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試し読み

〈よみご〉と呼ばれる霊能者に持ち込まれた依頼とは――。【『みんなこわい話が大すき』試し読み#2】

ほんとうにこわいものは、何? 本格ホラー×極上バディ小説!

第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉大賞を受賞した『みんなこわい話が大すき』。いじめられていた少女の日常が、ある出会いをきっかけに徐々に歪んでいく本格じわ怖ホラーです。
幼さの残る小学生の視点で始まる本作ですが、胡散臭い白髪霊能者・シロさんと強面弱腰ボディガード・黒木のコンビの軽快なやり取りが楽しめる“バディ小説”の側面も。
カドブンでは特別に、そんな二人の登場シーン以降を試し読みとしてお送りします!



『みんなこわい話が大すき』試し読み#2

 事務所を訪れた女性は、かみさきと名乗った。黒木と同年代の二十代後半だろう。薄手のワンピースの上にはんそでのカーディガンを羽織っている。小柄で、いわゆるタヌキ顔の愛くるしい顔立ちだが、今その表情は硬い。
「はじめまして、神谷と申します。よろしくお願いします」
 彼女が目の前に現れた瞬間、黒木はなぜか空気がひりつくような不快感を覚えた。神谷実咲は美人だし、彼にあいさつをした態度も丁寧で好感が持てる。なのになんとも言い難い「いやな感じ」がしたのだ。
 とはいえ、彼の一存で依頼主を追い返すわけにもいかない。自分でも奇妙だと思いながら、黒木は神谷を部屋に案内した。
 神谷は室内を見渡し、それから志朗に視線を移して、「失礼ですけど、『よみごのシロさん』というのはあなたのことでしょうか?」と尋ねた。ソファセットとローテーブルがあるだけのシンプル極まりない洋室も、ごく普通の洋服姿の志朗も、彼女が漠然と抱いていた「霊能者」のイメージからずいぶん遠かったらしい。
「はい、ボクが志朗です。よろしく」
 志朗は気軽な調子で返事をしたが、その実ひどく緊張しているということが、黒木の目には明らかだった。なにしろ、神谷がこの部屋に入ってきた途端、彼は普段閉じている目を数秒パッと見開いたのだ。仕事中は欠かさず入れている義眼が、まるで神谷の姿をとらえたように見えた。
 初対面の神谷の方は、特に志朗の行動に違和感を覚えることもなく、ただ黒木にしたのと同じように一礼をして、「よろしくお願いします」と言った。
「どうぞ、おかけください」
「失礼します」
 黒木は部屋の隅に立って、ふたりの方を眺めていた。
 神谷実咲は今のところ他人に冷茶をかけそうには見えないが、それでも相当思いつめている様子ではあった。黒木がこの事務所に雇われてから一年が経とうとしている。その間、様々な人物が「よみご」を頼ってここを訪れた。今では黒木にも、深刻な理由があってここにやって来る人間と、そうでない人間との区別が何となくつくようになっている。
 しかし──と彼は心の中で首を傾げる。神谷実咲に対するこの「厭な感じ」は一体何なのだろう? 無視すればすぐに忘れてしまうほどのものだが、それでも第一印象が彼に与えた影響は少なくない。なぜ彼女のことを厭だと思ったのだろう?
さんのお知り合いですよね」
 志朗はやはり霊能者のたぐいだという知人の名前を出す。黒木も何度か聞いたことがある名前だった。神谷は深くうなずく。
「はい。加賀美はるさんの紹介で来ました。私の姉とおいのことで──あっ、これ必要かもしれないと言われたので、持ってきました」
 神谷は手元の紙袋から、一足の靴を取り出した。
 小さなスニーカーだった。新幹線を模した配色と模様で、サイズといいデザインといい、幼い子供のものと見て間違いないだろう。それなりに使い込んだものらしく、つま先などは合皮があちこちがれ、黒っぽい染みが付着している。なおも話を続けようとする神谷を、志朗はいったん遮った。
「いや、大丈夫です。それ、ちょっとしまって、神谷さんが持っていていただけますか」
「わかりました」
 神谷は紙袋に靴を戻し、大切そうにひざの上に置くと、緊張したように唇をなめた。
「では、さっそくやりましょう」
 そう言うと、志朗はテーブルの上に例の巻物を広げた。神谷が「えっ」と小さく声をあげる。
 豪華な表紙を裏切るように、その中身には何も書かれていない。文字も絵もなければ、点字のような凹凸もない。ただ白い紙が、広げるにつれてするするとテーブルの上に伸びていく。
 志朗は閉じていた瞼をさらに固く閉じ、紙の上に両手を置く。それから手探りで何かを探すように手を動かし始めた。
 紙の上を志朗の手がう。常人にはわからない何かを、まるで特殊なセンサーで読み取っているかのように見えるその行動が、彼らを「よみご」と称する由縁らしい。神谷も、見慣れているはずの黒木までもが一種異様な雰囲気に飲まれて、一言も声を発せずにそれを見つめていた。
「あ」
 少しして、志朗が声をあげた。演奏を終えたピアニストのように両手をすっと上げ、慣れた手つきで巻物をくるくると巻く。
「あ、あの」
 神谷が声をかけた。「あの、何かわかったんでしょうか……」
「申し訳ありません」
 志朗は座ったまま頭を下げた。「これ、ボクには無理です」
 神谷は「え」と声をあげ、その形に口を開けたまま、大きなひとみを開いて、目の前の志朗をじっと見つめた。黒木は何も言わなかったが、その実、彼も志朗の様子に驚いていた。

(つづく)

作品紹介



みんなこわい話が大すき
著者 尾八原ジュージ
発売日 2023年12月22日

ほんとうにこわいものは、何?
ひかりの家の押入れにいる、形も声もなんにもない影みたいなやつ、ナイナイ。
唯一の友達であるナイナイをいじめっ子のありさちゃんに会わせた日から、ひかりの生活は一変した。
ありさちゃんはひかりの親友のように振る舞い、クラスメイトは次々と接近してきて、いつもはつらく当たる母親さえも、甘々な態度をとるように。絶対に何かがおかしい。疑心暗鬼になったひかりはありさちゃんと距離を置こうとするが、状況は悪化するばかり。
数年後、〈よみご〉と呼ばれる霊能者・志朗貞明のもとに、幼い子供と心中した姉の死の真相を探ってほしいという依頼が舞い込んでいた。
無関係に思える二つの異変は、強大な呪いと複雑に絡み合い……。
第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉大賞受賞作。

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322307000942/
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『近畿地方のある場所について』著者・背筋氏による本書のレビューはこちら



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