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試し読み

医療従事者の妻に学んだ「たすけあい」と「今やるべきこと」の話【『ありがとうの手紙』試し読み②】

2020年、世界を覆った新型コロナウイルスは、私たちの生活を一変させてしまいました。
先行きが見えない状況が続く中で、あらためて気づけたこと。それは、家族や友人、いつもの日常を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちではないでしょうか。

そんな大切な気持ちを残すため、こくみん共済 coopが「#今できるたすけあい」プロジェクトを通じてツイッターで募集した「ありがとうの手紙」が、一冊の本にまとまりました。
書籍『ありがとうの手紙』から有川潤さんのコラムの部分を抜き出して紹介します。

『ありがとうの手紙』試し読み②

コラム 医療従事者の妻に聞いてみた。
有川潤 (2020年4月29日)

 僕の妻は、都内の病院で助産師をしています。

 コロナ禍のここ1カ月も以前と変わらず、朝8時前に家を出て夜7時過ぎに帰宅する日々を続けています。帰宅後は、なるべく家族との接触を避けるために、食事やお風呂も別々に済ませ、一人リビングのソファで寝ています。

 一方の僕は、3人の子どもたちが休校となったタイミングでリモートワークにスイッチ。1日数件のWeb会議をこなしながら、一緒にご飯を食べ、ゲームをしたりお風呂に入ったり。毎晩終電で帰宅していたコロナ前とは別人のような「よきパパぶり」を発揮しています。

 妻は産婦人科勤務なので、「ウイルス感染が認められた患者さん」に直接接触することはありません。処置するのはあくまで「感染が疑われる患者さん」を含む、妊婦さんをはじめとした産婦人科に訪れる人たちのみです。
 ただ、勤務場所は病院。当たり前の話ですが、発熱している人や、何かしらの疾病を持っている人が集まるところで働いています。感染の可能性は、ステイホームな僕と雲泥の差があるのは確かです。

 そんな妻に、最近の病院での仕事の変化について聞いてみました。

僕「最近、たすけあいとか増えてる?」
妻「うーん、仕事そのものがたすけあいだからなぁ……」
僕「そりゃそうだけど、普段以上に患者さんに優しく接するとか……」
妻「コロナだからってそこに差が出るのもおかしくない?」
僕「じゃあ、ほかの診療科の人とはどう?」
妻「まぁ、廊下ですれ違ったら、元気ですか? くらいは声かけるかなぁ」

 妻が感染者を対象としていない助産師だからか、「コロナゆえのたすけあい」の話は出てこない。テレビやネットでよく見る「医療従事者ってやっぱり大変、尊い、応援しなきゃ」という気持ちにしてくれるような話を聞き出そうと思ったのに。

 僕が次の質問を出しあぐねていると妻が言葉を選びながら話しはじめた。

「やっぱりコロナは怖い。無症状の感染者も世の中に相当数いると考える人もいる。でも、コロナ以前に、感染症は他にもあるし、それ以外の疾病で亡くなる人も毎日たくさん見ている。コロナだから、ではなく、普段から、人をたすけるのは使命だから、目に見えて変わったことも、変えたこともない。あ、でもマスクは本当に無くなりそうだから、不要な買いだめはまじでやめてほしい(怒)」

 マスクの買いだめの話かぁと心の中でつぶやいていたら妻が続けて言った。

「あぁでも、家に帰ってきて、家族が元気でいてくれると、それだけで心が安らぐ。みんなの笑顔でたすけられてるよ」

 あぁそうか、やっとわかった。
 テレビやネットで医療従事者の人たちに「頑張れ」「ありがとう」と言っているのは、もちろん彼らが仕事に向かう姿勢を称えて感謝を示すためだが、それだけではない。

 コロナにより家族や恋人、友人との接触が制限されること、今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなっていることに、みんなが悲しみ、人を応援しながら自分も鼓舞してるんだ。

 感染症の治療にあたる人たちは自身の命とも向き合いながら働く過酷な状況に直面しているので、一緒くたにすることはできないけど、きっとみんな、そうやって自分や身近な人のことも応援しているんだと思う。

 もうひとつわかったことがある。
 妻は助産師である前に、医療従事者であること。毎日、病気や怪我で苦しむ人と向き合っている。生まれてくる命だけでなく、生まれてこない命とも日々向き合っている。感染症科だろうが産婦人科だろうが、医療従事者にとって優先されるものは命なんだ。

 妻の話を聞いて学べたことがある。
 コロナは年末まで続くという人もいる。去年より大きな台風がやってくるという人もいる。地震だってみんなが忘れた頃を見計らっていつかやってくる。
 大切なのは、「未曾有」と呼ばれる事故や災害が起きたとき、取るべき行動を決める「物差し」を変えることなのかもしれない。「自分」だけではなく「家族」「仲間」「住んでいる街」そして「国」や「地球」がたすかるために、個人が何をやるべきかを考えるのも大事なのかもしれない。「カップ麺」が「トイレットペーパー」がではなくて、「誰かの命を救うために」今、何をやるべきか。

 そんなことを考えていたら、僕も今やるべきことがひとつ明確になった。それは、医療従事者である妻に、毎日美味しいご飯をつくって食べてもらい、毎日元気に玄関のドアを開けられるように子どもたちの笑顔を絶やさないこと。妻が元気で笑っていれば病院の同僚たちにも、患者さんたちにも、妻の元気が伝播するんじゃないかと真面目に思っている。

 この記事を書いているのは4月29日、ゴールデンウィークの初日です。
 今年はゴールデンなことは微塵もできないですが、今朝もソファで静かに寝息を立てて寝ている妻の顔に幸せを感じながら、しっかりとステイホームを続けていきたいと思います。

こくみん共済 coop・編『ありがとうの手紙』詳細



ありがとうの手紙
編者 こくみん共済 coop
定価: 1,430円(本体1,300円+税)

大変な日々が思い出させてくれたのは、大切な人々のことでした。
新型コロナウイルスの蔓延によって改めて気付けた、様々な「支えてくれる人」のこと。
ツイッターに投稿された、たくさんの「ありがとうの手紙」――
そこに綴られたまっすぐな気持ちは、きっとあなたにも前を向く力をくれるはずです。

こくみん共済 coopが「#今できるたすけあい」プロジェクトを通じて
ツイッターで募集した、「ありがとうの手紙」を一冊の本にまとめました。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000742/
amazonページはこちら


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