。死んだ田舎の祖父を思い出すようなのんびりとしたたたずまいと、死んだ田舎の祖父の家を思い出すような防虫剤の匂いに、思わず感傷に包まれそうになる。だけど僕は唇を引き結び、背筋をのばした。
「管理官」
 そう。この人は死んだ田舎の祖父ではなく、通信指令室を統率する管理官なのだ。
 やまばん 。異動のあいさつに訪れた際に自己紹介され、〈万里眼〉はこの人の下の名前をもじった二つ名だと気づいたときには、思わず納得の声を上げてしまった。つねに微笑んでいるような顔の、通信指令室よりは縁側でひなたぼっこしているほうが似合いそうなこの人が、あの伝説の〈万里眼〉なのか――と。
 市民からの一一〇番通報を受けて状況を把握し、適切な人員と車両を手配する。それが通信指令室の業務とされている。初動捜査において重要な存在であるのは間違いないが、現場の捜査に介入することはない。通信指令課は縁の下の力持ち。それが一般的な認識だ。
 ところがこの県警の通信指令室には、事件を解決に導いてしまう職員がいるという。もちろん、通信指令室に詰めている職員が直接、現場に赴くことはできない。ではどうやって事件を解決するのか。通信指令室から一歩も出ずに、通報者から聴取した情報のみで事件の真相を見抜いてしまうというのだ。
 その職員が〈万里眼〉――千里眼をはるかに超える洞察力と推理力という意味だと思っていたが、管理官の名前をもじった通称でもあったのかと、内心でひざを打った。
「〈雪の宿〉、食べる?」
 管理官は手にした袋から個装されたお菓子を差し出してきた。部下にやたらとお菓子を配るところも、そしてそのお菓子が〈雪の宿〉や〈ソフトサラダ〉、〈こつぶっこ〉といった渋いチョイスなのもまるっきり死んだ田舎の祖父だけど、相手は伝説の〈万里眼〉。「能あるたかは爪隠す」「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」とはよく言ったものだなどと、かつては思っていた。
 結論から言えば、すべては僕の勘違いだったのだけれど。
「ありがとうございます」
 休憩に入る前に欲しかったと思いつつ、〈雪の宿〉を受け取った。
「これすごくしいんだよ」
「美味しいですよね」
「へえっ。食べたことあるんだね。いまどきの若い人はこういうの食べないかと思った」
 いやいや、何度もあなたからいただいたんですけど。
 とはさすがに言えない。いつも部下にお菓子を配り歩いているので、誰になにをあげたか覚えていないのだろう。
 一番の一一〇番受理台に向かい、先輩巡査に休憩を終えたことを伝えた。先輩巡査が席を立ち、休憩に入る。
 通信指令課は各二十人の三班が、二十四時間ごとに交替で勤務についている。一秒たりとも空白を作るわけにはいかないので、休憩も睡眠も交替で取る。僕は夕食休憩から戻ったところだった。
 県内の地図が大写しになった三十六面スクリーンの前を通過し、定位置の五番台まで歩いた。スクリーンに向かって右が六番台、左が四番台だ。
「お先に休憩いただきました。ありがとうございました」
 六番台担当のほそさんに小声で礼を言う。
 細谷さんは軽く椅子を回転させ、こちらを向いた。細谷という名前とは対照的な、制服がはち切れそうな丸々とした身体つきをしている。これでも学生時代はモデルの真似事をしていたの、と自慢されたときにはまゆつばだと思ったが、当時の写真を見せられて驚いた。いまでもあの、写真の中でポーズを決めていた水着の女性は、細谷さんに目鼻立ちのよく似た別人だったんじゃないかと少し疑っている。
「なに食べたの」
「カレーです」
 カレーかあ、と、細谷さんは渋い顔をした。
「昨日もカレーだったんだよね。子供になにが食べたいっていたら、たいていカレーっていう答えが返ってくるから」
 昨日の週休日は自宅でカレーを作ったようだ。細谷さんには、金物店を営むだんさんとの間に二人の子供がいる。よく旦那さんや子供の文句を言っているけど、就業時にいつも指令台のディスプレイの脇に家族写真を飾っているのを、僕は知っている。
 やっぱり私は肉うどんにしようかなあ、二日連続カレーでもぜんぜんかまわないんだけど。などとぶつぶつつぶやきながら、細谷さんが正面に向き直る。
 僕は自席の椅子を引きながら、四番台をうかがった。いぶき先輩はちょうど通報に対応中のようだった。
 少しほっとした。和田さんに妙なことを吹き込まれた直後なので、意識してしまいそうだった。しどろもどろになったり、顔が赤くなったりしたら困る。
 指令台につき、指示指揮端末画面を確認する。
 僕が休憩で離席していた一時間のうちに、入電が八十二。一日あたりおよそ千二百本の入電は当然ながら均等にばらけているわけではなく、忙しさは時間帯によって異なる。十分以上も電話が鳴らないときもあれば、示し合わせたように同時に複数入電することもある。いまの時間は後者だった。夕方から日が変わるころにかけての一一〇番が、一日の通報の半数近くを占める。
 カレーか肉うどんかで悩んでいたはずの細谷さんも通報に対応しているし、すぐに僕の指令台にも緑色のランプがともった。そこからはあっという間に時間が過ぎた。
