【連載小説】追跡再開 ───特殊犯罪に挑む女性刑事たち。 矢月秀作「プラチナゴールド」#12-4
矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
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「杉平さんって、優しいんじゃなかったんですか?」
りおはあくびをしながら、助手席に乗り込んだ。
「杉さんは休ませてくれるつもりだったんだよ。張り切った
つばきは話しながら運転席に乗り、シートベルトをした。エンジンをかける。
カーナビの検索窓に〝ホテル・シーサイドランド〟と入れ、検索をかけた。
すぐに候補が見つかる。千葉県
車をゆっくりと発進させる。
ナビに従って、走り始めた。
杉平は、りおたちの話を聞いてすぐ、永正耕太の子供の就学状況を調べ始めた。主に電話での問い合わせで、他の捜査員も含めて進めていたところに蘭子が来た。
蘭子は永正耕太の小学生の息子の写真を入手し、画像検索をかけた。
すると、瞬く間に息子の姿が映った防犯カメラ画像がヒットした。ほとんどが九十九里町にあるホテルやスーパーマーケットだった。
検索結果を基に、杉平が九十九里町の教育委員会に問い合わせたところ、息子は特別事由で、町立の小学校に区域外就学していることがわかった。
さらに調べたところ、永正耕太と妻子は、ホテル・シーサイドランドに長期滞在していることが判明した。
杉平は手の空いている捜査員を先に派遣しようとしたが、つばきとりおが仮眠室にいることを知り、蘭子がわざわざ呼びに来た。
「ほんと、余計なことするよなあ、蘭子は」
つばきが苦笑する。
「でも、最後まで自分らでやんなきゃ、気持ち悪いだろうっていう蘭子さんの意見、すごくわかります。入院までしたのに、このまま終わるってのは納得いきませんし」
りおが言う。
つばきも同じ思いだった。
永正耕太が今回の事件にどう関わっているのか、わからない。まったく関係ないのかもしれないが、永正鉱業社が深く関わっている以上、登記上の代表である永正に話を聞かないことには終われない。
「私が運転しましょうか?」
りおが言う。
「また、路肩に突っ込まれるのはごめんだからね」
「ひどい!」
りおは口を
横目で認め、くすっと笑う。
りおのスマートフォンが鳴った。バッグから取り出し、電話に出る。
「もしもし、彩川です」
りおが答える。蘭子からだった。りおはスピーカー通話にした。
──今、どこ?
車内に蘭子の声が響く。
「まだ、都内です」
りおが答えた。
──向かってるのね。
「起こされたからねー、誰かさんに」
つばきが毒づく。
──そのくらい声が出てりゃ、大丈夫だ。
蘭子は電話先で笑った。
「
──聞こえてんぞ。
「聞こえるように言ったんだよ」
──性格悪いねえ、相変わらず。
「お互い様だ」
つばきは言って、笑った。
「で、なんかあったの?」
切り替えて、訊く。
──朗報かどうかわからないんだけどさ。ホテルの防犯カメラ映像で、永正耕太の姿も確認できたよ。
「やっぱり、家族で滞在してたんですね」
りおが加わる。
──そういうことだろうね。そこはいいんだが、姿がな……。
「姿がどうした?」
つばきが訊く。
──車載タブに画像を送るよ。
キーボードを操作する音が聞こえてきた。待っていると十秒ほどで車載タブレットに画像が届いた。
細身でちょっと薄毛の中年男性が映っている。
「蘭子さん、画像間違ってますよ」
りおが言う。
──間違ってねえんだよ。そいつが永正耕太だとの結果が出てる。
「マジですか!」
りおの声が
つばきが路肩に車を
「失踪前の写真と近いね」
──ああ。それで、もう一度、前の画像を調べてみたんだけどな。どうやら変装してたようだ。何枚も重ね着して体を大きく見せたり、
「付け髭だったんですか?」
りおが訊いた。
──おそらくね。ギリギリまで拡大すると、もみあげや鼻下のあたりに怪しい
「そんなに変装してまで、ARC本社に姿を現わしたということか?」
──そう考えるのが妥当だね。あの会場に姿を見せなきゃ、行方が割れることもなかったんだし。
「蘭子、他にも永正耕太が立ち寄っているところがないか、調べてくれる?」
──もうやってるよ。また何かわかったら、連絡入れる。
答え、蘭子は電話を切った。
「本人に訊いてみるしかなさそうですね」
りおが言う。
「そういうことだ。急ぐよ」
つばきはブレーキペダルから足を放し、アクセルを踏み込んだ。
▶#13-1へつづく