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試し読み

作家・大沢在昌が仕事の極意の全てを明かす!~『売れる作家の全技術』文庫化記念特別試し読み~

「小説 野性時代」連載時から大反響を呼んだ作家志望者必読の書『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』がついに文庫化
作家・大沢在昌が仕事の極意の全てを明かした本書から、文庫化を記念して特別に一部を公開します。全3回で「作家デビューの実際」と「キャラクターの作り方」を試し読み!



第1回 作家で食うとはどういうことか



作家デビューの方法


大沢 どうもはじめまして。大沢在昌です。この講座を通して、私が知る限りのことをできるだけ実践的に伝えたいと思っています。講座を通じて何度も同じことを言うことがあると思いますが、それは非常に重要なこと、「テストに出るよ」ということですので、しっかり意識しておいてください。
 はじめにお話ししたいのは、「作家で食うとはどういうことか」ということです。作家デビューの方法には大まかに言って二通りあります。新人賞を取るか、出版社に原稿を持ち込んで本にしてもらうか。どちらがいいかと言えば、新人賞を取ってデビューするほうが絶対にいい。それも、できるだけ偏差値の高い新人賞を受賞してデビューすることを私はお勧めします。

偏差値の高い新人賞を狙え


 日本には現在、二百以上の小説の新人賞があります。一つの賞に平均三百人として六万人が応募し、その中から二百人がデビューできたとしても、一年後に生き残る作家はおそらく一人か二人。さらにその後、大きな文学賞を取ったりベストセラーを出して世間に認知される作家になるのは、五年か十年に一人でしょう。
 できるだけ偏差値の高い新人賞からデビューすることを目指しましょう。当然競争率は高くなりますが、そこからデビューした新人は、賞を主催する出版社はもちろん、他社の編集者からも注目されますし、授賞式ではたくさんの編集者から「ウチでもぜひ書いてください」と言われます。もっとも、九割は社交辞令ですから、「これで作家として順風満帆だ」などと勘違いしてはいけません(笑)。
 もちろん持ち込みでデビューする人もいます。しかし、持ち込みの作品というのは、何の冠もかみしももつけず、いきなりポンと書店に並ぶわけですから、ほとんど注目されず、もったいないデビューの仕方だと私は思います。
 では、「偏差値の高い」新人賞とは何か。ズバリ言います。ミステリー系なら『江戸川乱歩賞』『日本ホラー小説大賞(現・横溝正史ミステリ&ホラー大賞)』、時代小説なら『松本清張賞』だと私は思います。「偏差値が高い」とは、賞の出身者がデビュー後どれだけ活躍しているかということ、つまり、直木賞受賞者やベストセラー作家を多く出している賞を「偏差値の高い」賞だと私は考えています。
 ただ気をつけていただきたいのは、偏差値の高い賞からデビューしても、全員が将来を約束されるわけではないということです。優れた受賞第一作をすばやく出せなければ、生き残ることは難しいでしょう。

作家の財布事情


 今、日本に小説家は何人くらいいるのか。仮に五百人として、その八割は年収五〇〇万円以下くらい、なかには二〇〇万円以下の人もいます。例えば、皆さんが今、角川書店(現・KADOKAWA)から四六判ハードカバーの長編小説を書き下ろしで出すとします。新人ですから執筆には半年くらいはかかるでしょう。初版部数は四〇〇〇部、定価が一七〇〇円、印税は一〇パーセントとして、皆さんの収入は六八万円になります。半年かけて六八万、コンビニのアルバイトよりも低い金額です。
 最近は、「年収二〇〇万円でも構いません」という新人作家もけっこういますが、私はそれではダメだと思います。作家というのはプロ野球でいえば一軍か二軍、それしかありません。先ほどから言っている「偏差値の高い」新人賞でデビューする人は、ドラフト一位入団で、マイナーな賞ならドラフトの何巡目か、持ち込みデビューはテスト生で入団するようなものでしょう。

