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試し読み

『家、ついて行ってイイですか?』番組ディレクターがコロナ禍で気づいたこと【『ありがとうの手紙』試し読み③後編】

2020年、世界を覆った新型コロナウイルスは、私たちの生活を一変させてしまいました。
先行きが見えない状況が続く中で、あらためて気づけたこと。それは、家族や友人、いつもの日常を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちではないでしょうか。

そんな大切な気持ちを残すため、こくみん共済 coopが「#今できるたすけあい」プロジェクトを通じてツイッターで募集した「ありがとうの手紙」が、一冊の本にまとまりました。
書籍『ありがとうの手紙』から古東風太郎さん(『家、ついて行ってイイですか?』番組ディレクター)のコラムの部分を抜き出して紹介します(前後編の後編)。

『ありがとうの手紙』試し読み③後編

前編から続く)

 夢を追いニューヨークへと飛び出した彼は、アメリカのロックダウンの影響で、ロサンゼルスの実家に居て、ワケあって「本当は共に過ごすことは叶わなかったはずの家族に囲まれて暮らす生活」を手に入れていた。

 ロサンゼルスのロックダウン事情と、外出自粛により奇しくも彼が向き合っている近況がとても興味深かったので、密着取材をさせてもらうことにした。ジョシュアくんには2週間、毎日のできごとを iPhone で撮りまくることと、毎晩必ず僕とビデオ通話することを約束してもらった。
 すると企んだ通り、イイ意味でとんでもない映像がたくさん届いた。
 ニューヨーク大学のリモート講義中にあくびを連発する彼の姿、ウォーキングがてら寄ってみたけど誰一人いないビーチ、穴をくりぬいた板に砂袋を投げ入れるだけのコーンホールというゲームで暇つぶし、無人化されたガソリンスタンドで立ち往生する兄妹、「マスクをしていない人は立ち入り禁止」と書かれた薬局の看板、会えない友人を思い深々とつかれた彼のため息の音。

 そしてビデオ通話では、リモート番組で感じた2つの課題「動きと情報を増やす」「リモートだからこそ引き出せる魅力的な映像素材」のどちらもクリアできるように、ひたすら彼のイキイキとした「主体性」を維持するよう工夫してコミュニケーションをとった。ときに恋バナをしたり、男子らしい下ネタトークで盛り上がったりして、コロナ前から変わらない「取材であることを忘れてもらえるような取材」になるよう努めた。

 もしもコロナ禍でなければ「最近ジョシュアくんがどう過ごしているか気になるので、一丁撮影してきます」とロサンゼルスへ飛び、2~3時間ほど家にお邪魔して近況をインタビューし、おしまいだったかもしれない。先方も退屈を感じているこの期間だからこそ、2週間も撮影に付き合ってくれたのだろう。

 撮影最終日。ジョシュアくんから「この2週間、やることがあって楽しかったし救われた、ありがとう」とお礼を言ってもらえたのが印象的だった。

 お礼を言いたいのはこちらのほうだ。

 在宅ワークになってから、自分を律しきれなくなりそうになったり、ついゆるく仕事をしてしまいそうになる不安があった。だけど、ジョシュアくんに密着した2週間は「昼13時(アメリカでは夜9時)にビデオ通話する」という予定が毎日あり、話す直前は聞くことを整理、話した直後は内容を忘れないうちに素材をデータ化して編集するなど、家でやることが常にあった。

 毎日やることを作ってくれた彼のおかげで「これまでにない取材スタイルで新しいものを作れる喜び」を感じられ、毎日夢中で番組を作り続けることができた。プロデューサーから「もっと寝て」と言われても「これはちゃんとやり切らないとダメです」と変なアドレナリンが出るほど、全力で駆け抜けることができた。

 寝落ちする直前に最後の力を振り絞ってA4のルーズリーフに起きてからやることを全部書く。事細かに文字にすることで「いかに時間が貴重か、いかに二度寝なんてしている暇がないか」を自分に突きつけられるのでパッと目覚めることができる。できるだけ、ジョシュアくんとの対話や上司への経過報告の予定から優先的に書いて、その合間に自分一人で淡々と進められることを書いていく。

 やはり「他人がからむ予定」が明日を生きる希望なのだと、毎晩のようにデスクに突っ伏して眠りに落ちながら僕は思った。

 それは、ワンルームの狭い自宅に閉じ込められながら送る生活の中で、僕が見つけた「たすけあい」だった。

 お互いにやることを与え合うことで、充実した時間は無限に作り出すことができる。

 放送された番組は大きな反響を呼んだ。3歳で両親が離婚し16歳で最愛の母親を亡くしたジョシュアくんは、奇しくもロックダウンの影響で初めて「家族に囲まれる温かな生活」を手に入れていたのだ。

「リモート密着という手法の作戦勝ち。報道陣には切り取れないコロナ禍のリアルが詰まってて凄い」
「2週間かけてどんどん彼が素になってスタッフと打ち解けていくのが伝わってきた」
「めっちゃ泣いた。近くにいる家族を大切にしたいと思った」
 SNSや視聴者意見で様々なコメントが寄せられた。

 ロックダウンされた異国に住む彼を、僕は家から一歩も出ずに取材しきった。リモートでなければ辿り着けないクオリティが存在することを実感した。

 規制がかかったことで、これまで使わなかった脳がドライブされて「理にかないすぎてかえって妙なもの」が生まれやすくなっている。毎日新企画を考えなければ放送日に追いつかない殺伐たる日々だけど、一人のクリエイターとしてはこの状況にある意味ワクワクもしている。

「リモートでも作れるもの」じゃなくて「リモートの方が面白くなるもの」を作りたい。そこに妥協はしたくない。だからこそ、やることを与え合える仕事仲間や取材対象者の協力のありがたさを今まで以上に感じる。

 鬱屈とする外出自粛期間だけど、この状況だからこそできることが僕らにはあるはずだ。「見たことない面白さ」にこだわるクリエイターにとっては、どんな逆境だって仲間と楽しく「たすけあい」をするための都合の良い口実なのだから。

こくみん共済 coop・編『ありがとうの手紙』詳細



ありがとうの手紙
編者 こくみん共済 coop
定価: 1,430円(本体1,300円+税)

大変な日々が思い出させてくれたのは、大切な人々のことでした。
新型コロナウイルスの蔓延によって改めて気付けた、様々な「支えてくれる人」のこと。
ツイッターに投稿された、たくさんの「ありがとうの手紙」――
そこに綴られたまっすぐな気持ちは、きっとあなたにも前を向く力をくれるはずです。

こくみん共済 coopが「#今できるたすけあい」プロジェクトを通じて
ツイッターで募集した、「ありがとうの手紙」を一冊の本にまとめました。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000742/
amazonページはこちら


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