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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.36

【連載小説】実態のない企業とは? ──女性刑事二人が特殊犯罪に挑む。 矢月秀作「プラチナゴールド」#10-2

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

「杉さん、火災の件は調べつきました?」
 蘭子が訊いた。
「ほとんどの倉庫が、中岡の会社や永正鉱業社えいしようこうぎようしやと契約していたところだった。で、関わりのあるそれらの倉庫の出火原因は放火と断定されている」
「やはり、証拠隠滅に火を放ったんですね」
 つばきのつぶやきに、杉平がしゆこうした。
「燃えた廃材の中から、首都圏各地で頻発していた基地局窃盗の部品も出てきたよ。今、各都県の三課が合同で調べている」
「他にも吉祥寺きちじようじ渋谷しぶやの件と似たような事案があったんですか?」
「ああ。都心ほど大胆なものではないんだが、ちょこちょこと基地局の部品がごっそり盗まれるという事案が出ていた。散発的だったんで、各都県の担当部署は、鋼材の売買目的の窃盗だとみて、各担当部署で個別に捜査していたようだな。うちもそうだったが、渋谷と吉祥寺の件で、もしかしてと思って各署が照会したら接点が出てきたというところだ」
「それほど広域で盗みを繰り返しているということは、直接盗む連中はともかく、その後の販路や換金に関してはしっかりした組織がないと無理ですね」
 蘭子が言った。
「今のところ、中岡と永正が中心人物の一人ではないかとにらんで探っているが、二人とも雲隠れしたままだ」
 杉平が、捜査の進捗状況を話す。
 つばきが口を開いた。
「永正の行方も知れないのですか?」
「永正鉱業社が関わっているらしいと判明して以来、永正こうを捜しているんだが、姿を消したままだ。永正については、少し気になる情報もある」
「なんです?」
「永正の家は経堂きょうどうにある。小ぶりな一軒家で妻と中学生になる息子との三人暮らしだったそうだが、ここ半年、妻子も含めていなくなっている」
 杉平の顔が曇る。
 つばきと蘭子の表情も硬くなった。
「住民票は動いてない。家もそのままなんだが、息子は学校を休んでいて、家族の姿を見た近隣の人もいない」
「海外へ行ったのでは?」
 蘭子が言う。
「その線も調べてみたが、永正と妻子の出国歴はない。国内のどこかにいるんだろうが」
「ということは、永正鉱業社を運営していたのは、永正ではなかったということですか?」
 つばきが疑問を口にした。
「それもあり得る」
 杉平の返事を聞き、つばきはふと思い出した。
『永正の連中は荷の積み方も知らねえのか』
 ミネが倉庫でつぶやいていた愚痴だ。
 よく考えてみると、おかしな話だ。
 永正鉱業社は廃品回収業を主業にしている。そこの社員が廃材の積み方を知らないわけがない。むしろ、専門家と言ってもいい。
 しかし、ミネの口ぶりからすると、廃材を積んでいたのは、荷積みに慣れていない者のようだった。
「杉平さん。今、永正鉱業社で働いている人たちは、昔からの社員ですか?」
「どういうことだ?」
「倉庫で荷積みをしていた社員たちは素人同然だというような愚痴を、ミネという社長が口にしていたんです。永正鉱業社の業務から考えると、荷積みの素人であるはずはないと思うんですが」
「なるほど。それはいい線だな。少し調べてみよう」
 杉平が首肯する。
 蘭子が立ち上がった。
「私は、永正の家族の行方を調べてみるわ」
「サイバー班の仕事はいいのか?」
 杉平が訊く。
「私が調べてる案件は一段落しましたから」
「そうか。なら、ちょっと頼みたいことがあるんだが」
「なんですか?」
「ARCのセミナーに行ってきてほしい」
「サイバー関係じゃないんですか?」
 蘭子が目を丸くする。
「うちの連中はみな、放火の件で出払っててな。応援を頼もうと思っていたところだ。椎名や彩川の面がすぐ割れたということは、彼らがこっちの動きを警戒しているのは間違いない。できれば、現場にあまり出ていない者をと思っていたところだ」
「それなら、蘭子はうってつけですね。仕事でもプライベートでも、ほとんど表に出てないですから」
 そう言い、つばきが笑う。
「人をひきこもりみたいに言うな」
「ほんとのことじゃない。でも、そういう性格だから、ネットワークの追跡とかできるんだよ」
「そうだな。ありゃ、わしにはできん」
「なんか、褒められてる気がしないなあ」
 蘭子が苦笑する。
「そんなサイバーのプロフェッショナルに申し訳ないが、セミナー潜入、頼まれてくれ」
 杉平は顔の前で手を合わせた。
「杉さんにそこまで頼まれたら、仕方ないか」
 蘭子は渋々引き受けた。
「永正耕太と家族の行方は、私が調べます」
「大丈夫か?」
「あと二日も休めば、元通りですよ」
「無理はしてほしくないが、手も足りない。わかった。それは任せるから、二日間はしっかり休んで回復させること。いいな」
「はい」
 つばきは強くうなずいた。

▶#10-3へつづく


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