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連載

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」 vol.10

金沢知樹「告白」【連載コラム「告白します」】

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2023年11月号」に掲載された内容を転載したものです)

金沢知樹「告白」
【連載コラム「告白します」】

 告白する。実に勇気のいる告白だ。
 いきなりだが言ってしまう。
 
 僕はパクリ野郎だ。
 
 創作当初からある時期まで、ずっと誰かの作品をパクっていた。パクる。うーん。パクる……盗むってことか。そーなると少し違う気がする。そうだなぁ、ただしくは、模倣かもしれない。方法はこうだ。例えば「バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいな作品を作りたい」とする。その映画を台本に起こし「あー、ここのシーンが効いて、あのシーンが生きるのかぁ」と徹底的に研究。その後に自分なりのオリジナルを足す。そんな感じだ。だから観てもらった人に褒められても、ずっと怯えていた。「いつかバレる。自分が模倣してるパクリ野郎だと」。しかしビクビクしながらも模倣的な創作は続ける。そーすると疲弊が待っている。心の疲弊。もういやだもういやだ。いつかバレる。怯えながら創るのはいやだ、とビクビクビクビク。そんな毎日を過ごしていた。そのパクリ野郎の僕が、ある日。とある劇団と出会う。「ナカゴー」という劇団。観劇して、度肝を抜かれた。とんでもないオリジナリティで貫かれた世界観。独特な世界なのに劇場は爆笑のうねりが溢れる。僕は舞台に釘付けで、んで嫉妬や羨望にまみれながらも、ゲラゲラ笑い続けていた。嫉妬しながら笑い続ける自分。なんて圧倒的な矛盾だろうか。感情の渋谷交差点。とにかくその日、ぼくは感覚を粉みじんにされたのだ。
 その芝居を作り上げたのは劇作家のかまとしさん。ぼくより十歳も年下。打ちのめされた。圧倒的な天才と出会ってしまった。引退も考えた。戦えるわけがない。でも、でもと、どうせなら最後に自分が本当に面白いと思えるものを書いて終わろう。そう決めた時、映画脚本の依頼が来た。競輪の作品。タイトルは『ガチ★星』。ぼくはプロットも立てずに、いきなり書き始めた。自分を叩きつけるように。その日にあった出来事を日記に綴るように。誰かの模倣ではなく、自分の言葉と感情で。書き切った時、ようやくほんとの自分と出会えた気がした。この作品が自分の人生を変えていくことになるのだが、それはまた別の話で……。
 
 鎌田さんに出会えたおかげで、模倣から抜け出し自分に辿り着けた。そんな鎌田さんが、今年、逝去した。三十八歳という若さだ。あまりにも早すぎる。ぼくはずんと悲しい。
 鎌田さん、僕はあなたになりたかった。これからも、ずっと、ずっとあなたになりたい。
 それもまたぼくの奥底からの告白である。

プロフィール

金沢知樹(かなざわ・ともき)
1974年、長崎県生まれ。お笑い芸人としてデビューし、後に様々なバラエティ番組に構成作家として参加。2003年、お笑い芸人数名と共に「劇団K助」を旗揚げし、主宰を務める。映画『サバカン SABAKAN』で初監督を務めたほか、TBS『半沢直樹』やNetflix『サンクチュアリ -聖域-』など、話題のドラマの脚本も手掛ける。

「劇団K助」公演情報

■舞台『幽霊でもよかけん、会いたかとよ』
2023/11/11,12
福岡県 レソラNTT夢天神ホール
■舞台『ドブ家族』
2023/11/29〜12/3
福岡県 ぽんプラザホール

掲載号紹介

小説 野性時代 第240号 2023年11月号
編 小説野性時代編集部
発売日:2023年10月25日
商品形態:電子専売

赤川次郎&近藤史恵&朝比奈あすか&秋吉理香子&櫛木理宇の新連載5本スタート! 秋の短編ミステリ特集として五十嵐律人&羽生飛鳥の読切も掲載!

【新連載】
赤川次郎――三世代探偵団 愛と哀しみへの逃走
三世代探偵団が戻って来た!
友人とのお出かけ中の有里は宝石強盗に遭遇して――。

近藤史恵――風待荘へようこそ
ここは古い京町屋のゲストハウス。
帰る場所をなくしたわたしは、新たな人生を歩み始める――。

朝比奈あすか――普通の子
美保は小学校に送り出したはずの一人息子が
まだ玄関にいることに気づき、言い知れぬ不安を覚える。

秋吉理香子――殺める女神の島
外見と内面の美を競い合うミスコンの最終審査。
この中で一番嘘つきの殺人犯は誰?

櫛木理宇――死蝋の匣
惨殺死体が暴く、ジュニアアイドル界の闇。
元家裁調査官・白石&刑事・和井田のコンビふたたび!

【読切】~秋の短編ミステリ特集!~
五十嵐律人――閉鎖官庁
官庁訪問で高校時代の同級生と再会した綾芽。
父親が雪山で遭難した事件の相談を受けるが……。

羽生飛鳥――盗賊小殿の種明かし
時は鎌倉時代。元・伝説の大盗賊が告白する、
難事件の真相とは。華麗なる歴史ミステリ。

【連載】
秋山寛貴(ハナコ)――人前に立つのは苦手だけど
阿津川辰海――バーニング・ダンサー
伊吹有喜――銀の神話
今村翔吾――天弾
恩田 陸――産土ヘイズ
垣根涼介――武田の金、毛利の銀
河崎秋子――銀色のステイヤー
新川帆立――目には目を
増田俊也――七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり

【コラム】
告白します――金沢知樹「告白」
告白します――三本雅彦「ずるい大人になりました」

【記事】
Book Review「物語は。」吉田大助
――伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』

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