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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.25

【連載小説】無人の会社に潜入開始! ──女性刑事二人が特殊犯罪に挑む。 矢月秀作「プラチナゴールド」#7-3

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

「どうしたもんかなあ」
 シートにもたれ、ハンドルを指でトントンとたたきながら、次の方針を思案し始めた。
 考えながら、りおの様子をぼんやりと見つめる。
 りおは故障しているインターホンを何度も押していた。そして、大きな声で敷地内に呼びかけた。
「すみませーん! 誰かいませんかー!」
 つばきは苦笑した。
「それで出てくりゃ、苦労はないって」
 呆れながら眺めていると、目に何かのきらめきが飛び込んできた。
 つばきは体を起こした。
「また──」
 社屋や倉庫を見やる。
 社屋の右隣りにある倉庫の上の窓で、ちらちらと何かが光っていた。
 の光がガラス窓に当たって反射しているだけかとも思ったが、その光は揺れている。
 誰かいるな。
 つばきの瞳が鋭くなる。
 りおはしつこく呼びかけていた。
 つばきはりおのスマホにメッセージを入れた。
  〝そのまま呼びかけろ〟
 送信し、車から降りた。
 道路沿いの茂みに身を隠しつつ、敷地の右手に回る。倉庫からの死角となったところで路上に出て、左手の柵沿いに進み、倉庫の裏に出た。
 辺りを見回す。通用門があった。気配に神経をとがらせつつ、通用門に近づく。鉄柵に金網を張っただけの簡単な扉で、引いてみると簡単に開いた。
 素早く開いて侵入し、倉庫の壁沿いにプレハブ社屋の方へ進む。倉庫の陰にちょっとした広場があった。そこには白いワゴンが停まっている。
 タイヤやホイールもきれいだ。放置気味のトラックとは違い、動いていることは確かだった。
 その広場から通路が延びて、各建物の入口につながっている。
 倉庫やプレハブが邪魔となり、敷地内へ入らなければ確認できない場所だった。
「ここから出入りしてたのか──」
 つばきはスマホのカメラでワゴンと出入口の状況を写真に収めた。
 一階部分の倉庫の窓は、すべて目隠しされていた。真ん中の倉庫の端から、プレハブ社屋の様子を窺う。
 社屋に人の気配はない。窓は砂ぼこりで真っ白になっていて、しばらく開けられた様子もなかった。
 社屋から最も離れた倉庫を探る。通用口も搬出入口も開けられた形跡はある。ドアノブを回してみたが、鍵がかけられていた。
 人の気配がした社屋横の倉庫に進む。先程の倉庫と同じく、開閉している形跡はある。
 通用口のドアノブを回してみた。押すと、ドアが少し開いた。鍵はかかっていない。
 そろそろと押し開き、中を覗く。フロアには鋼材が無造作に積み上げられていた。壁沿いに階段があり、上部に通路がある。その通路を目で追う。
 と、正門に向いた窓あたりに人影があった。男性のようだ。背が低く、ずんぐりとしている。こちらに背を見せている男は、正門の方に目を向け、時折手に持ったスマホのようなものを掲げていた。シャッター音も響く。
 訪問者を監視しているというわけか……。
 ドアをさらに開き、中へ踏み込んだ。少し蝶番ちょうつがいが鳴る。男の背が揺れた。
 つばきはドアから手を離し、鋼材の山の陰に滑り込み、座った。背を当て、気配を窺う。
「誰だ!」
 男の声が響いた。
 その時、強い風が吹き込んで、ドアが大きく開いた。
「風か……」
 男のつぶやきが聞こえる。
 つばきは息を潜めてじっとしていた。
 すると、車の音が近づいてきた。倉庫の近くで停まる。ドアの開く音がして、複数の人間が降りてきた。足音が倉庫に近づいてくる。
 つばきは、さらに鋼材の山の奥へ進んだ。足先が倉庫内へ入ってくる。
「おい、こら!」
 野太い怒鳴り声が響いた。
 つばきはびくっとして身を沈めた。手元にあった鋼材の支柱をつかむ。一つの影が中へ入ってくる。
「開けっ放しにするなと言ってんだろうが!」
「すんません! 風で開いたみたいで」
 上から男の声が返ってくる。
「ドアを直しとけと言っただろう!」
「すみません!」
 怒鳴る男は居丈高で、びる男はひたすら平身低頭だ。
「ったく……」
 怒鳴っていた男が舌打ちする。
 後ろからまた二つの影が入ってきた。
「どうした?」
 落ち着いた声の男が声をかけた。
「うちのもんがだらしないんで、どやしてたところです」
「そう怒るな。力だけで抑え込んでも、人はついてこないぞ」
「勉強になります」
 怒鳴っていた男の声色に緊張がにじむ。
 声だけで、この場にいる男たちの関係性がわかる。
 倉庫で正門を監視していた男は、怒鳴っていた男の部下。落ち着いた声の男は、怒鳴っていた男の上司、あるいは上司のような存在の者。もう一つの影は、落ち着いた声の男の秘書のような存在か。
 いずれにせよ、落ち着いた声の男がこの場では一番力を持っているようだった。
 顔を見たい。しかし、ヘタに動けば、すぐさま見つかってしまう。
 つばきは歯がゆい思いで、じっと耐えた。

▶#7-4へつづく


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