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連載

10年かかりました。『角川新字源』大改訂。 vol.9

【帰ってきた『角川新字源』特別記事 第1回】iOS版ついに物書堂から発売! アプリ制作のコダワリを探れ!

10年かかりました。『角川新字源』大改訂。

皆さんお久しぶりです!
『角川新字源 改訂新版』の発売からあっという間に2年間。
辞書編集部では着々と次の辞書を作っていますが……ビッグニュースをお伝えしたくて、我慢しきれず、戻ってきました。


※画像タップで拡大表示


 ▷辞書編集部マンガ『じしょへん』作者・久木ゆづるさんからも応援イラストが届きました!

なんと、ついに、ついに『角川新字源 改訂新版』のiOS版が発売となりました!
待ちに待っていた電子版、その第一弾はスマートフォン。しかも発売元は、辞書アプリといえばその名も高き物書堂です。
会社設立以来たくさんの辞書アプリをヒットさせ、たとえばタッチスクリーンを100%活かした直感的なグリッドUIの三省堂「大辞林」や、日本最大の国語辞典を圧縮した小学館「精選版 日本国語大辞典」など、今もなお話題を呼びつづけるスターメーカー。
辞書大好きの皆さんならご存じのはず。
(ちなみに、「大辞林」は「角川類語新辞典」とも連携可能!)

というわけで今回は、物書堂の代表取締役を務める廣瀬ひろせ則仁のりひとさんにお話しを伺ってきました。

数々の名アプリを世に送り出しつづける小さな巨人「物書堂」のものづくりとは?
今週から全2回でお届けします!
____________________



[聞き手]坂倉 KADOKAWA辞書事典編纂室に所属。現在は『皇室事典 令和版』の編集作業の真っ最中です。こちらも11月末発売予定!



株式会社 物書堂
iOSアプリやMacのテキストエディタなどを手がけるアプリベンダー。株式会社エルゴソフトに所属していた廣瀬則仁、荒野あらの健太けんたによって2008年に設立。革新的なUIをそなえた三省堂「大辞林」アプリが2009年にApple社iPhoneのTVCMに起用され、大きな話題を呼んだ。2018年時点での辞書アプリ累計販売本数は120万本。


「角川新字源 改訂新版」
2019年11月1日発売 価格 3,060円(税込)
https://www.monokakido.jp/ja/dictionaries/shinjigen2/index.html
※iOSアプリ「辞書by物書堂」内の辞書コンテンツです。
ただいま特別価格2,080円(税込)で発売中!
(11月30日まで)

「辞書by物書堂」製品仕様
https://www.monokakido.jp/ja/dictionaries/app/
・価格 無料(各種辞書コンテンツは有料となります)
・バージョン11.0以降のiOSがインストールされた iPhone、iPod touch および iPad
・約25MBの空き容量
Apple App Store よりダウンロード可能

     * * *

物書堂ができるまで

坂倉:今日はどうぞよろしくお願いします。「角川類語新辞典」以来、ごぶさたしています。いよいよiOS版「角川新字源 改訂新版」の発売ですが、せっかくなので今回はいろいろ聞かせてください。

廣瀬:よろしくお願いします。ようやくですね。

坂倉:廣瀬さんといえば、辞書アプリの業界では皆さまご存じの制作者ですが、そもそもなぜこの業界に入られたんでしょうか? まずは自己紹介がわりに。

廣瀬:僕らは最初、Appleのサードパーティ的なソフトウェア会社(株式会社エルゴソフト)に所属していて、Macのソフトを作りながら12年くらいすごしました。当時Appleの業績はかなり落ち込んでいて、特に日本市場の冷え込みはすごく、Macなんか年間販売30万台を切って、さらに下がりつづけていたという状況です。
 これはもう廃業したほうがいいな、ということになって、僕と荒野はMacのワープロソフトでも作って食べて行こうと独立しました。しかし、独立直後に届いたのがiPhoneというスマートフォンを出すというニュースで、App Storeで自由にアプリ販売できることを知って驚きました。これはすごいぞと。この素晴らしいプラットフォームを盛り上げるために、自分も何かアプリを出さなくてはと考えたんです。
 でも、最初の頃のiPhoneってバカにされていたじゃないですか。


