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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.41

【連載小説】鍵となる男 ──特殊犯罪に挑む女性刑事たち。 矢月秀作「プラチナゴールド」#11-3

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
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     5

 永正の姿が認められたというオフィスビルの捜査に加わったつばきは、午後六時すぎに他の捜査員と共に本庁へ戻ってきた。
 永正は発見できなかった。永正の写真を入手し、それとなく、ロビーにいた者や受付の者、警備員などに聞き込みをしてみたが、確証は得られなかった。
 念のため、ビルの防犯カメラ映像を入手し、蘭子に解析してもらっている。
 三課の部屋で待っていると、つばきが戻って三十分後に、蘭子がやってきた。
「おー、椎名。退院、おめでとう」
 蘭子が手を上げてみせる。
「今頃か」
 あきれて笑う。
「どうだった?」
 杉平が訊いた。
「やっぱり、永正耕太という結果になりました」
 蘭子はつばきの隣に椅子を引っ張ってきて座った。
 つばきのデスクにあるノートパソコンを起動して、警視庁内のデータベースにアクセスする。
 蘭子が撮影してきた動画やセミナーが行なわれたオフィスビルの防犯カメラから採取した画像を解析した結果が並んでいる。
 蘭子は検索窓に〝永正〟と入れ、ソートした。永正耕太という名前の下に、二十枚ほどの画像が表示される。
 そのうち数枚は、顔がはっきりと認識できるものだった。
ひげを生やしているのか」
 杉平が二人の後ろからモニターをのぞき込む。
 画像の男は、もみあげから口周りに至るまでびっしりと黒々とした髭を蓄えていた。髪の毛も長めで、スーツに包んだ体もふくよかだ。
 杉平たちが手に入れていた清廉せいれんな感じでどちらかといえば細身だった永正とは別人のようだった。
「これ、本当に永正なの?」
 つばきが怪訝けげんそうに首をかしげる。
「画像の一、二枚だけが九十パーセント以上の一致率というなら別人の可能性もあるけど、二十枚もの画像で九十パーセント以上の一致って結果が出たなら、限りなく本人だね。マシンの目は先入観を持たずに特徴を照合するから」
「行方をくらましている間に、何があったんだ……?」
 杉平がつぶやく。
「少なくとも、監禁されてひどい目に遭ったということはなさそうね」
 つばきは画像を睨んだ。
「この男は、ロビーとエレベーター内、そして、二十階のフロアの防犯カメラに映ってた。二十階フロアには、ARCの本社があるよ」
 蘭子が言った。
「永正がARCの関係者ということ?」
 つばきが蘭子を見やる。
「それは、調べてみんとわからんな」
 杉平は言い、つばきの肩をポンとたたいた。
 つばきは顔を上げて首肯しゆこうした。
「蘭子、私のパソコンに永正の情報を集めるだけ集めて流して」
「OK」
 蘭子は言い、つばきのノートパソコンを操作し始めた。
 三日のうちに永正耕太とその家族がいそうな場所をいくつか割り出し、りおと共に捜索しよう。
 そう思いながら、蘭子の作業を見つめる。
 と、三課の部屋の奥から、大きな声が聞こえた。
「杉さん! 大変です!」
「なんだ!」
 杉平の声も大きくなる。
中岡なかおかを射殺したという男が出頭してきました!」
「なんだって!」
 杉平と同時に、つばきも声を上げていた。三課の部屋全体に緊張が走る。
 杉平が叫んだ捜査員の下に駆け寄る。つばきもその捜査員のデスクに走った。
「その男はどこにいるんだ?」
 杉平が訊いた。
江東こうとう区の城東じようとう警察署に出頭してきたそうです。今、城東署で取り調べをしています」
「椎名」
 杉平がつばきを見た。
 つばきはうなずいて、自席に駆け戻った。
「私は行ってくるから、帰るまでに永正の情報収集をお願い」
「わかった」
 蘭子が首肯する。
「課長に数名、ARCの本社が入っているオフィスビルの監視に回すよう伝えておいてくれ」
 杉平は近くの捜査員に伝えて、ドア口へ走った。
「椎名、行くぞ」
「はい」
 つばきはバッグを取り、杉平と共に本庁舎を出た。

▶#11-4へつづく


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