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試し読み

責任を背負ってプレーする——岩渕真奈『明るく 自分らしく』試し読み#3

東京2020オリンピックのサッカー女子日本代表(なでしこジャパン)に選ばれ、エースナンバー「10番」を背負う岩渕真奈選手。14歳でトップリーグデビューし、16歳からなでしこジャパンに選ばれ続け、海外でもプレー。順風満帆なサッカー人生に見えますが、実はそんなことはないと言います。常に自分よりも身体の大きな選手との戦い、度重なるケガ、なでしこジャパンを背負う重責……苦しいことも多々あったサッカー人生を彼女はどう乗り越え、今に至るのか。本人曰く「今までの自分の全てが書いてあります」という初の著書『明るく 自分らしく』から、一部を特別に全文公開します。

『明るく 自分らしく』試し読み#3

責任を背負ってプレーする

 ノリさんのあとを継いで、なでしこジャパンの監督になったのが高倉麻子さんです。監督が代わり、「これからは自分が中心になってやらないと」と気持ちを新たにしてはいましたが、最初の頃はメンバーに残ることで必死でした。
 というのも、高倉さんがどういうタイプの選手が好きかもわからないし、U- 20からは、高倉さんが育てて、世界大会で結果を残した選手たちが入ってきます。
 最初の頃は、高倉さんがどういうサッカーをしたいのか、どういう選手を欲しているのかが未知数だったので、ベストを尽くして、選ばれなかったら仕方がないと割り切っていました。これで選ばれなかったら、高倉さんがイメージするスタイルに合ってないだけなんだって。

 監督が代わり、最初の試合が決まりました。2016年6月2日、アメリカとの親善試合です。
 わたしも新生なでしこジャパンのメンバーに選ばれたのですが、その頃メディアでは「高倉体制第1号は誰だ?」と話題になっていました。その報道を見て、「そんなの、絶対に自分でしょ」って思っていたんです。もちろん口には出しませんでしたが、心の中ではそう思っていました。
 それで、アメリカとの試合で先制ゴールを決めることができたんです。節目、節目で記録を意識することがあるので、このときは結果を出すことができてよかったと思いました。
 2017年はアルガルベカップとEAFF E-1サッカー選手権があり、コンスタントに先発で試合に出るようになり、ゴールも決めました。
 そして2018年には、ヨルダンでアジアカップが開催されました。この試合は2019年フランスワールドカップのアジア予選も兼ねているので、絶対に負けられない大会です。リオデジャネイロオリンピックへの出場を逃しているので、この大会に懸ける想いは強いものがありました。
 そして結果は優勝。アジアチャンピオンになるとともに、大会MVPを受賞しました。この頃は「自分がチームを引っ張っていかなければいけない」と、強く自覚していた時期でもあります。
 バイエルン時代から6㎏痩せてコンディションもよく、高倉さんとの対話も増えて、精神的にも安定していました。選手としてのサッカー面の成長と、メンタル面の安定がバランスよく合わさって、いい状態で臨めていたと思います。
 サッカー面の成長は、身体の使い方を覚えたことです。これはドイツでプレーして学びました。自分よりも大きい相手に対して、どうやって身体を使ってプレーするか。身体のぶつけ方などを身につけたことは大きかったです。
 アジアの大会でオーストラリアと試合をするときも、相手は大柄ですけど、ぶつかるのが嫌ではなくなったんです。普段、ドイツで大きい人たちと戦っていたので、自信を持ってプレーすることができました。これはヨーロッパでプレーした成果だと思います。
 高倉さんには、ずいぶんハッパをかけられました。プレーの内容、ゴールという結果ともに、自分がなでしこジャパンの中心だという印象を周囲に与えることはできていたと思いますが、ミーティングでは「このチームにはエースがいない」「チームを引っ張る選手がいない」と言われ、それが記事として出ることもありました。
 そのような記事を見るたびに「まだ認められないのか」と思い、「もっとがんばろう」と気持ちが奮い立った面もあります。
 チーム立ち上げ当初から、高倉さんとはよく話をしました。合宿中に面談があって、だいたい1人15分ぐらいのところ、わたしは1時間ぐらい喋っていました。
 そこでは、「だいぶいいけど、まだまだだよ。もっとできるよ」って、よく言われていました。高倉さんはU-20代表のコーチもしていたので、若い頃のわたしをよく知っています。だからなのか、メンタル面のアドバイスをよくしてくれます。
 若い頃は最初のプレーでミスをしたら引きずってしまったり、ファウルをされたらイラっとして、それがプレーに出ていたんです。そういうところを高倉さんには
繰り返し指摘されたので、だいぶ落ち着いてプレーできるようになりました。
 いまでは、高倉さんに「うち、だいぶ成長しましたよね?」って普通に言えるぐらいの関係性です。
 やっぱり、精神的な成長がプレーに影響をもたらす部分は大きいと思います。そもそも、プレーに対する考え方が変わりました。
 若い頃は、試合の結果がどうであれ、自分がいいプレーができればいいと思っていました。いまはチームの結果が一番大事ですし、ミスをしても落ち込まなくなりました。ミスをしたとしても気持ちを切り替えて、自分がやらなきゃ、チームのためにプレーして、勝たせなきゃという気持ちが大きいです。
 その気持ちはU-17やU-20など、アンダー代表のときには持っていたものです。いまはなでしこジャパンでその気持ちになっているので、責任を背負ってこそ、自分はいいプレーができるんだなと思います。

