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試し読み

苦しさを超えたら、いつかは笑顔になれる!——岩渕真奈『明るく 自分らしく』試し読み#5

東京2020オリンピックのサッカー女子日本代表(なでしこジャパン)に選ばれ、エースナンバー「10番」を背負う岩渕真奈選手。14歳でトップリーグデビューし、16歳からなでしこジャパンに選ばれ続け、海外でもプレー。順風満帆なサッカー人生に見えますが、実はそんなことはないと言います。常に自分よりも身体の大きな選手との戦い、度重なるケガ、なでしこジャパンを背負う重責……苦しいことも多々あったサッカー人生を彼女はどう乗り越え、今に至るのか。本人曰く「今までの自分の全てが書いてあります」という初の著書『明るく 自分らしく』から、一部を特別に全文公開します。

『明るく 自分らしく』試し読み#5

苦しさを超えたら、いつかは笑顔になれる!

 2021-2022シーズンからアーセナルでプレーすることになりましたが、ヴィラでの日々があったからこそステップアップすることができたと思っています。
 正直、サッカー選手としては厳しい半年間でした。わたしを獲得してくれた監督がすぐに代わってしまい、加入前に描いていたサッカーとは正反対の、守備重視のロングキックスタイルに転向してからは、頭の上をボールが行き交う日々……。 
 これまでのサッカー人生で、0対8で負けたことはありませんでした。試合中、ボールに触る回数も少なく、サッカー人生でこれほど長い時間、守備に回ったことはなかったと思います。自陣のゴール前まで戻ってクリアするなんてことは、日本でプレーしていた自分からするとありえないですよね。一年に2、3回しかしない
プレーを、毎試合3回ぐらいやっていました。
 これをポジティブにとらえると、我慢強く、粘り強くプレーできるようにはなったと思います。日本にいた頃なら「攻撃の選手なんだから、そこまで守備をしたくない」ってなっていたと思うんですけど、ヴィラではそうも言っていられないので「1部残留」という目標に向かって必死でプレーしていました。
 ボールが頭の上を往復するサッカーに対して無力さを感じることも多く、「助っ人として来たのに、チームの役に立てているのだろうか」と悩んだこともありました。味方にパスを出して「このタイミングでパスを返してくれれば、チャンスになるのに」という場面でも、パスは戻ってこなくて……。チームメイトに信頼されていないからなのかな、実力が足りないのかなと考えることも多かったです。
 ヴィラでの日々は、ケガで思いどおりのプレーができないときとは違った苦しさがありました。
 もちろん、ドリブルで相手をはがしたり、前に運んでチャンスを作れた試合もたくさんあるので、自信になった部分もあるのですが、ヴィラでの半年間をひと言で
振り返るならば「苦しかったシーズン」でした。
 ピッチサイドから「マナ! マナ!」って、監督に大声で指示を出されたこともありました。わたしがイギリス人ほど、監督のイメージに忠実なポジショニングをしていないからなのですが、それには自分の考えがあって。相手がいないのにそこに立つ必要はないし、パスを受けることを考えて、ボールに近いところにいようとしていたんですね。
 スローインのときはここに立てとか、ボールとは関係ないところの動きに対して、コントローラーを握られているように指示されることにイライラが溜まってきて、ハーフタイムに「もう無理」と、涙がこぼれたこともありました。
 サッカー自体も、蹴って走って、相手のミスを待つスタイルで、監督は「ディスイズフットボール」と、何度も繰り返していました。わたしが来る前はもっといいサッカーをしていたし、みんなも違うやり方ができるのに、一生懸命守って0対0でいい、勝ち点1が取れればいいというサッカーは好きになれませんでした。
 残留するために、その戦い方も百歩譲って理解できますが、わたしは攻撃の選手なので点を取りに行きたい。3点取られても、4点取るサッカーがしたい。そっちのほうが楽しいのにと思ってしまって……。いろいろな要因が重なり、悔しさ、不甲斐なさを感じたシーズンでした。
 その中で、気づいたことがあります。それは「わたしって、まだサッカーがこんなに好きなんだ」ということです。悔しくて涙して、もっとうまくなりたいという気持ちになりましたし、試合後は日本にいるマネージャーに電話して「ごめんね、夜中に」とか言って、ひたすら愚痴って、すっきりしたら「よし、またがんばろう」という気持ちになれたんです。
 ヴィラでの半年間は、サッカー人生の中でもっとも苦しかった時期でしたけど、イングランドのサッカーに慣れて、自分を成長させる環境に身を置くことができたので、あのときの選択は間違っていなかったんだと思っています。
 取材で「過去に戻るなら、いつに戻りたいですか?」と聞かれることがあるのですが、ドラえもんがいてタイムマシンがあったとしても、ヴィラに行く前に戻りたいとは思いません。ヴィラでの経験があっていまの自分があるので、過去に戻って、いまとは違う別の自分になったら嫌だなって。何年かあとにいまを振り返ったときに、オリンピックの前にヴィラに移籍して、苦労したからこそ、いまの自分がいるって思える気しかしないんです。決して、強がりなんかではなく。
 ドイツに移籍したときも、最初は2部(ホッフェンハイム)にいて、周りのレベルがそれほど高くはない中でプレーして、バイエルンに移籍しました。ホッフェンハイムでプレーした時間は、ドイツのサッカーに慣れるために必要なものでした。
 イギリスでも同じで、ヴィラに移籍してリーグに慣れて、強豪クラブにステップアップすることができました。
 私が加入した頃のホッフェンハイムは2部リーグでしたが、あれから10年近くが経ち、いまではチャンピオンズリーグに出場するほどの強豪になりました。ヴィラも同じように、クラブとして力をつけていく予感がします。ヴィラには若い選手が多く、資金もあるので、今後どうなっていくか、楽しみです。
 新シーズンはアーセナルでプレーするわけですが、そのときはもうオリンピックも終わっているので、ここからは純粋にサッカーを心から楽しみたいと思っています。もちろん、いままでも楽しんではきましたが、いろいろなプレッシャーを感じながらプレーしていた部分もあるので、ここからは率直にサッカーを楽しみたいなって思います。

この続きは本編でお楽しみください

『明るく 自分らしく』作品紹介



書名:明るく 自分らしく
著者名:岩渕真奈
定価:1,650円(本体1,500円+税)

サッカー女子日本代表、岩渕真奈の初著書!

わずか14歳でトップチームデビュー。
海を渡り、ドイツやイングランドでのプレー。
度重なるケガに悩まされたキャリア。
思い描く引退後の第二の人生……。

若くして“日本の顔”になった著者が
初めて語る「サッカー」と「生き方」。

人と比べず自分なりの生き方で豊かな人生を目指すヒントが満載。

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