28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた

思惑渦巻く永田町に飛び込んだ、政治ド素人の運命は!? 眞邊明人『28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた』試し読み#1
異色の政界エンタメ小説『28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた』(著:眞邊明人)の試し読みを、大ボリュームで掲載します!
(全5回・5月30日~6月3日まで5日連続更新)
思惑渦巻く永田町に飛び込んだ、政治ド素人のユーチューバーの運命やいかに――。ぜひお楽しみください!
『28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた』試し読み#1
プロローグ
2025年2月1日
落 合 茂 雄 総理大臣の後任を選ぶ日 本 党の総裁選挙は、国会議員と都道府県連の代表による投票の結果、川 上 一 貴 官房長官が新しい総裁に選出された。川上氏は6日、衆参両院での本会議で行われる総理大臣指名選挙を経て第99代の総理大臣に指名される予定。国民的人気が高く、日本党最大派閥の英 政 会のプリンスと呼ばれた真 坂 尊 幹事長代理は、派閥離脱をして挑んだが、惜しくも敗れる結果となった。川上氏は、落合総理の退陣のきっかけとなった自衛隊の「軍」への格上げや、増大する社会保障費の財源の確保などの難問に対 峙 することとなる。
大 日 本 新聞
第一章 野心
「日本党は結局のところ未来なんか考えてないんだよ。老人たちは今さえよければいい、自分のことだけ考えて後のことは知ったこっちゃねぇ。それが今回の総裁選でよくわかった。今、世界は戦争で揺れている。もし、この国が戦争に巻き込まれれば、戦争に行くのは俺たち若い世代だ。日本は戦争しないなんてことはもう言ってられない状況だ。ヨーロッパを見てみろ。老人の権力者が若い奴らに銃を持たせて殺し合わせている。今のままだと俺たちは単なる駒だ。俺たち若い世代がもっと賢くなって政治に介入していかないと、貧乏くじをひかされるのは俺たちだ。そのためにできることは今のところ選挙ってもんしかないんだよ。今こそ、この国の政治を変えなきゃいけない。この国はもう老人の国だ。俺は、俺たち若い世代の政治を今こそ手にしなきゃいけないと思ってる。みんな俺の考えに意見をくれよ。賛成でも反対でも。コメント待ってる。そんでもって、少しでも俺たちに興味を持ってくれたらチャンネル登録もよろしくな! また次の動画で会おう」
「カット!」
「おつかれ!!
狭いワンルームのマンションの一室に熱気が
「凄い! もう登録者が三千増えた!」
桃がノートパソコンの画面を見ながら声を上げる。その声に引き寄せられるように冬也と太一も画面を
「冬也のトークは人を
太一が感心したように声を上げる。小柄でちょっとぽっちゃりとした体形。浅黒い日焼けした肌に金のネックレス、派手なスニーカー。ダボッとしたラッパー風のアウターに帽子を斜めに
「よせよ。政治家なんてまっぴらごめんだ。まぁ、だけど政治系ユーチューバーってジャンルは稼げそうだな」
メインでトークをしていた冬也は、カメラの前での熱量とは正反対の冷ややかなトーンで言葉を返した。身長は百八十センチを超えている。細身ではあるが筋肉質の肉体を黒のシャツと黒のジーンズに包み、銀色の鋭角な独特の形をした眼鏡を掛けている。肩にまでかかる長い
「中国の台湾への軍事介入に対する危機感が高まってきたからな。タイミングが良かったな」
太一がスマートフォンでニュースを確認しながら言った。ここのところ中国が台湾に対して軍事介入を示唆する動きを始め、ニュースはその話題で持ちきりだった。
「そんなことより冬也にはカリスマ性があるんだよ」
桃は、興奮気味にブラウザを更新しながら言った。小柄ではあるが、レザーのミニスカートから伸びた長い脚がスタイルの良さを物語っている。金髪に濃いアイメイクが派手な印象を与えるが、クルクルと変わる表情と愛くるしい大きな瞳が、派手さを下品なものに変えない効果を果たしている。
「カリスマ性なんてなんの役にも立たないさ」
冬也は相変わらず冷たい表情のまま答えた。
「とりあえず政治系へのシフトは予想以上にうまくいったな」
「リスクも少ないしなぁ」
太一も
冬也たち三人は、ReBOOTと名乗るユーチューバーのグループだ。
冬也たちが注目を集めるきっかけになったのは、ある人気格闘家のユーチューブチャンネルの「
冬也と太一は当初は過激で危険な企画を売りに番組運営を行い、瞬く間に数万人の登録者を獲得した。わざと財布を放置して、その財布を拾った人がどういう行動を取るかを追跡する企画や、風俗店の盗撮、闇金で借金をしてその返済をめぐるトラブルを中継するなどの企画は、スリリングであり、また冬也が持つクールな
「そろそろ次の展開だな」
増え続ける登録者を眺めつつ太一が言った。
「次の展開?」
桃が太一に尋ねる。
「今までは一方的に冬也の意見を発信していたけど、ただの批判だけじゃ飽きられる」
「何をするんだ?」
冬也は太一に尋ねた。
「政治家と直接対談しよう」
「政治家と?」
「政治家に直接、意見をぶつけることによって、より俺たちのチャンネルが真剣に政治に取り組んでいることが証明できると思うし、政治家に冬也が
「しかし、政治家が俺なんか相手にしないだろう」
冬也は首を振った。人気があるとはいえ、タレントでもない一介のユーチューバーだ。格を大事にする政治家がわざわざこちらの土俵に上がってくるとは思えない。