廣瀬則仁さん


坂倉:うーん、確かにあの頃は、「アメリカから来た携帯電話(スマートフォン)がどれほどのものだ」という空気があったような気もしますが。

廣瀬:ガラケーを使っていた人たちからも「何ができるの?」と言われていたり。でも僕は見た瞬間から、それはちがう、今までできなかったことができると考えました。その時点で、iPhoneの日本発売まで一か月くらいしかなかったけれど、非常に限られた時間で何ができるのかと考えたのが辞書なんです。
 三省堂さんの辞書ビューアを手がけたことがあったので技術的な蓄積もあったし、その三省堂さんがぽっと出のベンチャーだった僕らにライセンスしてくれたおかげで、App Store開設当初からの定番デベロッパーになることができたんです。

坂倉:今から10年以上前ですよね。僕がiPhoneを最初に見たのもその頃、会社で誰かが使っていたiPhone3……。

廣瀬:3Gですね。2008年の7月(App Store開設も同時)。最初期にiPhoneを使っていたのはもともとMacユーザーでApple大好きという人が多かったと思います。アプリ第一弾の「ウィズダム英和・和英辞典」(三省堂)は大きな反響をいただきましたが、僕たちはそれ以外の多くの人にもスマートフォンっていろいろなことができるんだよと伝えたかった。だからその次は六法全書をリリースしました。
 このチョイスは意外かもしれませんが、新しいものにまだ触れていない人たちの「こんなことってできる?」という声に応えたかったというか、法律だって検索できるぞというか。その次は第二外国語ということで「プチ・ロワイヤル仏和辞典」「プチ・ロワイヤル仏和・和仏辞典」(旺文社)と、満を持して中型の国語辞典「大辞林」(三省堂)という順番です。

坂倉:かなり戦略的じゃないですか。それにしても10年ちょっとで大きく様変わりしましたよね。今やアプリといったらスマートフォンですよ。おかげで、ものを調べるという行為自体が激変しました。

廣瀬:そうなんですよね。ネット回線の存在はもちろんですが、それを支えるハードウェアの進化もすごくて、今のところプロセッサの性能もムーアの法則そのままで進化しています。iPhone 3Gの解像度が320×480(163ppi、3.5インチ)ですから、最新のiPhoneで表示するとびっくりするくらい小さくなります(※01)。それにつれてデータの容量も大きくなっていて、図鑑アプリだと写真が……4Kの解像度がないと見劣りするようになったので大変です。そんな高解像度で撮ったデジタルデータなんてそうそうない。

坂倉:わかります。出版社内でもちょっと前は「データがないなら昔のポジを引っ張り出してきてスキャンしよう」と言ってたのに、今はディスプレイの解像度が高すぎて、アラが見えて使いにくい。

廣瀬:フルHDまでは対応できたのに、4K以上で見たらザラザラ。今やiPhoneで撮影した映画作品がある時代ですからね。それからまた12年。時間が経てば大手がドンと大型タイトルを出すだろうから、みんながやらないところをやろうと思っていたんですが……。

坂倉:今や、物書堂さんが大手ですからね!

