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試し読み

ケガと隣り合わせのキャリア——岩渕真奈『明るく 自分らしく』試し読み#4

東京2020オリンピックのサッカー女子日本代表(なでしこジャパン)に選ばれ、エースナンバー「10番」を背負う岩渕真奈選手。14歳でトップリーグデビューし、16歳からなでしこジャパンに選ばれ続け、海外でもプレー。順風満帆なサッカー人生に見えますが、実はそんなことはないと言います。常に自分よりも身体の大きな選手との戦い、度重なるケガ、なでしこジャパンを背負う重責……苦しいことも多々あったサッカー人生を彼女はどう乗り越え、今に至るのか。本人曰く「今までの自分の全てが書いてあります」という初の著書『明るく 自分らしく』から、一部を特別に全文公開します。

『明るく 自分らしく』試し読み#4

ケガと隣り合わせのキャリア

 年齢とともに、身体に対する考え方も変わってきました。
 自分としては悔しいことなんですけど、なでしこジャパンでは、一度もケガのない完全な状態で世界大会に出場したことがありません。
 2011年のドイツワールドカップのときは、右足の第5中足骨にヒビが入っていました。中足骨はドイツワールドカップが終わったあとに手術して、翌年のロンドンオリンピックが終わったあとも痛かったので、埋めていたボルトを変えてまた手術しました。
 世界大会に関しては、痛いところはあるけど、出たいから出るという気持ちです。めちゃめちゃ痛いからといって、どれも簡単にあきらめられる大会ではないんです。本当に不可能だったら無理ですけどね。
 痛みに鈍感なのか、耐えすぎちゃっているのかはわかりませんが、常にどこか痛い状態でプレーしていました。
 2015年のカナダワールドカップもひざを痛めて、直前まで別メニュー調整。翌年のリオデジャネイロオリンピックのアジア予選は内側靭帯を痛めていたので、ひざにテーピングをグルグル巻きにして試合に出ていました。
 2019年のフランスワールドカップもひざを痛めて、大会直前までリハビリしていました。ほんと、なにやってんだろうって感じですよね。
 ただ、足が痛かったから、ケガをしていたから活躍できなかったという言い訳は絶対にしたくありません。試合に出ている以上はやらなければいけないし、自分が出たくてやっているわけです。
 一方で、チームに対して、申し訳ないと思う気持ちは常に持っていました。それは、これからのがんばりで返していくしかないと思っています。
 最近はケガも減り、昔に比べれば状態はよくなりました。ただ、年齢のせいか、筋肉系にくるようになったので、身体のケアはちゃんとしなければいけないなと思います。
 若い頃は、疲れを感じたことがなかったんです。いまも鈍感なほうだとは思いますが、トレーナーに身体をてもらうと、「筋肉がめちゃくちゃ張ってるんだけど、なんでケアしないの!?」と驚かれることがよくあります。
 なでしこジャパンの合宿では、ケアに入りたい日を紙に記入するんですね。以前はそれが嫌で書かないでいたら 「ぶちは強制ね」と言われて、2日連続で入れられたこともありました。
 そう言われても、筋肉が張っている感覚がなくて……。痛みに関して鈍感なのだと思います。最近は身体のケアにも気をつけているので、自分から名前を書いて入るようになりました。
 監督が変わると雰囲気も変わるもので、いまの若い選手たちは「まだいるの!?」っていうぐらいメディカルルームにいて、チームメイトと話をしています。それを見て、わたしと年齢の近い選手は「うちらのときは先輩に気を遣って、メディカルルームに長時間いられなかったよね」って言っています。全然いいんですけどね(笑)。