縮小する出版市場


 三十三年前(一九七九年)、私は皆さんと同じように新人賞に向かって書くアマチュアでした。そして双葉社の「小説推理」という雑誌で第一回小説推理新人賞を受賞し、当時文芸出版として必ずしも力のある版元ではないところからデビューしました。『新宿鮫』を書くまでの私は、「永久初版作家」と呼ばれていました。出しても出しても重版されない本を二八冊も出しました。書店で私の新刊が見当たらないので探してみたら、人気作家の本の下に台として置かれていたこともあったほどです。売れなかったけれど、でも仕事の注文はあったので食うには困らない、そういう時代でした。
 当時に比べて今の出版市場は三分の一くらいに縮小しています。つまり、生き残る確率も三分の一、入るお金も三分の一、そういう時代に皆さんは作家になる選択をされるのだということを肝に銘じておいてください。
 中規模クラスの書店にはおよそ八万から一〇万種類の本が置かれています。その中からたった一冊の本を手に取り、「面白そうだな、買って帰ろう」と読者に思ってもらうにはどうすればいいのか。皆さんは、読者やファンというのはいつも応援してくれる温かい存在だと思うかもしれませんが、実は会ったことも見たこともない人たちであり、流行や気持ちの変化ですぐに離れてしまう冷たい面があるのです。リーマンショック以降、本全体の売れ行きはガクンと落ちましたし、熱烈なファンであっても、単行本一冊を買うために昼ご飯を二回抜かなければいけない人だっています。そこまでしてでも買いたい、読みたいと思ってもらえるような作家にならなければいけないということなんです。
 膨大な量の本の中から選ばれ、お金を出して買ってもらえる作家になるためには、偏差値の高い新人賞でデビューできるドラフト一位選手を目指すこと、一軍でプレーするチャンスが来たらめざましい活躍をし、レギュラーの座を誰かから奪い取り、いずれはクリーンナップを打てる作家になること。稼げる作家を目指してください。

作家になるために大切な四つのポイント


 最初からかなり厳しいことを言いましたが、ここからは「作家として食う」ための、より具体的なポイントをお話ししたいと思います。

▼①正確な言葉を使う
 辞書をいつも手元に置いて、少しでも怪しいなと思ったら辞書を引きましょう。私は今でも原稿は手書きですが、憂鬱の鬱など何度書いても忘れてしまうので、一日に最低五、六回は辞書を引きます。皆さんはパソコンで原稿を書かれているので、変換ミスでもない限り間違いはしないと思っているかもしれませんが、実は誤った日本語を思い込みで使っている人がけっこういます。講評でも個別に触れますが、まずは自分の日本語力を疑うこと、そして辞書を引くことをぜひ習慣にしてください。

▼②自分の原稿を読み返す
 私はこれまで多くの新人賞で選考委員をしてきましたが、読み返しさえすればこんなつまらないミスはしないのに、という作品が数多くありました。今回提出された原稿にも、明らかに読み返していない作品がありました。締切間際まで書きたい気持ちもわかりますが、ぎりぎりまでアイデアをひねるより、締切前に書き終えて最後の一日を推敲に当てるほうが作品の完成度は確実に上がります。それもできれば、時間を空けて読むこと。時間を空けないと、自分の頭の中に出来上がっている文章を、書かれた文字の中に読んでしまいますから。探し物が目の前にあるのに気がつかないのと同じで、つまらないミスほど自分の目では気づけないことが多いのです。クールダウンしてから読み返すこと、そして、読み返しの時間を作るためには原稿を早く仕上げることが必要です。

▼③毎日書く
 ドラマなどに出てくる作家は、締切間際に徹夜して原稿を書いているように見えますが、トッププロの作家であんな書き方をしている人間は一人もいません。原稿を早く仕上げるには、毎日必ず決まった分量を書く習慣を身につけることが大事です。私も今日、ここに来る前に月刊誌の原稿を一〇枚書いてきました。少なくとも一〇枚、多いときは二〇枚書く、そして翌日書いたものを読み直す、文章に手を加える、チェックする。それを毎日くり返すことでしか、作家の人生は前に進みません。私は週末に休んだり、長い休暇を取ることもありますが、これは珍しいほうでしょう。一年三百六十五日、ほとんど休まず原稿を書くという作家は数多くいますし、毎日書かなければ気持ちが悪いという人もいます。車のエンジンと同じで、一旦冷えてしまうとなかなか回転が上がらないんですね。一日一枚でも書いていれば、アイデアも出やすくなるし、すぐに作品世界に入っていける。「毎日書く」のは重要なことなのです。