 ノリさんのチームと高倉さんのチームの違いについて、聞かれることがあります。
 わたしが思うに、ノリさんのチームは個性のある選手が団結して、気持ちがひとつになっていたチームです。2008年の北京オリンピックの頃からメンバーがほとんど変わっていないので、同じメンバーでプレーしてきたからこそ発揮できるチ
ームワークや組織力がありました。個性の強い選手たちが、決まり事の中でプレーするので、チームとしてまとまりやすい面があったと思います。
 いまのなでしこジャパンは、個を大事にするチームです。でも個の部分で、澤さん、宮間さんたちがいたときほど突出したものがないので、もっとチームとしてひとつにならなければいけないんだけど、なりきれていない。それが立ち上げから、2019年のフランスワールドカップあたりまで続いたように思います。
 監督が高倉さんになって、なでしこジャパンは世代交代が進みました。一気にメンバーが変わり、最初の2年ぐらいはたくさんの選手をテストしていたので、チーム作りに時間がかかるのは当然のことです。
 高倉さんになって、チームとして形になったのが、2019年のフランスワールドカップ直前でした。
 当時は大会前に紅白戦をあまりやらず、スタメンの目安になる、セットプレーの確認もなかったので、誰が試合に出るかもわからない状況でした。
 選手の立場からすると、試合に出る選手が前日にわかっていたほうが、準備しやすいんです。自分が出るのか、出ないのか直前までわからず、初めてのワールドカップでいきなりスタメンで起用されると、余計なプレッシャーを感じる選手もいると思ったので、高倉さんに「紅白戦も、セットプレーの練習もやりたいです」と言いました。
 そこにこだわった理由はもうひとつあって、以前、宮間さんに言われたことが忘れられません。 
「ぶちは紅白戦のときに、どういう気持ちでやってるの?」
 そう言われたことがありました。わたしが「自分のアピール?」と言ったら、「いや、違うから」と。
「紅白戦は相手を想定してやるもの。スタメン組と試合をするときは、対戦相手のチームになりきってプレーするんだよ。チームとして、大会に臨んでるんだから」と言われたんです。
 その頃はわたしも若かったので、「そうは言っても、試合に出るためにアピールするのも大事ですよね」と思っていたけど、そういう考え方もあるんだなと思いました。
 試合に出られる人、出られない人が当たり前にいるのがチームです。紅白戦で相手チームになりきることで、スタメンじゃなくてもチームの力になれるんだ。それもチームへの貢献の仕方なんだなと、宮間さんから学びました。
 高倉さんとしては、当時ケガ気味の選手が多かったことから、セットプレーの練習をすることで、ケガのリスクが高くなると感じていたそうです。でもわたしが気持ちを伝えたら、「わかった。それも考えてみる」と言ってくれて、やるようになりました。
 わたしは自分の考え、経験も踏まえて、納得できないことに関しては相手に伝えちゃうタイプです。たとえ結果は変わらなくても、自分の気持ちはわかってほしい。自分としては、もっとよくできるだろうなという考えがあるのに、それを言わずに我慢することが無理なんです。
 なでしこジャパンで上の世代の人たちから教わったことを、いまの若い選手に伝える、ちょうど狭間の世代が、わたしやサキ( くまがい)だと思うんですけど、なかなか難しいですね。
 ノリさんのチームのときは、上の人たちがたくさんいて、自分がぽつんと下のほうにいる感じだったんですけど、いまは若い選手たちのほうが多いです。
 そこでわたしが「なでしこはこうだから」と、強く求めることによってチームの雰囲気が変わるのも嫌。下の世代に、自分たちが近寄っていくのも必要な面もあると思います。
 もちろん、最低限のことは言っているし、やっているとは思うんですけど、かつて自分がしてもらったことや、なでしこジャパンの形を若い選手たちにどう伝えるか、そこは悩むところですね。
 わたしが上の人たちに教わってきたことすべてを伝えても、いまの若い選手たちには合わないこともあると思うんです。そういう話は、サメちゃん( さめしまあや)やサキ、依美( なかじま)とかとよくします。

続く

『明るく 自分らしく』作品紹介



書名:明るく 自分らしく
著者名:岩渕真奈
定価:1,650円(本体1,500円+税)

サッカー女子日本代表、岩渕真奈の初著書!

わずか14歳でトップチームデビュー。
海を渡り、ドイツやイングランドでのプレー。
度重なるケガに悩まされたキャリア。
思い描く引退後の第二の人生……。

若くして“日本の顔”になった著者が
初めて語る「サッカー」と「生き方」。

人と比べず自分なりの生き方で豊かな人生を目指すヒントが満載。

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