 マイカーで帰宅途中のサラリーマンが長距離トラックと接触した交通事故、自宅アパートの外にストーカー化した元恋人が立っているという若い女性からのSOS、万引きを現行犯逮捕したと報告してきたコンビニ店員の声は、どこか誇らしげだった。とにかく次から次に入電する通報に対応するうちに、いつの間にか日付が変わっていた。絶え間なく通報に対応していたせいで、途中でいぶき先輩と細谷さんが休憩のために離席したのにも気づかなかったほどだ。
 そしてその通報が入電したのは、深夜十二時十二分だった。
 ランプが緑色に光り、僕はうっすらとまとわりつく眠気を振り払うように顔を横に振って『受信』ボタンを押した。
「はい。Z県警察一一〇番です。事件ですか。事故ですか」
『あの……』
 若い女性の声だった。戸惑いをにじませている。だが切迫した様子ではないので、緊急事態というわけでもなさそうだ。
「どうされましたか」
 なぜか彼女は言いよどむ。ええと、とか、なんて言えばいいのかな、と独り言のように呟いていた。
 ふと思う。
 もしかして迷惑通報か?
 一一〇番は緊急性の高い事件事故のための回線だ。だが実際には、とても緊急性が高いとはいえない内容の通報も少なくない。一一〇番が適切でないと判断される通報は、全体の三割にも及ぶ。行方不明者の届け出や、自転車の防犯登録についての問い合わせ、告訴の届け出についての質問などには相談専用ダイヤルを案内するが、家にゴキブリが出たから退治して欲しいとか、電気製品の使い方がわからないなど、明らかにお門違いな迷惑通報も少なくない。その中には、困っている問題すら存在せず、ただの暇つぶしで電話してくる不届き者もいる。
 彼女もそうなのだろうか。だとしたらきつくおきゆうを据えてやらないといけない。
 若い女性相手にそんなことができるのか、自信はないけど。
 でもやらなきゃ、と自らを奮い立たせようとしたそのとき、ようやく相手が声を発した。
『なんか、イエが……盗まれたらしいんですけど』
 反応するまでに三秒ほどかかった。
「イエ、ですか」
『はい。イエ』
 イエ、イエ、イエ……そう聞いて思い浮かぶのは「家」だが、「家」は盗まれるようなものではない。聞き違いだろうか。
 ――そうか。
「遺影、ですか」
『イエイ?』女性が不審げに訊き返してくる。「遺影」を「イエ」と聞き違えたのかと思ったけど、違ったみたいだ。
『イエです。イエ。イエが盗まれたんです』
「はあ……」
 なんだ、「イエ」とはなんだ。盗まれて一一〇番に電話するような「イエ」……駄目だ、「家」しか思い浮かばない。
『だから、イエですよ、イエ。イエが盗まれたんです』
「イエというのは、住む家のことですか」
『それ以外になにがあるって言うんですか』
 どうやら「イエ」は「家」で合っているらしい。
 家が盗まれた?
「おっしゃっていることが理解できないので、もうちょっと詳しく状況を説明してくださいませんか」
『だからさっきから話してるでしょう。家が盗まれたの。買い物から帰ったら、跡形なく消えていたんだって』
「私の知っている家は、盗まれるようなものではないのですが」
 ましてや買い物から帰ったら家がなくなっていた? ありえない。
『私の知ってる家だって、盗まれるようなものじゃないよ』
 かなりいらっているらしく、言葉遣いも乱れてきた。口調からは噓をついている雰囲気はない。
 かと言って、彼女の言い分をみにもできない。家が盗まれるなんて、意味がわからない。
「あなたのいる場所はGPSでわかっています」
 発信地は県北だった。それほど大きくないけれど、交通の便が良いために大手ディベロッパーが白羽の矢を立てたらしく、このところ急激に開発され、ベッドタウンとして人気が高まりつつある街だ。その中心からやや離れた住宅街の中に、赤い丸が点滅していた。
 いたずら電話へのけんせいのつもりだったが、女性はむっとしたような口調になる。
『わかっているなら、早くお巡りさんを来させてよ』
 いたずら電話では……ない?
 ――家を盗まれた?
 タブレット用のペンを手にし、事案端末に書き込んでみる。
 あらためて文字にすると、自分はいったいなにを書いているんだという気分になる。
『私だって困ってるんだから、一刻も早くお願いね』
「えっと、盗まれたのは家、ですよね」
『家だって言ってるじゃない。何回同じことを言わせるの』
 わけがわからない。だがカーロケータシステム端末画面を見ると、管轄の警察署からパトカーが一台、現場に向かって走り出していた。通報者との会話をモニタリングしていた後方の無線指令台から、所轄署に指令が飛んだらしい。
「すみません。何度も訊き返して申し訳ないのですが、家が盗まれるというのは、どういう……」
 そのとき、左から腕がのびてきた。
 あっ、と思う。白い人差し指が『三者』ボタンを押すのを見つめる僕は、通報を一人で処理できなかった悔しさなかば、これで助けてもらえるというあんなかばといった心境だった。
「お電話かわりました。県警本部通信指令課の君野です」
 そう言って交信に割り込んできたのは、いぶき先輩だった。

(つづく)

佐藤青南『お電話かわりました名探偵です』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000373/


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