夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年

【歌舞伎町ホストクラブ激動の50年史】 華やかなだけではない“夜の街”の真実を描く! 石井光太『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』#2 プロローグ後編
新型コロナウイルス流行の震源地とされ、“夜の街”と呼ばれた新宿歌舞伎町。虚構と真実の入り混じる街で、ホストたちはどんな半世紀をたどってきたのでしょうか。
ホストブーム、浄化作戦、東日本大震災、愛田武の死、そして新型コロナ……今まできちんと描かれることのなかった激動の半世紀に、ノンフィクション作家の石井光太さんが迫った『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』。9月25日発売の書籍を一足先に公開します。
愛本店でのイベントに招かれた児童養護施設の子供たち。彼らと愛本店をつないだのは愛田武の妻・榎本朱美だった。朱美が児童養護施設に支援をしたのには理由があった。
≫第1回から読む
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Aというホストは、スナックで働くシングルマザーによって育てられていた。Aが小学生の時、母親は客であり愛人の暴力団組員にだまされ、覚醒剤依存症にさせられてしまった。組員は母親に覚醒剤の密売や売春をさせた。家庭はあっという間に荒すさんでいった。
小学四年生の時、母親が逮捕されて刑務所に送られると、愛人の組員は行方をくらました。Aは児童養護施設に送られることになった。数年後、母親は出所したが、覚醒剤の後遺症で精神を病んで入退院をくり返し、Aを引き取ることができなかった。Aは自暴自棄になって不登校になり、中卒後は公園や川辺を転々とするなどホームレス同然の暮らしをしていた。そんな時、街を歩いていた時に声を掛けてくれたのがホストだった。
「うちで働けよ。先輩の家に住めばいいから」
Aは藁わらにもすがる思いでホストになった。そしてホストとして名を上げた後は、収入の一部を精神病の母親への仕送りに充てた。
関西で生まれ育ったBという別のホストもいた。一人っ子で大切に育てられたが、小学三年生の時に父親が重大事件を起こしたことで、母親に連れられて逃げるように街を去らなければならなくなった。
母親は北関東の街に移り住み、工場労働をしたり、水商売をしたりしてBを育てた。Bは家が貧しかったことから高校進学を諦め、中学卒業後に就職を希望した。
そこそこ大きな会社に勤められたものの、社員たちはみな父親の起こした事件のことを知っていた。Bは自分が息子だと知られるのではないかと慄いて、周囲と人間関係を築くことができず、数カ月で辞めてしまった。
この後、Bはいくつかの職を転々としていたが、どこも長くつづかなかった。そんな時、たまたま知人からホストの仕事を紹介された。歌舞伎町では、源氏名をつかい、過去をすべて隠して働いて成り上がることができると聞いて夢が膨らんだ。そしてその知人を頼って歌舞伎町へ行き、ホストになることを決めたのである。
この二人のホストは口をそろえるように言った。
「俺はホストとして成功して、周りの人を見返してやるんです」
朱美は愛本店で働くホストたちがこうした過去を背負っていることを嫌というほど知っていた。こうしたこともあって、若い頃に訪れた施設の子供たちの境遇を他人事とは思えず、長年にわたって私財を投じて支援をしたのだ。
これは、著者である私自身がホストクラブの世界に興味を持った切っ掛けとも重なる。
私は十数年にわたって貧困、虐待、少年犯罪といったことをテーマに数多くの取材をする中で、右記の例のようにホストになった人々と数多く出会ってきた。育児放棄された子、性的虐待を受けてきたLGBTの子、東日本大震災の被災者……。
多くの者に共通していたのは、ホストクラブなら自分は受け入れてもらえるのではないかという思いがあったことだ。言い換えれば、ホストクラブは社会のレールから外れた人々にとっての居場所になっていた。
ホストクラブに遊びに来る女性にも同じことがいえる。
ホストクラブの主な客は、昔も今も体を売っている若い女性たちだ。彼女たちは虐待や障害など様々な問題を抱えて夜の街にたどり着き、セックスと引き換えに手に入れた金をホストクラブで散財する。帰る場所もなく、受け入れてくれる人もいない彼女たちにとって、ホストクラブは今の自分を受け入れ、一夜の幻であっても生きていることを実感させてくれる空間なのだ。
言うまでもなく、こうした夜の街のあり方が健全だとは思わない。ホストクラブは男にとっても女にとっても、安心して身を委ゆだねられるようなところではない。その世界に染まれば一般社会にもどるのは困難になるし、少しでも道を踏み外せば、夜の歓楽街にはびこるドラッグ、ギャンブル、闇金、暴力の餌食となる。深みにはまって人生を滅ぼした者は数知れない。
にもかかわらず、歌舞伎町のホスト街はおよそ半世紀にわたって存続してきた。それは一定数の人たちがセーフティーネットに引っかからず、置き去りにされたことで、この街に流れ着いてきている現実があるからだ。
本書で描くのは、半世紀に及ぶ歌舞伎町を舞台としたホストクラブの激動の歴史と、そこに生きた人々についてだ。
日本のホストクラブは、歌舞伎町という狭い地区で衝突と再生をくり返しながら独自の文化を発達させてきた。これまでノンフィクションとして光が当てられてこなかったのには、暴力団をはじめとした裏の世界とのつながりがあり、取材が容易でなかったことがあるだろう。本書では、あえてそこに切り込むことで、歓楽街の深層にある真実を浮き彫りにしたいと思う。
これは、生きる場所を求めて歌舞伎町に集まった若者たちの、泡のように淡い夢と重い現実の物語である。
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〈第3回へつづく〉
※次回は9/16(水)に公開します。
書誌情報
書名: 夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年
著者:石井光太
発売日:2020年9月25日(金) ※電子書籍同時発売
定価:本体1600円+税
体裁:四六判並製・320ページ
装丁:國枝達也、カバー写真:森山大道
ISBN:9784041080238
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321811001053/
目次
プロローグ 男たちの漂流
第一章 「愛」の時代
愛本店/朱美とニュー愛/暴力団との癒着/バブル崩壊
第二章 ロストジェネレーション
男の園/トップダンディー/ロマンス
第三章 革命
ロマンス黎明期/記録の男/広告革命/ホストの女/芸能人
第四章 ホストブーム
第一波/客層の変化/第二の波/仁義なき戦い
第五章 歌舞伎町浄化作戦
都知事/協力会結成/栄枯盛衰
第六章 寵児
グループ戦略/イケメン戦略/滅亡
第七章 落城
レジェンド/お家騒動/愛の買収/巨星堕つ
エピローグ 新型コロナの震源地と呼ばれて
著者について
石井 光太(いしい・こうた)
1977年東京都生まれ。国内外を舞台にしたノンフィクションを中心に、児童書、小説など幅広く執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困 世界リアル貧困学講義』『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『浮浪児1945- 戦争が生んだ子供たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』など多数。