2020年、世界を覆った新型コロナウイルスは、私たちの生活を一変させてしまいました。
先行きが見えない状況が続く中で、あらためて気づけたこと。それは、家族や友人、いつもの日常を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちではないでしょうか。
そんな大切な気持ちを残すため、こくみん共済 coopが「#今できるたすけあい」プロジェクトを通じてツイッターで募集した「ありがとうの手紙」が、一冊の本にまとまりました。
書籍『ありがとうの手紙』から古東風太郎さん(『家、ついて行ってイイですか?』番組ディレクター)のコラムの部分を抜き出して紹介します(前後編の前編)。
『ありがとうの手紙』試し読み③前編
コラム 『家、ついて行ってイイですか?』の番組ディレクターが、リモートワークで気づいた、たすけあい。
古東風太郎(2020年5月14日)
「食材は何一つ入手できないけど、美味しいカレーを完成させろ」と言われたら、多分誰でも困る。一休さんのトンチかとツッコミたくなる。そんな状況が今この瞬間、僕に起きている。
僕はテレビ東京のゴールデン番組『家、ついて行ってイイですか?』のディレクターを担当している。終電を逃してしまった人に「帰りのタクシー代を支払う代わりに家について行っていいか?」と声をかけるドキュメントコンテンツだ。
偶然街で出会った方々のお宅にお邪魔しては家にあるモノについて即興で伺い、気づけば家主が辿ってきた人生をちょっと覗き見させてもらっている……これが僕の仕事だ。
この番組に所属するディレクターは週4回以上ロケに出ることを要請される。どんな人に会えるのか、どんな家を見せてもらえるのか、そもそも家までついてくることを承諾してくれる人が見つかるのか。
台本はおろか、何一つ撮れ高となる要素が約束されていないまま、手探りで真夜中の街に飛び込む日々。何十回も連続で断られると、流石に「自分、何やってるんだろう?」と精神的に参るときもある。
当然、ロケを控える夜は飲み会に行けないし、昼夜逆転の生活になるので日中の会議で睡魔に襲われることもしばしば。そんな生活を送っていた僕だったが、普段耳にタコができるほど「ロケに行け」と言っていた演出家の口から信じられない言葉を聞いた。
「コロナ禍で緊急事態宣言が出たから、ロケに行けなくなった」
正直、小さくガッツポーズする自分がいた。放送枠をドラマコンテンツなどで埋めたり、過去のアーカイブを再編集してやりくりしたり……パッと思いつく方法はどれも編集だけで済む業務で「ロケに行けなくなる、イコール、仕事がラクになる」という方程式は僕の中で確信的だった。しかし、演出家はしれっと恐ろしい一言を添える。
「ロケは行けないけど、魅力的なコンテンツは新たに生み出し続けましょう!」
頭の中が「?」でいっぱいになり思考が停止する。矛盾する2つの言葉を真顔で同時に浴びせる上司がどこか誇らしかった。けれど、演出家の要望に応える現場のディレクターとしては不安が募った。撮りに行くな。でも作り続けろ。
「どんなコントやねん」とツッコミを入れたくなる喜劇のような悲劇の時代が始まった。
在宅ワークになり、久しぶりに「視聴者に近いシチュエーション」でテレビを見た。
ゲストが自宅からビデオ通話で出演していたり、定点で自撮りした「お家でできる◯◯動画」が流れたりする。こんな時代だ。「密」とされる状況を作るロケや収録は、どの放送局も控えている(報道はその限りではない)。
そんな中で作られたテレビ番組を、正直つまらないと感じる視聴者もいると思う。僕はつまらないと感じた。
でも、制作的な都合は視聴者には関係ない。面白ければ見てもらえるし、つまらなければ見てもらえない。それだけのことだと思う。この時代に普段のテレビの劣化版しか提供できないテレビ番組では、視聴者に飽きられてしまう。新しい魅力あふれるコンテンツを作らなければならない。
さて、僕らの番組が本来ウリにしていた「密」に飛び込む撮影も、家にお邪魔する撮影もできなくなった今、どうすればいいのだろう? 雲をつかむような議題を解決するためのリモート会議が始まった。
ただでさえハードルの高い企画会議なのに、言葉が伝わるまでに若干のタイムラグがあるリモート会議。ほんの0・2秒や0・5秒の小さなタイムラグだけど、今自分が言ったことが番組スタッフ間で「ウケているか?」を反射的に感じながら話を進めたいディレクターは、この一瞬の間で不安になる。
「あ、ウケてないな」と察して話を短くまとめようとすると、まばらに笑い声が聞こえてきたりする。慣れるまで「やはり面白い企画は実際会って話さないと生まれないのでは?」と昭和生まれは何度も頭を悩ませた。
苦戦しながらもリモートワークに切り替わって2週間たったある日、会議でとある青年の名前が出た。
「ジョシュアくんって今何してるの?」
ジョシュアくんは、僕が2年前にニューヨークでのロケで、どしゃぶりの公園をさまよっているときに出会った青年だ。日本人とメキシコ人のハーフでアメリカ育ちの当時19歳。
英語しか話せないジョシュアくんと、僕はつたない英語で必死にコミュニケーションをとり「家、ついて行ってイイですか?」と聞き込んで、彼の家で取材させてもらった。その様子が放送されると、亡き母を思い作曲し続ける彼の姿が大きな反響を呼んだ。
日本の緊急事態宣言もただごとではないが、より多くの感染者数が発表されているアメリカのロックダウン生活では何が起きているのだろうか? 久しぶりに彼と連絡をとり、ビデオ通話した。
ビデオ通話の録画機能、PC画面の収録機能、自宅のカメラで会話する2人の客観的な映像……と、無料で集められる素材は全て集めながら。
(後編に続く)
こくみん共済 coop・編『ありがとうの手紙』詳細
ありがとうの手紙
編者 こくみん共済 coop
定価: 1,430円(本体1,300円+税)
大変な日々が思い出させてくれたのは、大切な人々のことでした。
新型コロナウイルスの蔓延によって改めて気付けた、様々な「支えてくれる人」のこと。
ツイッターに投稿された、たくさんの「ありがとうの手紙」――
そこに綴られたまっすぐな気持ちは、きっとあなたにも前を向く力をくれるはずです。
こくみん共済 coopが「#今できるたすけあい」プロジェクトを通じて
ツイッターで募集した、「ありがとうの手紙」を一冊の本にまとめました。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000742/
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