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試し読み

澤さんの引退と世代交代——岩渕真奈『明るく 自分らしく』試し読み#2

東京2020オリンピックのサッカー女子日本代表(なでしこジャパン)に選ばれ、エースナンバー「10番」を背負う岩渕真奈選手。14歳でトップリーグデビューし、16歳からなでしこジャパンに選ばれ続け、海外でもプレー。順風満帆なサッカー人生に見えますが、実はそんなことはないと言います。常に自分よりも身体の大きな選手との戦い、度重なるケガ、なでしこジャパンを背負う重責……苦しいことも多々あったサッカー人生を彼女はどう乗り越え、今に至るのか。本人曰く「今までの自分の全てが書いてあります」という初の著書『明るく 自分らしく』から、一部を特別に全文公開します。

『明るく 自分らしく』試し読み#2

澤さんの引退と世代交代

 2015年のカナダワールドカップはケガの影響もあって、全試合途中出場。ベンチから試合を見る時間のほうが長かったです。澤さんもその頃はベンチスタートが多く、わたしはいつも「澤さんの隣とっぴ」みたいな感じで、並んで試合を見ていました。
 澤さんと一緒に試合を見ていると、いろんな話が聞けておもしろいんです。さっきも言ったように、予言もバンバン当たるし。
 澤さんをひと言でいうと「すごい人」。それに尽きます。普段は本当に優しくて、おもしろくて、サッカーのときのあの感じは1ミリもありません。温厚ないい人って感じで、なでしこジャパンのときはかわいがってもらいましたし、いまでもかわ
いがってもらっていると思います。
 サッカー選手としての澤さんのすごいところは、すべてです。守備もできて、得点能力もあって、戦えるし、走れる。平均以上とかじゃなくて、すべてのプレーのレベルがすごくて、なんでもできる人。勝負強さもめちゃめちゃあるので、そういう星のもとに生まれたんだろうなと思います。大事な場面で輝ける能力を持った人ですよね。
 
 澤さんは2015年のワールドカップで代表を引退しました。ドイツワールドカップから、ほぼ不動のメンバーでやってきたなでしこジャパンにも、少しずつ世代交代の波が押し寄せてきました。
 2016年には、リオデジャネイロオリンピックのアジア最終予選がありました。結果は、リーグ戦で3位になり、上位2カ国に与えられる出場権を勝ち取ることができませんでした。
 2004年のアテネ、2008年の北京、2012年のロンドンと3大会連続で出場していた歴史が途絶えてしまいました。
 2011年ドイツワールドカップ(優勝)、2012年ロンドンオリンピック(準優勝)、2015年カナダワールドカップ(準優勝)と結果を残していたので、日本のみなさんはアジアでは勝って当たり前、オリンピックに行くのは当然だと感じていたと思うんです。
 でも自分たちは、当たり前にオリンピックに行けるとは思っていなくて、危機感を持ってやっていました。あのときは、過去の大会に比べてチームがうまくまとまりきれていない感じがあって、難しかったです。
 ノリさんのサッカーはメンバーが固定されていて、戦術的な決まり事もたくさんあるので、途中から新しい人が入ってプレーするのは難しいんですね。運動量も必要ですし。そこに若い選手が3人ぐらい入って、ミスが重なって失点しちゃったこともあったので、負のスパイラルにはまってしまった面もあったと思います。
 わたしとしては、チームでの立ち位置は変わらず、年齢は下のほう。自分の下には横山よこやま久美くみがいるぐらいでした。
 そのときも足の靭帯を痛めていたので、途中出場が多かったです。ただ、初めてなでしこジャパンの大会で3点取れたんです。途中出場で結果が出せたのは、個人的には悪くなかったと思います。

 選手それぞれが、いろんなプレッシャーと戦っていたのかもしれません。澤さんがいないという状況もあったし、次のリオデジャネイロオリンピックが年齢的に最後という選手もいました。試合に出ていた若い選手たちは「足を引っ張らないようにしないと」と言っていたり……。
 それに加えて、なでしこジャパンでのキャリアがある人も、これまでいろいろと思っていたこと、感じていたことが一気に爆発した。それがリオデジャネイロオリンピックのアジア最終予選だったと思います。
 チーム自体もバラバラとまでは言わないですけど、結果が出ず、「このままだとオリンピックに行けないかも」となったときに、チームがひとつになりきれなかったのかなって。日本で開催されたので、勝って当たり前というプレッシャーもありました。
 この大会は大阪での集中開催でした。その経験を踏まえて思うのが、自国開催でプレッシャーの中でプレーするのなら、海外で開催するほうがいいということ。ホーム開催でプレッシャーがかかるなら、海外でプレッシャーのない中でプレーしたほうが、のびのびできると思います。でも、そんなこと言っていたら、東京オリンピックはどうなっちゃうのって感じですよね。
 オリンピック出場を逃したことで、まず思ったのは「女子サッカー、どうなるんだろう?」でした。チームで年齢が上の人たちも、オリンピックはリオデジャネイロが最後で、ノリさんも最後というのがわかっていたので、いまのチームが終わるのがすごく寂しかったです。
 それと同時に、「次は自分がやらないと」って決意したのは覚えています。
 ただ、その頃のわたしは、上の人たちを追い越せるようにがんばっていたかというと、ケガが重なったり、チーム戦術もあったので、100%努力できてはいなかったと思います。
 ノリさん時代の代表チームを振り返って、「わたしもなでしこなんだ」と胸を張れたことは一度もなかったです。リオデジャネイロオリンピックの予選では3点取りましたけど、結果として本大会には行けませんでしたし。「結局、このチームにはほとんど貢献できなかった」という気持ちとともに、ノリさん体制が終わりました。
 だから、澤さん、宮間さんをはじめ、上の人たちから受けた恩を返せていないのではないかという気持ちがあります。たくさんのことを教わって、成長させてもらったのに……。
 オリンピックに行けなかったのが悔しくて、ノリさんのチームも終わってしまう。寂しさと感謝の気持ちが湧いてきたのと同時に、これからは自分がやらないとって思った大会でした。

続く

『明るく 自分らしく』作品紹介



書名:明るく 自分らしく
著者名:岩渕真奈
定価:1,650円(本体1,500円+税)

サッカー女子日本代表、岩渕真奈の初著書!

わずか14歳でトップチームデビュー。
海を渡り、ドイツやイングランドでのプレー。
度重なるケガに悩まされたキャリア。
思い描く引退後の第二の人生……。

若くして“日本の顔”になった著者が
初めて語る「サッカー」と「生き方」。

人と比べず自分なりの生き方で豊かな人生を目指すヒントが満載。

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