「今ならチャンスがあると思う」
「どういうこと?」
桃が興味津々といった感じで首を傾げる。難しいことはわからないといういつものポーズだ。
「総裁選挙だよ」
政権与党である日本党では先週、体調不良を理由に首相の座を降りることになった落合首相の後任を決める総裁選があったばかりだ。当初、落合首相の出身派閥であり日本党最大の派閥である英政会のプリンスと呼ばれた幹事長代理の真坂尊が後継に選ばれると誰もが思っていた。尊は英政会の初代
「真坂は総裁選に負けたばかりか、与えられたポストは広報だ。本来なら閣僚ポストを与えられてもいいはずだ。それが広報なんて……まさに屈辱的なものだろ。それに結果は、敗れたとはいえ僅差だ。日本党の中には今回の件に対する不満分子も多いと思う。国民の声は圧倒的に真坂だ。川上なんて、落合の
太一は自信満々な様子で言った。冬也はすぐに返事をせず、眼鏡を外して目を閉じ天を仰いだ。迷っている時の冬也の癖だ。
「言ってること難しくてよくわかんないけど、真坂さんってあのイケメンのおじさんでしょ。ルックス的に冬也と並んだら絵になるんじゃない?」
桃が能天気に冬也の顔を覗き込む。確かに尊も小柄な老人が多い政治家の中では長身であり、髪も黒黒としており、彫りの深い
「そう思うだろ。真坂と冬也の組み合わせは絵になるし、うまくいけばマスメディアも注目する」
「いいじゃない! アタシは賛成」
桃は手を
「イケメンとイケオジっていい組み合わせじゃん!」
「顔と政治は関係ないけどな」
冬也は苦笑した。
「太一の理屈はわかるけど、どう考えても真坂ほどの大物が俺とコラボするなんて現実味がないな。まだタレント評論家連中の方が可能性があるんじゃないか? いずれにせよ、この路線に変えてまだ間もないし、俺の政治の知識も浅い。それっぽく話してはいるだけだ。対談なんか無理な話だ」
政治に興味があって政治チャンネルにシフトしたわけではない。やむにやまれず政治というジャンルに
「冬也の言い分もわかるけど、今はスピード感が必要だ」
太一は桃からノートパソコンを受け取ると、その画面を見ながら言った。
「方向性のリニューアルのインパクトがあるうちに畳み掛けないと数字は伸ばせない。しかも今、政治に対する関心が高まってくる時期だ。この機を逃すわけにはいかない」
「だったら、太一が前面に出たらどうだ? 俺より政治には詳しいわけだし」
「バカいうな」
太一は鼻で笑った。
「知識なんぞはおいおいつけていけばいい。おまえが
「自信がないな」
「何言ってるんだ。おまえはのし上がっていきたいんだろ。そのために今まで危ない橋を渡ってきた。やくざ相手にも
「あいつらはぶん殴ればいいだけだが、政治家はそういうわけにいかないだろ」
冬也は苦笑した。
「俺は頭を使うのは苦手だ。そういうのは太一の方が向いてる」
「だめだめ。太一じゃだめだよ。ブサイクだから。やっぱりイケメンでないと」
桃が茶化すようにふたりの話に割り込んできた。
「ブサイクって言うな。おまえに言われると傷つく」
太一が笑いながら桃を
「俺がブサイクかどうかはさておいて、ReBOOTは俺が作戦を練って、おまえが演じる。今までもこれからもずっと同じだ」
「太一がそこまで言うなら、俺は従うさ」
冬也は長い髪をかきあげながら言った。
「今までそれでうまくいったからな」
冬也にとって太一は自分の価値を高めてくれる最高の相棒だ。
「しかし、真坂とコラボするっていってもどうやるんだ。なんのあてもないだろ」
「直接、連絡してみるさ」
太一は笑った。
「いつもの俺たちのやり方でやる」
「太一は相変わらずだな」
冬也は
「真坂がもしこっちの企画に乗ってくれれば、俺たちのチャンネルは大きな
太一は桃に視線を移した。
「アタシの件?」
「
「なんかアタシのせいにされるの不満だな」
桃は頰を膨らました。太一の言う通り「美人局」の一件で
「桃のためならやってみるか」
「アタシのために?
桃は顔を上気させて、頭に置かれた冬也の手を取り、軽く飛び跳ねた。その様子を太一は一瞬、微妙な表情で見つめたが、すぐに笑みを浮かべた。
「それじゃ決まりだな。俺は早速、真坂にあたってみるよ」
そう言うとそそくさと荷物をまとめだした。
「なんだ? もう行くのか?」
「あぁ。こういうことは早く進めた方がいい。まずは真坂の息子に連絡を取ってみる。悪いけど機材の撤収はふたりにまかせるわ」
太一はそう言い残すと、部屋を出ていった。
(つづく)
作品紹介
28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた
著者 眞邊 明人
定価: 1,760円 (本体1,600円+税)
発売日:2023年03月27日
政治ド素人が、腐った永田町を斬る!
30代を目前にフラフラしていた大河冬也は、政治系ユーチューバーとして人気を獲得し、与党幹事長代理・真坂尊に対談を申し込む。すると、冬也のカリスマ性に注目した、尊の秘書で息子の喬太郎から、尊が旗揚げした新党の候補者として衆議院解散総選挙に出馬するよう説得される。幼なじみの仲間の後押しもあり立候補を決意した冬也は、ユーチューバーならではの斬新なアイディアを掲げ若者を中心に国民的人気を博すが、地位や権力にしがみつく老兵たちの争いに巻き込まれていく。
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111000528/
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