 2019年は、かかとのケガでスタートした年でした。元旦の皇后杯決勝で足を痛めて、シーズン開幕前に行われたINACの沖縄キャンプでもほとんどトレーニングができず……。キャンプ中に治療のスペシャリストを紹介してもらって、急遽きゅうきょ、診てもらうことにしました。
 結果的にそくていきんまくえんだったのですが、かなづちでかかとを叩いて治療をするので、めちゃくちゃ痛かったです。悲鳴を上げながら治療を受けていました。
 おかげで少しよくなったのですが、2月から3月にかけて行われた、なでしこジャパンのシービリーブスカップを欠場。ケガの影響で、4月にあった欧州遠征も参加できませんでした。
 この時点で、フランスワールドカップまで2カ月しかありません。
 さらに復帰後、5月2日の浦和レッズレディース戦で相手と接触し、右ひざの靭帯損傷。正直、またケガか……と思いました。
 フランスワールドカップでは直前まで別メニューでトレーニングしていて、初戦のアルゼンチン戦は後半12分からの途中出場でした。
 スタメンに復帰したのは、2戦目のスコットランド戦。この試合は前半23分に先制点を決めることができたんです! 試合も2対1で勝利し、後半38分までプレーしました。
 グループリーグ3戦目の相手はイングランド。2015年のカナダワールドカップ準決勝で対戦し、終了間際のオウンゴールでなんとか勝った相手です。
 この試合、わたしはスタメンでフル出場したのですが、0対2で負けてしまいました。でも、1勝1分1敗のグループ2位で決勝トーナメントに進出することができたので、最初の関門は突破できたなという感じでした。
 そして決勝トーナメント初戦。相手はオランダです。4年前のカナダワールドカップでも、決勝トーナメントの初戦で対戦しています。そのときは2対1で勝ちました(わたしは後半21分から出場)。でも、オランダもイングランド同様、女子サッカーに力を入れてきて、ぐんぐん強くなってきた国です。
 この試合も、スタメンでピッチに立つことができました。前半はオランダのスピードとパワーに圧倒されて苦戦しましたが、後半に入ってからは持ち直して、自分たちのペースで試合を進めることができていたと思います。
 でも、試合終了直前にPKを取られてしまい、それが決勝点となって1対2で敗戦。3大会連続でのワールドカップ決勝の舞台に進むことはできませんでした。

 この大会を終えて感じたのは、ヨーロッパ勢の成長です。ベスト8の顔ぶれを見ると、優勝したアメリカ以外の7カ国がヨーロッパでした。2015年のカナダワールドカップは3カ国だったので、一気に強くなってきた感じがします。
 少し前まではドイツやスウェーデンなど、ヨーロッパの強いチームは限定的でしたが、どの国も女子サッカーに力を入れてきたので、かなりレベルが上ってきています。いまはどの国も、それなりに強いと感じます。
 なでしこジャパンとヨーロッパの国との違いは「個の強さ」。これに尽きます。
 なでしこジャパンのよさは、個の強い相手に対して組織力で対抗できるところです。そこに個の力が加われば、チームとしてもっと上のレベルに行けると思います。
 ただ、わたしだけのことで言うと、そこまで個人の差があるとは感じていません。それはドイツやイングランドでプレーしてきたからこそ感じることでもあるし、外国の選手とプレーしてきたからこそ、学んだこともあると思います。
 個人の差に1ミリでも対抗できるようにするためには、みんなが海外でプレーするようにならないといけない。それが絶対に、チームとしての力になります。とくに守備の選手は、海外に行ったほうがいいと思います。海外の選手と日常的に試合をすることで、間合いや寄せ方など、いろんなことがわかります。
 女子選手は海外でプレーしたほうがいい。それは常々思っていることで、男子以上に、女子はスピードやパワーに差があると思います。それもあって、若い選手たちには「海外に行けるなら、絶対に行ったほうがいい」と言っています。なでしこジャパンで活躍して、世界大会で優勝することを目指すのであれば、海外でプレーするべきです。
 もちろん、日本にいてもサッカー選手としてレベルアップすることはできますが最終的な目標がなでしこジャパンで世界大会で優勝することならば、海外でやるべ
きだと思います。
 自分がそうだったんですけど、海外でプレーしたことで自信を持ってボールに触ることができるようになり、大柄な相手にビビることもなくなりました。
 サッカーもそうだし、人間としても、ドイツに行って、いろいろな気づきを得ました。若ければ、海外に挑戦して失敗しても、また戻ってくることができます。そして、チャンスがあればまた出ていけばいいわけです。
 サッカーをやっているからこそ、海外に行くチャンスがあるので、せっかくならサッカー人生に色をつけてみてもいいのにって、若い選手たちにはよく言っています。

続く

『明るく 自分らしく』作品紹介



書名:明るく 自分らしく
著者名:岩渕真奈
定価:1,650円(本体1,500円+税)

サッカー女子日本代表、岩渕真奈の初著書!

わずか14歳でトップチームデビュー。
海を渡り、ドイツやイングランドでのプレー。
度重なるケガに悩まされたキャリア。
思い描く引退後の第二の人生……。

若くして“日本の顔”になった著者が
初めて語る「サッカー」と「生き方」。

人と比べず自分なりの生き方で豊かな人生を目指すヒントが満載。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000794/
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