▼④手放す勇気を持つ
 時にはどうしても筆が進まない日もあります。スランプというやつですね。アイデアが出てこない、書きかけの小説をどう進めていいかわからない、突破口が見つからない、そういうときは、思い切って離れる勇気を持ってください。迂回する勇気、違う作品に向かう勇気、あるいは作品を手放す勇気を持つことが大事です。プロの作家でも、スランプで立ち往生して先へ進めなくなってしまう人がけっこういます。私は今まで八六冊の本を出してきました。どれも傑作にするつもりで書き始めるのですが、結果的にはうまくいかなかったもの、自分でも辛いなと思っている本が何冊かあります。なぜそんな本を出したのかというと、次に行くためなんです。次の作品に行くために、とりあえず目の前の作品を仕上げて本にする。そしてその後悔が、次の作品をより良いものにしようという気持ちとして働くわけです。

作家のモチベーション


 作家とは、「持続」です。一冊の名作ではなく、毎年毎年あるレベル以上の作品を出し続けること、気力、体力を振り絞り、自分のベストを問い続け、限界を超える努力をし続けること、それしかない。非常に体育会的な世界です。デビューした後も、文学賞の候補になる、賞を取る、ベストセラーを書く、とにかく上を目指すこと。なぜなら、作家がより良いものを書き続けるためのモチベーションは、結局のところ、本が売れるか賞をもらう、その二つしかないからです。


質疑応答


 ●デビュー前にどれくらい書いていたのか?
Q・ロバ デビューされる前は、一日何枚ぐらい書かれていたのでしょうか?
A・大沢 中学二年から三年にかけて一二〇枚の作品を仕上げたのが最初で、高校在学中に一〇〇〇枚くらい書いたのかな。二十三歳でデビューしたのですが、その前は親父が癌を患って毎日病院に通いながらだったので、そんなに枚数は書けなかったと思います。デビュー後は、二、三カ月に一本は八〇枚の短編小説を仕上げるようにと編集者に言われたので、そのとおりに書いていました。

 ●無理してでも決めた枚数を書くべきか?
Q・ペンギン どんなに頑張っても二枚しか書けないという日があるのですが、無理してでも一〇枚書く努力をすべきでしょうか?
A・大沢 そんなのはプロでもしょっちゅうあることです。でも、週刊誌や新聞の締切は厳密なので、必ず一五枚なら一五枚書かなくてはなりません。人気作家ほど締切は厳しいし、枚数も多くなるので、毎日一定量を書かないととてもこなしていけない。どんなに苦しくても、這いずってでも、決められた枚数を書く、それがプロです。

 ●途中で駄作だと感じても最後まで書くべきか?
Q・コメ 書いていくうちに「これは駄作だな」と自分で感じてしまうことがあります。途中でダメな匂いがしても、最後まで頑張って書き上げるべきでしょうか?
A・大沢 なるほどねえ。コメさんにはその作品がダメだということが本当に自分でわかるのかな? というのも、小説がダメだという場合、ストーリーがダメか、主人公がダメか、たいていはそのどちらかで、ストーリーがダメな場合はある地点まで戻ってそこからやり直せば解決できるケースもありますが、キャラクターがダメな場合は基本的に一から書き直しということになるでしょうね。コメさんの場合はどちらでしょう? 大事なのは、どこがダメなのかを把握することなんですが、この見極めがなかなか難しいんです。
 小説を書くとき、私はほとんどストーリーは考えずに書き始めます。そのかわり、どんな主人公にするか、どんなやつを敵役にするか、どんな女性をヒロインにするか、そこにはものすごく時間をかける。キャラクターが決まり、ストーリーの核となるちょっとしたアイデアさえあれば、あとは勝手に物語が動いていってくれるからです。逆にキャラクターが中途半端だと途中でストーリーを背負えなくなって、話がダメになることが多いです。
 新人賞の応募作には、「ストーリーは確かにすごいけど、中学の先生がギャング団相手にこんなに戦えるか」みたいな話がけっこう来る。どうしてもストーリー作りのほうに力が入っちゃうんですね。ストーリーも大事だけどキャラクターも大事だということを覚えておいてください。


>>第2回「強いキャラクターの作り方 1」
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書誌情報はこちら>>『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』


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