辞書はお守り

坂倉:今回の『角川新字源 改訂新版』はもちろん紙の辞書が元になっているわけですが、電子版の辞書の利点について、廣瀬さんはどう考えていますか? たとえば紙と比較して。

廣瀬:電子版の辞書にもいろいろありますが、「いつでも、誰でも、お気軽に」という点で、お守りみたいなものだと考えています。いつでも買えるし、重さもない。必要に応じて改良(アップデート)もできます。データさえあれば音声も聞けるし、動画も見られるという、マルチメディア的な機能があったりもする。その点では便利ですよね。
 検索方法についても、本と同じ定番の検索はもちろん、たとえば漢和辞典は部首や画数、読みなどいろいろな方法で検索できますが、それに加えてピンイン(※02)や熟語で検索したり、手書き検索したりすることも可能です。データで実現できる検索方法はとりあえず何でもやってみようと思っています。アイデアがあればぜひお願いします。



坂倉:ちなみに、漢和辞典ごとの個性を感じたことはありますか?

廣瀬:漢和辞典の引き方って、各社あんまり差異がないんですよ。でも、引きはじめてから辿りつくまでの“引きやすさ”には差があるなと思います。店頭で内容のちがいまではわからなくても、ぱっと見て「わかりやすいな」と感じたものを選ぶかもしれない。アプリ化する際にも、その感覚は大事にしたい。たとえば『角川新字源 改訂新版』は、漢字そのものの楽しさやおもしろさみたいなものを知りたいときに、すぐに教えてくれる感じがします。漢字の歴史というか、自分たちの文化の変遷や進歩にここまで触れられる辞書はちょっと他にないんじゃないでしょうか。

坂倉:おおー、ありがとうございます。できるだけ多くの人に手にとってもらいたいのは当たり前として、辞書アプリのお客さんがどういう人なのか意識したことはありますか?

廣瀬:アプリだとそこはよくわからなくて、SNSを通じて知ることができるくらい。感じたのは、まず第一に辞書がすごく好きな方。辞書ってたくさん持ち歩けないじゃないですか。だから「串刺し検索」でわーっと検索されているようです(※03)。
 それに仕事で使われる方。明日からイタリアへ行くからイタリア語の辞書を持っていこうとか、外国語の辞書が多いですね。
 そして最近増えたのが、SNSなどで発信するために正しい言葉遣いを知りたい方。誰でも「こんな言い回しで良かったっけ」なんて不安に思ったりしますよね。類語辞典もよく使われているみたいですよ。

坂倉:まず専門家、あるいは辞書好きな人が使うというのはわかります、わかります。三番目のカテゴリは現代だからこそかもしれませんね。多くの人がSNSだったりブログだったりで発信することが多い時代ですし。Instagramに写真をアップしたって文章をつけちゃう。

廣瀬:となると、やっぱり辞書アプリを入れておきたいみたいです。持っているといざというときに安心できる。そういう意味ではやっぱりお守りですね。

坂倉:その点では、書棚から動かすことのできない紙の辞書と一緒ですね。使ってないじゃないか、なんて言われても、いつ使うかわからないから捨てられない。

電子版だからできること

坂倉:昔の電子辞書はシニア層の方が使ったり、受験生が使ったりするイメージが強くありました。最近はそうでもないということでしょうか。

廣瀬:皆さんそれぞれの使い方があって“層”という言葉で括りにくい気はします。もちろんシニアの方もいます。以前も80代の方からお電話があって、ロシア語の辞書がほしいと仰った。でも、デバイスをお持ちじゃなかったんですよ。

坂倉:なのに、物書堂さんに電話を?

廣瀬:そう、電話番号もとくに公開してないのに(笑)。とりあえずどういう用途か聞いてみたら、今度一人でウラジオストクに行くという。それは楽しみですね、だったらiPadが良いですよ、すぐ買えますよと案内しました。そうやって新しい一歩を踏み出されるときにお供にしてくれる方もいらっしゃるんですよね。iPadなら字も十分大きくできるので、高齢の方でも大丈夫。
 それに、ハンディキャップへの対応もできます。たとえばiPhoneというデバイスは見えなくても使えるようにデザインされていて、最新OSのiOS13は音声で操作することもできます。画面をタッチすると、そこに何があるかを声で教えてくれる。僕たちのアプリもそういった機能を活用しています。点字の辞書はまだまだ数が少ないので、これは利点と言ってもいいと思います。



