KADOKAWA Group
menu
menu

連載

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」 vol.15

【連載コラム「告白します」】米原 信「異性装」

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2025年5月号」に掲載された内容を転載したものです)

米原 信「異性装」
【連載コラム「告白します」】

 異性装って、どうしてこうも魅力的なのだろうか。
『ベルサイユのばら』のオスカルは男装の麗人。シェイクスピア『十二夜』のヴァイオラは男装して不思議な三角関係を生み出す。我が国ではしずかぜんみなもとのよしつねの愛妾である以前に、彼女はしらびよう――男装の踊り子だ。男装の麗人万歳、さもなければ宝塚歌劇も存在しないことになる。現実には存在し得ない男性の理想像を、女性がかたどることにより描き出すのが男役。男装はかっこよかったり、少年らしさを引き出したり、ギャップ萌えを生んだりする。
 女装だって負けてはいない。日本人は女装が大好きだと思う。「打ち込む浪にしっぽりと、女に化けて美人局つつもたせ」――べんてんぞうきくすけという女装盗賊が、その美貌で美人局を働く。そんな歌舞伎を百五十年以上も上演しているのだから、だいたいお察しというところさ。女装男子万歳、さもなければ歌舞伎の女形も存在しないことになる。女形は、時に現実の女性よりも生々しく女性である。
 しかし、まあ、「やってみよう」と思い立ってふいっと人生初の異性装、街を闊歩しても気づかれず――なんていうのは、フィクションの世界だけのこと。現実はなかなかどうして、異性装をやるにはそれ相応のスキルが要る。だからこそ宝塚の男役も歌舞伎の女形も商売になるのだし――はっきり言って、初めての異性装で美しく仕上がれば奇跡だ。
 何が言いたいかというと、この米原信(二十代男性・歌舞伎オタク)はミスコンに出たことがあるのだ、それも人生初の女装をして。
 まあ女顔ではあるし、なんとかなるか……?と思ってエントリー。とはいえメイクの仕方などさっぱりわからず、何をどうすればまともな女装になるのかと日夜考えたがらちが明かず。ネットで適当なワンピースを買い、安く揃えたメイク道具で見よう見まねでこしらえてはみたが――見慣れた歌舞伎の女形のようにはいくわけがない。蓋を開けたら、どこからどう見ても口紅をさしただけの哀れな男。当時十七歳、髭を剃ったくらいでは誤魔化せない程に骨格からして男だった。
 結果、どっと満座の観客が沸いた。げらげら笑いの輩もいた。他の連中はよっぽど可愛く美しく、かたや前座にすぎずランクインもせず。なのに、この米原の写真が卒業アルバムにおさまったのは、なんの因果か?――そう、これは真っ当なミスコンではない。高校時代、男子校に通っていた。そこの文化祭の名物企画こそ、女装男子コンテスト・通称「ミスコン」だったのである。
 今、小説を書きながら思う。文字の上なら男装女装何でもござれ初手でも誰でも大成功、なんと自由な世界だろうか。

プロフィール

米原 信(まいばら・しん)
2003年、群馬県生まれ。22年「かみかけて信が大切」で第102回オール讀物新人賞を19歳という史上最年少で受賞。9歳のとき、からくり人形芝居『忠臣蔵』を観たことで興味を持ち、仮名手本忠臣蔵の絵本から歌舞伎にハマっていく。観劇に通うとともに、演目図鑑や『歌舞伎年表』を暗記する勢いで読みふける。現在は東京大学文学部で学び、さらなる歌舞伎道を邁進中。

書籍紹介



書名:かぶきもん
著者:米原 信
発売月:2025年01月

第102回オール讀物新人賞を受賞した作品を含む短編集。幼い頃から歌舞伎や演劇に親しみ、どっぷり浸かってきた著者が全身全霊で書き上げたデビュー作にして会心の勝負作。

掲載号紹介



書名:小説 野性時代 第257号 2025年5月号
編:小説野性時代編集部
発売日:2025年04月25日
商品形態:電子専売

安部若菜の新連載がスタート! ブレイディみかこの人気読切「私労働小説―ザ・シット・ジョブ―」も掲載。第16回 小説 野性時代 新人賞の受賞作発表も。GW中に読みたい小説が満載の最新号!

【新連載】
安部若菜――描いた未来に君はいない
「私のこと、殺してくれる?」この約束を僕は叶えられるだろうか。
『アイドル失格』の新鋭が挑む、恋愛小説!

【読切】
ブレイディみかこ――ある督促ガールの手記 私労働小説―ザ・シット・ジョブ― 
信販会社で働くことになったあたしは、入社2週目にして督促の電話をかけることになった。覚悟を決め、番号をプッシュすると……。

【発表】
受賞作決定! 第16回 小説 野性時代 新人賞

【連載】
赤川次郎――三世代探偵団 愛と哀しみへの逃走
安壇美緒――イオラのことを誰も知らない
阿津川辰海――デッドマンズ・チェア 
伊岡瞬――獲物
伊吹有喜――銀の神話
梶よう子――雷電
坂井希久子――大江戸ぐるまん
永井紗耶子――青青といく
馳星周――海霧(ジリ)
藤岡陽子――青のナースシューズ
増田俊也――七帝柔道記 3  友たれ永く友たれ
群ようこ――暮らしはつづく
森沢明夫――ハレーション

【コラム】
土屋うさぎ「塾講師と自己開示」
米原信「異性装」

【書評】
Book Review 物語は。 吉田大助
長岡弘樹『交番相談員 百目鬼巴』

【新人賞】
第17回 小説 野性時代 新人賞 応募要項
第46回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞 応募要項

https://www.kadokawa.co.jp/product/322502000314/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら


MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年5月号

4月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年5月号

4月4日 発売

怪と幽

最新号
Vol.019

4月28日 発売

ランキング

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP