【連載小説】追い詰めた二人 ──特殊犯罪に挑む女性刑事たち。 矢月秀作「プラチナゴールド」#13-2
矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
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つばきとりおが、ホテル・シーサイドランドに到着したのは、午後九時を回った頃だった。
フロントで身分証を提示し、永正の宿泊状況を訊いてみる。
宿泊が確認できた。
つばきはロビーから
「杉さん、永正の宿泊が確認されました」
──そうか。でかした。
「どうしましょう?」
つばきが指示を仰ぐ。
りおはエレベーターホールの方を見ていた。
と、細身の男が現われた。七分袖のポロシャツに麻のパンツという軽装だ。が、腕時計は格好に不似合いな赤いベルトの文字盤が大きいGーSHOCKだった。
おしゃれなんだか、なんなんだか……と思いつつ、男の横顔を見たりおは、目を見開いた。
「先輩」
小声で呼びかける。が、つばきは電話で話していて、りおを見ない。
「先輩!」
りおは隣にいるつばきの肩を二度、三度と
「もう、何?」
「永正です!」
りおの言葉を聞いて、振り返る。
りおの視線を追って、細身の男をじっと見つめる。永正耕太だった。
永正はあたりを見回すように顔を振った。
つばきはスマートフォンを下ろし、りおと共に背を向けた。
りおはスマートフォンを取り出した。画面を見るふりをして、黒いモニターに映る背後の様子を確認する。
「永正がホテルを出ます」
りおが伝えた。
つばきはりおの陰に隠れ、スマホを耳に当てた。
──どうした?
杉平が訊いてくる。
「永正がホテルを出ました。家族の姿はありません。至急、ホテルに応援を回してください。私と
電話を切る。
「あんた、永正を見張って。車を回してくるから」
りおの二の腕を叩いた。
りおは首肯し、永正の後を追う。つばきはホテル東側にある駐車場に走った。
りおは小走りで玄関を出た。
永正はベルマンに声をかけている。りおは柱の陰に隠れて、様子を
まもなく、タクシーが一台、ロータリーに回ってきた。そのタクシーに乗り込む。
りおはスマホでタクシーの全体像を写した。行方を目で追う。タクシーがロータリーを左に曲がり、姿を消す。
りおはロータリーの端まで走った。タクシーは道路に接する門柱の前で
十秒後くらいに、つばきの運転する車がロータリーを回ってきた。りおを認め、そこまで車で移動しながら、助手席の窓を開ける。
脇に停めて、声をかけた。
「彩川!」
りおはすぐ助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。
タクシーが左折し、門柱の先に消えた。
「今、左に曲がったタクシーです」
りおが言う。
「
つばきは指示をし、アクセルを踏んだ。
りおは無線機を取って、蘭子に呼びかけた。
──どうした、彩川。
「永正耕太が一人で動きだしまして──」
状況を伝えようとすると、つばきが横から声を張った。
「蘭子! 今から言うナンバーを追跡して。千葉530あの35──」
視界に捉えているタクシーのナンバーを告げる。
──わかった。追跡ナビはタブに送る。
そう返事をし、通信を切った。
「ずるい、先輩! 私が蘭子さんに言おうと思ったのに」
「誰が言おうが、伝わりゃいいんだよ。タクシーは今どこ?」
つばきが言った。
りおは車載タブレットを操作し、地図データを出した。まもなく、蘭子から追跡データが送られてきた。
永正の乗ったタクシーを示す赤い点滅は北東へ進みだした。
「海岸沿いを北東方向へ走ってますねー。どこに行くつもりなんだろう?」
りおが言う。
「しっかり見ててよ」
「任せてください!」
りおは右手を握って見せた。
つばきは小さく笑い、タクシーのテールランプを見つめて、車を走らせた。
タクシーは
産業道路といっても、狭めの片側一車線で街灯もほとんどない。道路脇には住宅や貸別荘、ビニールハウスがぽつりぽつりとあり、雑草に覆われているところも多い。
進むほどに暗さが増す。
つばきは少し速度を落として、距離を取った。
「今、どのへん?」
訊く。
りおは指でタブレットを操作し、地図をずらした。
「
「どこに向かってる?」
「えーと……このまま走ると、
地図を見ながら伝える。
「でも、ビーチラインに出るのかなあ」
りおがつぶやく。
「なぜ?」
つばきが訊いた。
「いえ、ホテルを出て左折したところがビーチラインだったので、ビーチラインを進むつもりなら、作田川を越えたあとわざわざ産業道路に入る必要はなかったと思うんですけど」
地図を確かめ、首をかしげる。
「一応、警戒してるんじゃない? ごらんの通りの道だから、尾行されていればすぐにわかるだろうし」
フロントガラスの先を見る。
▶#13-3へつづく