坂倉:ちょうどマラケシュ条約という国際条約や、「読書バリアフリー法」が制定されましたよね(※04)。そのために出版社側ができることって何でしょうか。

廣瀬:見えれば何となくわかるのに、見えないとわからないことはたくさんあります。すべての読み上げられる音声を聞くわけにもいかない。だから、大事なことはコレですよ、最初にここを読み上げてみてください、というサマリーがあるだけでも利用しやすくなります。すぐに準備するのは難しいかもしれませんが、IPA(国際音声記号)のデータが入っていれば、機械がそれを読み上げることができるようにもなります。

物書堂のコダワリ?

坂倉:設立以来ずっと辞書のアプリを作りつづけていますが、なぜ辞書なんでしょうか。そのこだわりを聞きたいです。

廣瀬:ええと、こう言うと怒られるかもしれませんが……。

坂倉:え?

廣瀬:実は、辞書にこだわっているつもりはないというか、辞書そのものにはそこまで……。


坂倉:ちょっと大胆な発言が……? いやいやいや、ええ!

廣瀬:ええっと、辞書を作っている人たちは本当のプロばかりで、口を出したくないというか。何て言えばいいんだろう、辞書を作る人がいて、使う人がいて、その“つながり”が大事だと思っているんです。僕たちはその中間にいるんじゃなくて、少し角度のちがうところにいて、それを助けるようなイメージです。

坂倉:でも、物書堂さんのアプリを通して多くの人が辞書に触れていますよね?

廣瀬:そう表現されると辞書の代弁者に聞こえますが、そうではなく“つながり”をアプリで強化しているだけというか……。他のアプリをやりたい気持ちもありますが、おかげさまで多くの方から次はこの辞書が使いたいと言っていただけているし、僕たちもできるだけ多くの辞書を紹介したい。長く使えるように既存の辞書アプリのアップデートもしつづけている。結果として今日も辞書アプリを作っています(笑)。

坂倉:辞書の編集部からすれば、ありがたい話です。物書堂さんのような方々がいらっしゃるおかげで、もっと多くの人に、もっと多くのシーンで使っていただけるわけですから。
 さて後半では、いよいよiOS版「角川新字源 改訂新版」の機能と、辞書アプリの未来についてお聞きします。乞うご期待!



次回予告
帰ってきた『角川新字源』特別記事
第2回 iOS版ついに物書堂から発売! 便利すぎる機能を探れ!
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※01
最新最強のiPhone11 Pro Maxの解像度はついに1,242×2,688(458ppi、6.5インチ)。縦横比のちがいはあれど、だいたい3倍です。

※02
普通の国語辞典は五十音順、英和辞典はアルファベット順で検索できますが、漢和辞典はその漢字が読めないということを前提に、部首から探したり、総画数で検索したりする機能が充実しています。『角川新字源 改訂新版』では現代中国語での読み方をピンイン(拼音)で掲示していて、アプリではそれも検索手段として用意されたということです! 中国語学習者にもおすすめ!

※03
最近、物書堂さんの辞書アプリは、複数のタイトルがひとつにまとまって「辞書by物書堂」に進化しました。これを使うと、複数の辞書をまとめて検索できるのです。たしかに、紙の辞書ではなかなか難しい使い方です。

※04
マラケシュ条約と読書バリアフリー法:前者は、日本も2018年に批准した国際条約。正式名称を「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」といい、視覚障害などによって読書に困難がある人々の“読書飢餓”状態の解消を目的としています。世界盲人連合(WBU)によれば、多くの国において点字や録音図書など利用しやすい形態の書籍の発行は十分な状況でなく、先進国でも全出版物のうち数%にとどまるとか。また、2019年6月には国内でも読書バリアフリー法案が可決し、利用しやすい図書館の整備やネットサービスの強化などの施策が盛り込まれました。これらが両輪となってより多くの人が本にアクセスできるような状況が望まれています。

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